JWCS会報バックナンバー収録

2015年7月 2日 (木)

NGOに 「一寸の虫にも五分の魂」 を  小原秀雄

 地球の危機が叫ばれて久しい。野生動物の保全に関心を持つ私たちには野生動物をめぐるできごとに、常に関心が惹きつけられる。野生動物の危機と地球生態系、ひいては地球の自然の危機につながるのを知ることは大切だし論拠がある。野生動物の衰退は地球の自然の不健康を示しているのだ。こう書いても、なんと抽象的な、といわれることは少なくなった。30年余り前には、話はわかりますがどうもねえ、つながりません。日常的なこととつながるように説明できませんかと問い返されたものだ。マスコミ関係の多くの人は現実から遠い話で、というのがキマリ文句で(断わりの)あった。

 しかしごく最近では全体としては余り変わらないながらも多少耳を傾ける人もあり広がりもある。というのは、異常気象が生まれて、それは自然が異常なことの象徴ではないかと思うようになったからだ。ちょうど体調が悪いと保健情報を気にするようにである。

 一方でまた、それにもかかわらず相変わらず捕鯨を推進する。象牙の密輸事件が登場する。こうした自然からの収奪は、生産されるモノとは全くちがう。象牙は成長した状態になるまで、生後50年はかかる。鯨も、生育するまで種によるちがいはあるが、20年以上かかる。現在の現実の動きにはいくつかの流れがあって、一様ではない。それがまた「コトバ」で伝えられて人間の認識、時には思いこみを作るといったことが起こっている。まさになんでもありの世の中だ。

 私たち人間は、「コトバ」によるコミュニケーションで情報や意志、思想、想いなどを伝える。今ここで書き連ねているのも「コトバ」である。「コトバ」は真実を伝えるとは限らない。だが見え見えのウソも、そのうちに馬脚を表す。しかし戦争中にも、また現在でも、知っても「後の祭り」という「宣伝」が広がる。

 一方で今もPRはまさに針小棒大が当然となった。現代人はそれにならされている。恐ろしいことに人間の内なるヒトに訴えたり伝える技術が発達していく。
 金のないNGOや小さい組織に比べて大企業その他はくり返しやテレビなどを通して圧倒的に信じさせる「方法と戦略」ができる。金と力だ。NGOの主張は正しくとも比べものにならない微弱な影響力である。確かなことは主張はそれなりに論理的であり、説得的であった。以前はマスコミでもそうした声を積極的にとり上げようとする努力もあった。

 ところが、企業に加えて行政は一応選挙で選ばれた首長や政府など民主的な手続きを経た権力に基づいて行う。捕鯨はその例である。さらに象牙を購入するのもその一つで、政府が経済発展を第一にしているのだから、こうした活動を活発化しようとの「大義」が大前提なのである。好景気を人々が望んでいるといえる。経済活性化が自然へのダメージとなるのを避けてなんとかと願うのは別として、こうした状態が続くことは地球の危機を高めていく。

 経済社会のグローバリズムの進行は、世界中で途上国をその流れにいやおうなしに巻きこんで行く。私は毎年東アフリカの自然と関係者に会っているが、野生生物界の危機につながる大きな流れの進行をひしひしと感じている。

 短い文章ではいいつくせないが、この大きな流れは世界的(いわゆるグローバリゼーション)で、途上国では自然資源を売ることで稼ぐ以外方法は限られている。難しい新しい方法を探って、なんとか自然を崩壊させずに経済発展をと願ってはいるのだが。
 小さいNGOながら巨大なこの流れからの転換へ力を尽くす方法は、JWCSと2つ考えられ、実践したい。

 一つは、欧米先進国内の良心的NGO、国際的な「真の」味方と協力して、戦略を立て少しずつ実践していくことである。残念ながら日本の野生生物保全NGOは戦略も新しい世界の流れの認識も欠けている。

 第二に、いいかげんなコトバや表現が充ちている中で、内実をともなったコトバを確かにしておくことだ。これは未来につながる。最近の事例ではわずか10%余りのクマの学習放獣に対し、射殺はなんと2,637頭である。(朝日新聞2006年10月31日)。それなのに学習放獣が大きく取り上げられるといった報道は戦略的である。

 JWCSも小さいからこそ大きな効果を考えつつ、内実ある提言などを残さねばなるまい。

(おばらひでお / JWCS会長・女子栄養大学名誉教授)


JWCS会報No.47 2006年11月を転載

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