CITES SC69

2017年12月 5日 (火)

最終日、センザンコウで投票

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最終日、12月1日はワーキンググループで決まったことの承認や報告で閉会するかと思いきや、今回の常設委員会で唯一の投票がありました。
それは今年1月から附属書Ⅰにリストアップされたセンザンコウの議題です。センザンコウのうろこは伝統薬の原料として取引されてきました。そして国際取引が禁止されても、多くの違法取引が発覚しています。意見が対立したのは、附属書Ⅰになる前に取引されていたうろこも、附属書Ⅰとして扱うかどうかでした。事務局は、これは締約国会議で決めるべき内容なので、次回の締約国会議まで附属書Ⅰとして扱うことは「指針だ」と強調し、ワーキンググループ案に賛成か反対かが投票にかけられました。
その結果、反対したのは中国、ロシア、クウェートだけで過半数が賛成したため、次回の締約国会議まで附属書Ⅰとして使うことになりました。

この問題は、象牙やサイの角の在庫の取引や、日本で見るからに若いスローロリスが「規制前取得」の登録票とともに売られていた問題と同じです。次回の2019年5月にスリランカで開催される締約国会議で注目される議題になると思われます。

第69回常設委員会の概要はEarth Negotiations Bulletin Volume 21 Number 99 に掲載されています。

またJWCSは常設委員会参加報告会を開催します。
12月21日(木)19:00-20:30 地球環境パートナーシッププラザ(東京)
詳しくはウェブサイトをご覧ください。

鈴木希理恵 JWCS

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ウナギ属の調査の議題で発言を求めましたが…

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常設委員会4日目(11月30日)は、昨年の第17回締約国会議で決定した、ウナギ属の調査についての議題が予定されていました。

会議文書では、ワシントン条約附属書Ⅱのヨーロッパウナギだけでなく、そのほかのウナギも調査するため、コンサルタントに依頼をした経緯の報告と次の常設委員会までの作業グループの設置の提案、そしてヨーロッパウナギの密輸の報告がありました。
JWCSは、東アジアに分布する二ホンウナギの資源管理が不十分で違法漁業が報道されていることなどを研究者とグリンピースジャパン、日本自然保護協会の協力を得て資料を作成しました。資料は日本語、英語、フランス語、スペイン語で作りました。
この印刷物は会議初日から会議場の資料コーナーに置き、関係者に二ホンウナギの調査が重要であることをアピールしていました。
この資料のデザインは、JWCSの会報を担当しているデザイナーさんです。目を引くイラストは国際会議の速報をインターネットで配信している、The International Institute for Sustainable Development (IISD)のEarth Negotiations Bulletin (ENB)に掲載されました。

他のNGOもウナギについての発言の予定がなく、二ホンウナギの状況はあまり注目されていないと感じたため、調査に力を入れてほしいと会議で発言するため、朝から準備をしていました。このJWCSで用意した意見には、Species Survival Network, the Animal Welfare Institute, Humane Society International, the Center for Biological Diversity が賛同してくれました。

会議終了予定時間は午後6時、ウナギの議題が始まったのは午後5時過ぎでした。翌日で会議は終わりですが、議事は初日に大幅に遅れ、今日の会議でだいぶ追いついてきたところでした。

ウナギについての二つの議題を事務局が報告し、EUと中国から違法取引に協力して対処していこうという発言があった後、締約国以外のオブザーバーからの意見が求められました。JWCSはネームプレートを挙げて発言を求めましたが、IUCNの発言だけで締め切られ
てしまいました。

次のローズウッドの議題は、附属書掲載種以外で木材として利用されている種の研究を提案するものでしたが、どのオブザーバーも発言の機会が与えられず、会場から不満の声が漏れていました。

会議終了後、賛同してくれた団体にあいさつに行くと「よくあることだよ」「また次があるよ」と声を掛けられました。それぞれ活動対象やフィールドの異なる団体が、関連する議題ごとに集まって情報を出し合い、議論し、協力できることはNGOの強みだと思います。
鈴木希理恵 JWCS

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2017年12月 2日 (土)

押収された生き物はどこへ

3日目、29日の議題の中に違法取引が発覚して押収された生き物をどうするかというものがありました(SC69 Doc.34.1)。
とくに今回は、締約国に行ったアンケート調査の結果が報告されました。回答したのは58か国でした。

一番多かったのは公共の動植物園水族館でした。次が指定されたレスキューセンター、3位は生息国で野生復帰、4位は承認された私設のサンクチュアリーなど、5位は安楽死、6位は大学・研究機関でした。中には売るという国もありました。
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野生復帰させるおもな動物はオウムで、レスキューセンターでの飼育はおもに肉食動物でした。
野生復帰には、捕獲された場所を正確に把握したり、飼育されている間に病気に感染してその病気が野生個体に感染しないか獣医がチェックしたりなど、慎重さが求められ、まただれの責任で行うのかがケースバイケースの状態です。
安楽死の基準もあり、最終手段であること、個体が伝染病の末期であること、鳥インフルエンザなど感染症のリスクがあること、ハイブリッドなど配置が難しいこと、学術的・保全的に価値が低いことなどが挙げられています。

また課題として、締約国は押収された動物にかかる費用、とくに輸出国への返還の費用や、レスキューセンターの能力を課題に挙げていました。
植物になると押収されたものの行き先の1位は植物園でしたが、2位は破壊でした。植物の場合も永久的なケアと輸出国への返還の費用が課題に挙がっていました。

会議では、ワーキンググループがこのアンケート結果を分析し、レスキューセンターのリストをCITESのウェブサイトに掲載することや、処分の選択肢とその法的問題、「処分 disposal」に代わる言葉を検討し、次回の常設委員会で報告することになりました。
(鈴木希理恵 JWCS)

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2017年12月 1日 (金)

地域社会と絶滅危惧種の貿易

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常設委員会3日目のトピックの一つは「地域社会」でした。
「野生生物の違法取引における地域社会の認識」(SC69 Doc.18)の議題は、地域社会をベースにした密猟、違法取引対策に注目していこう、という内容です。IUCN Sustainable Use and Livelihoods Specialist Group (SULi)に優良事例と課題の抽出を委託することになりました。
「生計と食糧安全保障」の議題(SC69 Doc.69)は、事務局と中国からの提案です。前回の第17回締約国会議でこのテーマの提案をしたのはアンティグア・バーブーダ、コートジボアール、ナミビアでした。「食糧と栄養の安全保障」「文化的アイデンティティ
ーの維持」「生計の安全」が、附属書改正基準や、種の存続を脅かさないことの確認(Non - Detriment Findings)に反映されるべきという主張に対し、常設委員会で議論が継続されることになっていました。
事務局はワーキンググループを結成し、2018年の常設委員会で次回の第18回締約国会議に提出する草案を作ることを提案しました。会議では、EU、ケニア、ナイジェリアなどが賛成し、ワーキンググループが設置されました。
しかし、ニュージーランドは、「附属書Ⅰに格上げ(=国際取引禁止)すると食糧に影響するのか、持続不可能ではないか」と本質的な論点を指摘していました。
IUCNとTRAFFICは、生物多様性条約(CBD)でブッシュミート(野生生物の肉)についての決議があり、今年の生物多様性条約科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)でも議論した、技術的に支援すると発言していました。
野生動物利用の立場のIWMCのラポワント氏は「ワシントン条約のプライオリティを、人間の自然資源利用に変えるべきだ」と発言していました。
一方、Humane Society Internationalをはじめワシントン条約に積極的にかかわっているNGOのグループはワーキンググループは必要ないと発言をしました。
 WCSのポジションペーパーにその理由がわかりやすく書いてあります。WCSはアフリカやアジアのフィールドにスタッフを配置している団体です。WCSはFAOと協力し活動地域の住民の生計の向上に努めていること、アフリカ、カリブ海諸国の食糧が持続可能であるようにEUが4500万ユーロを提供し、FAO主導の事業が行われていること、太平洋諸国ではブッシュミートから代わりのタンパク源に移行していることなどを述べ、ワシントン条約が扱う問題ではないとしています。
ワーキンググループが設置されたので、そこで議論が続くことになりました。

この他にもワシントン条約での決定プロセスに、村落地域の代表者からなる村落委員会を設ける提案(SC69 Doc.14)があります。今回の常設委員会までに、締約国は自国内の村落地域の代表者と交流してワーキンググループへの参加を呼びかけることになっており、日本もワーキンググループに関心を示したと事務局の文書に書かれていました。
 日本でも「自国内の村落地域の代表者と交流」したのだろうか、もししたとすれば日本の「村落地域の代表者」は誰で、本当に住民の声を反映できるのだろうかと疑問がわきます。同じことが他の国でもあるとすると、政府に選ばれた村落委員会のメンバーが本当に地域の声を代表しているのか、つまり貿易の利権を握った地域のボスの会になるおそれはないのか、という問題があります。
 ちなみに生物多様性条約における先住民族グループは政府から独立しており、政府や企業による開発から暮らしを守るという立場で発言しています。
WCSは「ワシントン条約の決議・決定は健全な科学と貿易の情報に基づくべきだ」とポジションペーパーで表明しており、議論はワーキンググループで続きます。

この問題の根本にあると思われたのが、「村落、先住、地域社会の用語の統一」の議題です(SC69 Doc.25)。
これまでの決議・決定では、「rural communities」 「indigenous and local communities」  「indigenous people and other local communities」 「local people」などの用語が混在していました。この件を次回の常設委員会までに検討することになりました。
植民地の長い歴史と移民、紛争による難民を考えると、地域社会と先住民族の意味するところは異なります。そして「local people」が、伝統的で自然と調和した持続可能な生活をしているとは限りません。国や地域によって状況がさまざまなのにもかかわらず、イメージで地域社会に関する議論がされているように感じました。そのため、この用語の統一の議論は地味ですが重要なテーマです。
(鈴木希理恵 JWCS)

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2017年11月29日 (水)

ゾウに関する議題

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常設委員会2日目(11月28日)

●午前中にゾウに関する議題を審議しました

事務局が作成したゾウの密猟と象牙密輸の状況報告に基づき、国内象牙市場閉鎖を含む決議10.10の実施の奨励や、違法取引対策の報告、実施中のアフリカゾウ基金のさらなる実施などのほかに、NGO「Stop Ivory」が無料で提供している在庫象牙管理システムを事務局として普及すべきか、という提案が事務局からありました(Doc51.1 )。
これに対し、在庫象牙管理システムの件は意見が割れました。すでに11か国がシステムを導入しており、ケニア、ジンバブエ、チャド、ボツワナ、タイなどは賛成したものの、中国、ナミビア、南ア、ベトナムなどは反対の意見を述べていました。
Stop Ivory の無料リソース
次にブルキナファソ、コンゴ、ケニア、ニジェールから提出された国内象牙市場閉鎖を含む決議10.10の実施についての議題です(Doc.51.2)。
国内象牙市場閉鎖の進捗状況を事務局に報告すること、日本を国別象牙行動計画の対象になっていないことを再考することを提案しています。
 ここでも合法市場維持の立場の南アと全ての市場を閉鎖すべきというケニアの意見が対立しました。
 取引支持の立場のNGO「Ivory Education」は米国の禁酒法の例を挙げて合法市場支持の意見を述べていました。象牙をめぐりアフリカでゾウも人もたくさん死んでいる現実からかけ離れた発想です。

次の議題は上記のアフリカ諸国が提出した在庫象牙の議題です(Doc.51.3)。在庫象牙の管理または処分に関する技術的ガイダンスがまだ発行されていないこと、CoP17で決定した在庫象牙対策(Dec.17.171)へ資金が必要なことが提案されています。
 提案国のニジェールは国境を越えた対策とキャパシティビルディングが必要と発言していました。

議題 Doc.51.4 は、「違法野生生物取引に関するロンドン会議」に起源をもつ、アフリカ諸国による Elephant Protection Initiative (EPI)に関するアップデートでした。
最後に国別象牙行動計画についての事務局からの報告(Doc.29)がありました。
日本が国別象牙行動計画の対象になるのかも含め、ワーキンググループで議論することになりました。

象牙に関する議論で日本政府は発言をせず、ワーキンググループのメンバーになりました。CoP17の時も同じで、ワーキンググループの議論の結果、象牙国内市場閉鎖の文言に、閉鎖の対象を密猟や違法取引に関与している市場と限定する文言が付け加わっています。

●ドキュメンタリー「The Last Animals」


世界に3頭しか生き残っていないキタシロサイをはじめ、世界のサイは角を目的に密猟され絶滅の危機にあります。そのサイとアフリカゾウの保護のための活動のドキュメンタリー映画が、サイドイベントで上映されました。

サイの角を精力剤として珍重するベトナムで、母親を密猟者に殺された子どものサイを主人公に、サイの角は人間の爪と同じ成分であることを普及するアニメを作ったこと。

密猟者に狙われないようにするため、麻酔銃を使ってサイの角を切り落とそうとしたところ、サイが死んでしまったこと。

密猟者に殺された国立公園のレンジャーのお葬式。

捕まった密猟者も血を流し、ヘリコプターとトラックの荷台に乗せられて病院に担ぎ込まれる。
サイやゾウをを守るために土俵際で踏ん張っている人たちと、サイの角や象牙の値段に翻弄され、人間も動物もたくさんの死がアフリカにあることをが映し出されていました。

上映の後、会場は静まり返り、入場者は言葉少なく帰っていきました。
床いっぱいに並べられた、押収された象牙の数だけゾウの死があることに気づいたら、象牙を買う気になるでしょうか。
JWCS 鈴木希理恵

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2017年11月28日 (火)

第69回常設委員会 1日目 調査捕鯨が議題に

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ワシントン条約第69回常設委員会に参加しています。
第一日目は、午前中は条約の財政などの報告で、午後から個別の議題が議論されました。
そのなかでも議論が白熱したのが、「日本の調査捕鯨はワシントン条約違反ではないか」という条約事務局が提出した議題です。
ワシントン条約は国際取引に関する条約ですが、公海からの水揚げ(参照:海からの持ち込み(和訳))も対象となります。日本は条約対象種のクジラの多くを条約の対象外とする「留保」をして、調査捕鯨を行っています。(参照:日本が留保している種
ところが北西太平洋のイワシクジラについては留保していないので、公海での科学目的ではない捕鯨は条約違反になります。条約に違反すると、条約事務局から取引停止の勧告が出されることがあります。
取引停止勧告の例



常設委員会では、日本政府は捕鯨は科学目的であり、条約の手続きに従っていると激しく反論しました。これに対し、日本政府を支持する発言をした国はありませんでした。
NGOグループ(JWCSを含む15団体、Animal Welfare Institute, Born Free Foundation, Born Free USA, The Center for Biological Diversity, Environmental Investigation Agency,  Humane Society International , International Fund for Animal Welfare. Natural Resources Defense Council, ProWildlife, SSN, Whale and Dolphin Conservation, Wildlife Impact, Wildlife Conservation Society, WWF)からは、水産庁が鯨肉を健康に良いと広告したり、イスラム教の戒律に沿った食品であることを証明する「ハラール認証」を取得したりしている例を挙げて、鯨肉が商用になっていることを指摘しました。
唯一日本政府を支持したのは野生動物利用の立場のNGO、IWMCのユージン・ラポワント氏だけでした。
日本政府は来年に条約事務局の調査団を招待することになり、結果と勧告は次回の常設委員会で報告されることになりました。
訂正:調査団の来日時期は述べられておらず、2018年10月の次回常設委員会で調査の結果が報告されることになっています。
(鈴木希理恵 JWCS)

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