CITES

2018年12月23日 (日)

2018年注目されたニュースTop10

2018年 JWCSのTwitterランキング

JWCSは野生生物保全につながる、おもに海外のニュースをツイッターでシェアしています。2018年に多く読まれた記事(インプレッション)上位10位を発表します!

第10位 EUで関心の高いウナギの保全

ヨーロッパウナギの資源量は90%下落。最終的に日本と中国のテーブルにのるウナギは「地球最大の野生生物犯罪」。犯罪組織の関与で取引関与はますます危険になった。 https://t.co/nAny2n94w4

ヨーロッパウナギはIUCNレッドリストでは「深刻な危機(CR)」とされています。ニホンウナギ、アメリカウナギの「危機(EN)」より高いランクです。ヨーロッパではウナギの生息地の保護も含め保全の関心が高く、新聞の見出しになっているようにEUではウナギの違法取引が“largest wildlife crime on Earth”と呼ばれているそうです。そしてヨーロッパウナギの稚魚が養殖用に密漁され、中国や日本が消費していることが注目されています。


第9位 トッケイヤモリの違法取引

トッケイヤモリの組織的な違法取引がインド東北部、ネパール、ブータン、バングラディシュで数百万ドル規模になっている。ペットや伝統薬に利用される。
鳴き声から名前がついたというトッケイヤモリは、日本で野生個体がペットとして3000円程度で売られており、知名度が高いためこの記事は関心を集めたようです。TRAFFICは2015年発行の報告書で、インドネシアでトッケイヤモリを商業用に繁殖しているが採算がとれないことや、捕獲により野生個体数に影響が出ていることを指摘しています。


第8位 鳥8種の絶滅が明らかに

新たな分析により、この10年で8種の鳥が絶滅したと判断された。そのうち5種の絶滅は南米の森林破壊が原因で、アニメ映画「Rio(ブルー初めての空へ)」に出てくる青いオウムも含まれる。
『IUCNレッドリストカテゴリーと基準』3.1版改訂2版によると、絶滅は「既知の、あるいは期待される生息環境において、適切な時期(時間帯、季節、年)に、かつての分布域全域にわたって徹底して行われた調査にもかかわらず、1個体も発見できなかったとき」とされています。この記事はバードライフインターナショナルの調査によって絶滅が明らかになったというものです。
これらの鳥の絶滅要因として持続的ではない農業と森林伐採が挙げられており、ブラジルから大豆などを輸入している日本の消費も無関係ではありません。


第7位 アフリカの国々によるゾウ保護の動き

ゾウを守りたいアフリカの国々が結成したアフリカゾウ連合(AEC)の会議がエチオピアで開催された。 https://t.co/0ke2gs4Xel

実はこの、アフリカゾウ連合はワシントン条約の重要なグループになっています。
南部を除くアフリカの国々にとってゾウの密猟は、種の絶滅の問題だけでなく、武装勢力が象牙の違法販売で資金を得ているので治安の問題として深刻に受け止められています。アフリカゾウ連合は、「国際的な象牙取引の脅威から逃れる」ことを目的の一つに掲げ、30か国が加盟しています。
そのためワシントン条約締約国会議で議題が投票にかけられた時、アフリカゾウ連合の30票とEU加盟国28票(2018年現在)は、採否を決める存在となっています。


第6位 世界のウナギを調査した報告書

過去10年で日本はウナギの主要な輸入国(図)。そして2014-2015年から2016-2017年の間に、日本の養殖池に入れられたウナギの57-69%(11-12トン)は、違法・無報告漁業、密輸によって供給されたと推定されている。 https://t.co/YVNztvnHjT
2018年7月に開催されたワシントン条約動物委員会には、現在附属書Ⅱに掲載されているヨーロッパウナギ以外の未掲載のウナギについて調査した報告書が提出されました。この報告書P43 の地図は、北米、ヨーロッパ、中東、東南アジア、オセアニアのウナギが中国に集まり、まとまって日本へ輸出されていることを表しています。これを見ると「ウナギは日本の食文化」と言っているだけでは済まされず、世界の野生生物の問題と認識する必要があることがわかります。
 
Unagi_2



第5位 種の絶滅の持つ意味

種の絶滅は、進化史の生命の木(系統樹)の枝を切ることであり、原生自然の破壊、密猟と汚染が50年以内に終了し、絶滅率が自然なレベルにまで低下したとしても、自然界が回復するには500~700万年もかかる、という論文が発表された。 https://t.co/1oIsCMquq4
この研究は種の絶滅を「何種絶滅した」と足し算をするのではなく、その種が地球上に出現し進化してきた時間を合計する考え方だそうです。例えば現存するゾウの種はアフリカゾウとアジアゾウの2種ですが、この2種を失うことは、マンモスやナウマンゾウなど過去に絶滅したゾウの系統の大きな枝を失うことになります。そして人間による大量絶滅が起きる前の系統樹のように枝が茂るまでには気の遠くなるような時間が必要とのことです。
 ちなみに野生生物保全論研究会(JWCS)は、未来の進化も考えた野生生物保全であるべきだと考えています。(詳細はJWCS(2008 )『野生生物保全事典』緑風出版をご覧ください)
Mammal diversity will take millions of years to recover from the current biodiversity crisis
Matt Davis, Søren Faurby, and Jens-Christian Svenning
PNAS October 30, 2018 115 (44) 11262-11267; published ahead of print October 15, 2018
第4位 どんな両生・爬虫類ペットが野外に放される?

外国産両生・爬虫類ペットのうち野外に放される可能性が高い種についての論文が公開され、長期間にわたって大量に輸入され、安く販売された種・長生きする種・安く販売され、成体が大きくなる種があげられている。
この論文では、初めて両生・爬虫類を購入する人に対し人畜共通感染症のリスクや長生きするペットを世話し続けられるかなど購入前に思いとどまる情報を提供すること、また小売業による買戻しやペットシェルターで野外に放すことを防ぐことを提案しています。


第3位 インドが規制強化

インドは野生由来の全てのCITES掲載動植物種(2種の木とその製品を除く)の商業輸出を禁止する。もしインドから野生由来の附属書Ⅱ掲載のカメなどが日本に輸入されたら、違反行為になります。 https://cites.org/sites/default/files/notif/E-Notif-2018-031.pdf


このCITESの通知文によると、締約国は違反行為をインド管理当局と事務局に通知するよう求められています。そうすると第9位のインドで密猟されたトッケイヤモリが日本で見つかったら、日本政府はインド管理当局とワシントン条約事務局に通知しなければならないことになりますが…。


第2位 爬虫類ペット密猟で日本人が南アで有罪に

日本人の男、南アで有罪判決 アルマジロトカゲ違法所持:朝日新聞デジタル https://t.co/X7LuOOw2Bf


アルマジロトカゲはワシントン条約附属書Ⅱ掲載種です。希少価値があり1匹30万円以上とも言われています。とか。附属書Ⅱ掲載種は税関で摘発されなければ、国内での譲り渡し(販売、貸借等)に規制はありません。税関でワシントン条約該当物品の関税法違反として差止めた件数に対し、通告または告発した事件数はわずか0.9%(税関におけるワシントン条約該当物品の輸入差止等の件数と主な品目2017年)。この事件は原産国の南アフリカで有罪になりましたが、日本の法律は野生生物犯罪に甘いと言わざるを得ません。


1位 ニュージーランドの外来生物対策

ニュージーランドは外来の捕食動物を2050年までに取り除く目標を掲げた。プロジェクトの一つにはキウイフルーツを使ったお酒のメーカーが保護区の島の外来捕食者の駆除を支援している https://t.co/JtqnK2qkcp


島単位での外来捕食者を駆除し、キウイなど在来の鳥たちを守る活動を、お酒のメーカーがタイアップしているというこの記事。以下がニュージーランド政府の「Predator Free 2050」のサイトです。国民運動になっているようです。
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このように2018年を振り返ってみると、爬虫類ペットとウナギ、そして野生生物に対する日本と海外の温度差が注目されたように思います。
2019年は5月にワシントン条約締約国会議がスリランカで開催されます。野生生物の保全に前進が見られる年になることを願っています。

対象期間2018年1月1日~12月15日 
ツイッターの文面は一部修正してあります。
記事の内容を正確にお知りになりたい方は、原文をご参照ください。

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2017年11月 2日 (木)

水産業のIT化・国際基準とウナギ

2017年10月27日、日経エコロジー主催の「東京サステナブルシーフードシンポジウム魚から考える日本の挑戦2017」に参加しました。

●拡大する水産業関連ビジネス

 2012年のロンドンオリンピックでは、持続可能な漁業による水産物を提供するためサスティナブルシーフードの調達基準がありました。日本でも2020年開催予定の東京オリンピックを機に、水産業界を持続可能に変えていこうという動きがあります。そのためには漁業が持続可能であるかを科学的に検証し、証明する認証制度と、認証を受けた産物が水揚げから販売までを追跡可能にし、他の水産物とまぎれていないことを明らかにするトレーサビリティが必要になります。
 シンポジウムでは、サスティナブルシーフードの調達で、日本のトップランナーであるイオンや西友などの大手流通企業がその調達について報告していました。また、水産物のトレーサビリティをIT技術を使って確保することを業務とする企業やコンサルタント会社の事業紹介もありました。水産業はIT業界など他業種と関連し世界規模のビジネスとして、規模を拡大している様子がうかがえました。
 ちなみに世界の商業用漁船のリアルタイムの漁業活動は、Global Fishing Watchのウェブサイトから無料で見ることができます。つまり禁漁区での操業も常に監視されているのです。
 

●国際基準をビジネスチャンスととらえる

サスティナブルシーフード調達のトップランナー企業は、日本独自の認証制度よりも、認証機関を第三者が検証しているより厳しい国際基準の認証制度を採用しているそうです。厳しい国際基準を外国からの押しつけととらえるのではなく、ビジネスチャンスとして積極的に取り入れているところは、行政との違いが鮮明です。
またその国際基準でのビジネスのために、最新の情報技術を使ったシステムが導入され、すぐに情報が共有されるところに行政への届け出などとの落差を感じました。

●漁業者のスマホ入力から始まる水産流通

 シンポジウムの昼休み中に漁業報告ツール「テレキャプシェ」の紹介とヨーロッパで活動するSustainable Eel Groupのミニセッションがありました。
 この漁業報告ツールは、漁業者がスマートフォンなどで漁獲を報告すると、そのデータを水産バイヤーが必要とするデータの形ににしてバイヤーに提供したり、漁業当局が漁獲上限を超えていないかチェックしたりすることに使うのだそうです。フランスと英国では4年前に導入され、何千もの漁業者が使っているといいます。統計や科学調査がなければ持続可能な漁業への転換はできません。でもこのようなシステムが日本の漁業政策に取り入れられるのはいつになるのかそれよりも世界の速度で変化するビジネスセクターや、水産業に力を入れる自治体が先行して導入する方が可能性は高いかもしれないと思いました。


●絶滅危惧種のヨーロッパウナギ

 次にヨーロッパウナギの保護の取り組みの紹介がありました。ヨーロッパウナギはIUCNのレッドリストで絶滅危惧種(CR)にリストアップされています。ワシントン条約では輸出に許可が必要な附属書Ⅱに記載されており、とくにEUは輸出割り当てがゼロなので輸出をしていません。Sustainable Eel Groupは、絶滅危惧種のヨーロッパウナギを食べるべきではないという意見と、密漁してでも食べたいという意見の対立を解決するために、研究者、業者、NGOにより設立されたそうです。セッションでは、ノルウェーでの小規模の水力発電所に魚道をつけて発電用タービンでウナギが切られるのを防ぐ事業や、オランダでのウナギの売り上げからファンドに寄付するしくみなどを紹介していました。
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写真 シンポジウム会場でのSustainable Eel Groupブース

●ニホンウナギは?

 ニホンウナギはIUCNのレッドリストで、ヨーロッパウナギよりは1ランク低いものの絶滅危惧種(EN)にリストアップされています。そして2016年のワシントン条約第17回締約国会議(CoP17)で、ウナギ属の生息と取引の状況を調査するという決定がなされました。折しも10月30日付の朝日新聞で「日本の輸入天然水産物 2割超が違法や不適切漁業と推計」とカナダのブリティッシュコロンビア大学の調査が紹介されていました。問題のある輸入が最も多かったのが中国からの輸入で、その中でもウナギが最も多かったと報道しています。
 絶滅のおそれのない範囲の国際取引であるかどうかを判断するための情報を得る技術は、このシンポジウムで紹介された数々の事例をみると、今後ますます充実していくと思われます。今後ニホンウナギがワシントン条約附属書Ⅱに掲載された場合、日本政府はその決定を受け入れ、トレーサビリティ技術に基づく制度を導入するのか、またはこれまでサメなど漁業対象種を留保してきたように、ニホンウナギも留保して国としては取り組まず、国際基準で事業を行う企業が自主的に条約順守に取り組むことになるのか、日本の漁業の方向性を示す象徴的な判断になるかもしれません。
朝日新聞デジタル版(リンク切れはご容赦ください)
(鈴木希理恵 JWCS)

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2015年3月26日 (木)

野生生物の保全をめぐる「対立」と「連携」

●90年代以前:「コケか電気か」の対立の構図


 自然保護か開発かの対立の議論として、尾瀬の電源開発が象徴的であるので以下に引用する。
 「戦後、荒廃した国土の復旧のために資源開発と電源開発が急で激しい自然破壊が目立ち、これに対して1949年尾瀬保存期成同盟がつくられた。電源開発が必要とはいえ、尾瀬を水没させるのは許せないというものであった。この後もやつぎ早に起こる開発計画に対し、1951年には日本自然保護協会と改称して、意見を出し続けていた。構成メンバーは学者、登山家等であり、大所高所からものを言う形であったことは否めなかった。
 しかし、マスコミの取り上げ方は、「苔か電気か」「トンボか電気か」「人か鳥か」であり、世間一般が自然保護思想を持たなければ所詮解決にならないとの結論に達し、日本自然保護協会は1960年、組織を法人化して自然保護思想の普及・啓発に力を入れることになった。」(金田1996)
 21世紀の今、「尾瀬を水没させて発電ダムをつくるべきか」と問われたら、「発電は他にも方法があるので尾瀬の自然を失うべきではない」という意見が多いのではないだろうか。
 かつては「コケか電気か」の対立の構図であったが、今は尾瀬の自然を残しつつ電力を得る方法を考える、つまり自然を残すために解決策を探る時代になったのではないか。これは引用文に書かれている、自然保護教育に携わった方々の長年の努力のたまものであろう。


●90年代:地球サミットと「持続可能な開発」


 JWCSが発足したきっかけの一つが、1992年の地球サミットの前からよく使われるようになった「持続可能な開発(Sustainable Development)」という言葉の使われ方である。JWCSの会報の第1号の巻頭言「野生生物保全論研究会の発展を目指して」では、「Sustainable Developmentの都合の良い独り歩き」を懸念している。(小原 1994)
 「持続可能な開発」に対するJWCSの意見は以下である。
「developmentの訳語である「開発」の実態が、自然の人工化であるならば、開発と野生生物保全とは相容れないものである。むしろdevelopmentを「人間、社会の発展」と考えれば、developmentは野生生物保全をその重要な一画に組み入れねばならない」(本谷・岩田2008)
 国際的にはJWCSの意見の方向へ動いている。Developmentを使っている国連のミレニアム開発目標は、貧困と飢餓の撲滅、初等教育の達成、女性の地位向上、乳児死亡率の削減などを掲げ、「人間、社会の発展」の意味で使っている。そして2014年10月に開催された生物多様性条約第12回締約国会議では、開発目標に生物多様性と生態系の見地を入れるよう働きかける決議がなされた(決議XII/4)。
 また同会議では、ブッシュミート(野生動物の肉)についての決議がなされたが、こちらは「生物多様性の持続可能な利用(Sustainable use of biodiversity)」 を使っている(決議XII/18)。
 ただこれらの「持続可能」の中身が実際に野生生物の保全になっているかどうか、常に検証することは重要である。


●00年代:ミレニアム生態系評価と「生態系サービス」

 2000~2005年に国連の主導で、生態系に関する世界で初めての大規模な調査である「ミレニアム生態系評価」が行われた。調査は人為的な生態系の変化と多様性の減少を明らかにした。また生態系による人間への恵みを「生態系サービス」と呼び、供給サービス(食料・水など)、調整サービス(気候・土壌など)、基盤サービス(生物の生息環境)、文化的サービス(神秘体験、レクリエーションなど)に分類して状況を評価した。つまり生態系は人間の生存の基盤であることを明らかにしている。
 この流れを明確にしたのが、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約国会議COP10で採択された「愛知ターゲット」である。2020年までの短期目標には「抵抗力ある生態系とその提供する基本的なサービスが継続されることを確保。その結果、地球の生命の多様性が確保され、人類の福利と貧困解消に貢献」とある。


●10年代:愛知ターゲットと「連携」

 生物多様性条約は条約の目的の一つに「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」があり、農業や先住民などのテーマが継続して議論されてきた。これに近年は、ジェンダー、貧困、健康の問題と生物多様性を連携した議題が加わっている。そして前述の「愛知ターゲット」は2010年までの戦略目標が達成できなかった反省から、政策のあらゆる分野に生物多様性保全を組み入れることを目標としている。
 ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約)も、国際取引の規制だけでなく、種の絶滅の背景にある人のくらしが議題に加わっている。(表)

 またこれらの国際環境条約同士と国連機関などが連携する動きも強まっており、条約の決議文などにそれを見ることができる。例えば前述のブッシュミートについては、先住民が伝統を継続できないほど森林の動物が減少し、動物による種子の散布がなされなくなって森林生態系全体が劣化しているとの認識から、ワシントン条約と生物多様性条約が連携している。
 とくに象牙の密猟・密輸などの野生生物犯罪は、種の絶滅の問題としてだけでなく、国際犯罪組織や武装組織の資金源の問題として、国際社会が協力して取り組むべきという認識が広がっている。
 つまり、生物多様性や野生生物の問題と貧困や紛争の問題は別物ではなく、それらの解決のために一緒に議論しようという「連携」が国際的な流れになっている。


(表)ワシントン条約と生物多様性条約の議題の変遷
Photo_2
ピンク:ワシントン条約締約国会議 議題番号
緑:生物多様性締約国会議 決議番号

条約事務局ウェブサイトを元に鈴木作成
*1 The Millennium Development Goals (MDGs) 
*2 The post-2015 United Nations development agenda and the sustainable development goals (SDGs)


●日本の政策に残る対立の構図

 ところが、日本の政策においては野生生物か人間かの対立の構図が用いられる。以下は平成27年度の水産庁補助事業の説明である(農林水産省のウェブサイトから閲覧可能)。
「国際漁業連携強化・操業秩序確立事業(拡充)
(2)国際漁業連携強化事業
我が国漁船の海外漁場での操業を確保するため、国際漁業(主要国の漁業政策、RFMO、環境 NGO、環境保護国及びその影響を受けやすい国等の動向等)に関する情報収集・分析、環境保護国等の影響を受けやすい国への働きかけ、漁業関係者への情報提供」
 ここには「コケか電気か」と同じ「産業か環境保護か」の対立の構図がある。そしてこの文章によると日本は「環境保護国」ではないようである。
また「環境NGO」を対立の相手としているが、国際的にはさまざまなセクターの連携が重視されている。
 例えば2014年3月の「世界野生生物の日」に関連してインターポールの環境部長が来日した際には、JWCSを含む日本の野生生物犯罪に関する活動をしているNGOとの意見交換会が行われた。政府とNGO(非政府組織)の対立ではなく、NGOを政府から独立した組織と認めた上での連携である。


●JWCSの活動の中で

 これらの状況から考えると、野生生物を脅かす人間社会の問題に踏み込んで解決策を考えること、そしてそのような動きがあることを国内に浸透させ、短期的な利益を求める「産業か環境保護か」の対立の考えから脱却することが重要に思われる。
 そのためJWCSはワシントン条約プロジェクトとして、日本で絶滅のおそれのある野生生物が消費されている問題について、国際団体と協力した提言や消費者への普及啓発活動を行っている。
 また生物多様性条約プロジェクトとして、自然を収奪する社会から生物多様性を基盤とした社会へ転換することを研究し提案している。
 今や地球上で人間活動の影響の少ない野生の世界はわずかになってしまった。例えばアフリカゾウの生息地はアフリカ大陸に点々と残るだけになってしまっている(地図)。
野生の世界を野生のままに残すことが、当会の目的であることは会の発足以来変わらない。そのため人間社会の問題に踏み込んで解決策を考えるときに、安易な人為化を避けること、予防原則を徹底することを原則としている。

Elephantpopulationdistribution
(地図)UNEP, CITES, IUCN, TRAFFIC (2013) Elephant in the dust - The African elephant crisis. p.19

「野生生物保全」とは
 「野生生物保全」と同じような意味合いで一般には「自然保護」や「環境保全」が使われる。
 JWCSでは野生生物を「人為の影響を受ける・受けないに関係なく、そのものが自律的に維持存続し、長い時間的経過のなかで自己運動的に進化していく生物世界」と定義している。またその保全を「野生生物を賢明に合理的に利用しながら野生生物が野生生物として存続することを保障するという具体的な方策を含めた概念」としている(本谷・岩田2008)。
 この定義を分かりやすく普及させるため、「野生の世界は野生のままに」というキャッチフレーズを使っている。
 「自然保護」や「環境保全」はさまざまな概念があるため、引用文に関連した記述では引用文に従った語句を使っている。

小原秀雄(1994)『野生生物保全論研究会会報No.1』巻頭言
金田平(1996)『自然教育指導事典』国土社 p16 
本谷勲・岩田好宏(2008)『野生生物保全事典』野生生物保全論研究会編 緑風出版p25-32、P74

(鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2013年9月 9日 (月)

国内外の野生生物保全の認識の違いと情報の落差

 2013年8月21日にトラフィック イーストアジア ジャパンが主催した「ワシントン条約40周年記念シンポジウム ワシントン条約の動向と日本への期待」に参加しました。シンポジウムでは野生生物保全に対する国内外の認識の違いが浮き彫りになりました。
●CITES条約事務局スタッフは16名
 ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約・CITES)の締約国は178カ国。2013年3月にタイで開催された第16回締約国会議(CoP16)はオブザーバー、メディア等を含めて約2,234名が参加しました。しかし条約事務局のスタッフはたったの16名だそうです。そのうち1名は日本人女性で、シンポジウムの会場で紹介されました。
事務局長のジョン・スキャンロン氏はオーストラリア出身の法律家だそうです。スキャンロン事務局長からCITESが果たしてきた役割について、シロサイは規制の対象となる前は2000頭だったが今は2万頭になった例や、CoP16の成果についての報告などがありました。(写真1)
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(写真1)
●CITESは珍獣保護の条約ではない
 事務局長がCoP16の成果として一つ目と二つ目に挙げたことは、木材種と水産種が規制の対象になったことでした。
 前回のCoP15(2010年3月)では大西洋クロマグロの規制が提案された時、日本では「日々の食卓にのぼるマグロを、いきなりジュゴンやパンダと同じ絶滅危惧種にするのは強引すぎる(2010年3月16日読売新聞社説)」という論調の報道がありました。しかし、CITESは単に希少な種だから規制をする条約ではなく、このままの国際取引を続ければ種が絶滅する恐れがあるので取引を規制するという考えによる条約です(*1)。
 ジャイアントパンダのように生息地が限られ、生息数の少ない種はわずかな取引でも絶滅の原因になります。一方、林業や漁業の対象として大量に取引される動植物種の中にも、その取引の規模の大きさゆえに絶滅のおそれのある種があります。CITESに規制が提案される生物には、その2タイプの国際取引があることがあまり理解されていないように思います。

●サメの管理についての意見の違い
 「第2部:責任ある水産種の管理のために-サメを事例として-」では、トラフィック水産取引プログラムリーダーの発表と、日本の水産庁や気仙沼遠洋漁業協同組合との意見の違いや認識の違いが鮮明になりました。
 日本はCITESで附属書I (国際取引原則禁止)掲載種中7種(ナガスクジラ、イワシクジラ(北太平洋の個体群並びに東経0度から東経70度及び赤道から南極大陸に囲まれる範囲の個体群を除く)、マッコウクジラ、ミンククジラ、ニタリクジラ、ツチクジラ、カワゴンドウ)、附属書II (国際取引に許可が必要)掲載種中9種(ジンベイザメ、ウバザメ、タツノオトシゴ、ホホジロザメ、そしてCoP16で掲載が決まり2014年9月から適用されるヨゴレ、シュモクザメ3種、ニシネズミザメ)を「留保」しています(*2)。この留保した種は、条約が適用されません。
 日本政府は留保の理由を「絶滅のおそれがあるとの科学的情報が不足していること、地域漁業管理機関(*3)が適切に管理すべきこと」としており、このシンポジウムでの水産庁の発言も同様でした。この点はトラフィック水産取引プログラムリーダーの発表(*4)と意見が対立していました。
●認識の違いが鮮明に
 気仙沼遠洋漁業組合の方からは、サメの漁獲の中心はヨシキリザメで、ヒレだけでなく魚体も魚肉として利用しているとの発言がありました。
 しかしCoP16で規制が決まったのはヨゴレ、シュモクザメ3種、ニシネズミザメです。いずれもフカヒレが高価な種であるため、ヒレだけを目的に漁獲する国があり、国際取引によって生息数が減少していることが複数の研究機関からCoP16で報告され、投票によって附属書掲載が採択されました(*5)。
 水産庁は「環境団体は資源量が健全な種もあるのに、サメ漁を批判している」と発言しましたが(写真2)、後でCITES事務局長からサメの種による資源量の違いを認識して対応している旨の発言がありました。
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(写真2)
 またJWCSが参加したCoP16でのサメをめぐる議論では、サメの規制提案が否決された以前の締約国会議に増して危機的なデータが出され、FAO(国連食糧農業機関)も提案を支持し、こんなに減少しているなら規制しなければという雰囲気でした(*6)。
そのため気仙沼遠洋漁業組合の方の「漁業は何故叩かれるのか?(写真3)」「理不尽なイジメには徹底的に理性的に闘う(写真4)」という発言には驚きました。発表者からは「バイヤスがかかっているのは漁業を愛するがゆえ」との発言があり、司会者からは英国紙ガーディアンの記事(*7) が背景にあると補足がありました。
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(写真3)
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(写真4)
 しかし国際会議では、枯渇する水産資源をどうやって持続させるかを各国代表、国際機関、「環境団体」が一緒に議論しています。また海外では「環境団体」と研究機関、政府、国連機関などを転職する人もいます。
 CoP16でサメ5種を議論したときは、中国と日本が規制に強く反対し、サメに関するサイドイベントでも中国代表は長々と反論をしていました。しかし投票で規制が決定するとフカヒレの輸出入の多い中国が条約に従い、日本は留保しました。この日本政府の決定に「環境団体」から批判の声があがりましたが、ほとんどの「環境団体」は漁業者を批判しません。こうした国際会議の様子と国内でのとらえ方がかけ離れていることがこのシンポジウムで鮮明になりました。
 そのためCITES事務局長は最後のコメントで「漁業を否定しているわけではありません、今夜もおいしい日本の魚料理を期待しています」とユーモアで締めくくっていました。
(*5) 附属書掲載提案
          http://wildlife.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-d3d4.html (後)
(*6) FAO(国連食糧農業機関)
CoP16で提案された漁業対象種についてFAO専門家諮問パネルの報告書 (英語)
IUCNレッドリスト(抜粋翻訳)
 アカシュモクザメ http://www.jwcs.org/data/Sphyrnalewini.pdf
 ヒラシュモクザメ http://www.jwcs.org/data/Sphyrnamokarran.pdf
 注:記載されたJWCSの所在地・電話番号は移転前のものです。
(*7) 2011年2月11日付ガーディアンの記事(英語)
ガーディアンの記事で引用されているTRAFFICとPEW財団(米国)の報告書(英語)


●認識の違いを生むのは情報の少なさ


 国内外で認識が違うのは、英語ではインターネットで得られる情報が、日本語で報道されていないからだと思います。それは今に始まったことではなく、2010年のCoP15で大西洋クロマグロの国際取引禁止(附属書Ⅰ掲載)が否決されたときも同じように感じました。(当時の状況は、勝川俊雄氏の公式サイト「ワシントン条約の報道において、日本のメディアは国民に何を隠したか」が詳しいです http://katukawa.com/?p=3402 )。
 CITESの締約国会議では、加盟国代表だけでなくオブザーバーもアルファベット順に席が決まっています。そのため席の近い日本の漁業関係者の何人かと名刺交換をしたのですが、期間中ほとんど空席でお話ができず残念でした。
 映画『もののけ姫』に「その地に赴き、曇りなき眼で物事を見定めるなら、あるいはその呪いを絶つ道が見つかるかもしれん」というセリフがあります。漁業関係者の中には若い人も来ていたので「曇りなき眼」で国際会議の推移を見て、さまざまなセクターと前向きな議論ができる関係が広がることを期待しています。
 国際会議は誰もが参加できるわけではありませんので、政府発の情報以外を国内に伝えるのもNGOの大事な仕事です。今回参加したシンポジウムは、日本にいながら国際的な意見交換の場に立ち会うことができて有意義でした。
 またJWCSでは国際会議に参加するときはブログで状況を報告し、帰国後に報告会を開催しています。報告会開催の折にはぜひご参加ください。
 (鈴木希理恵 JWCS理事)

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2012年2月 3日 (金)

「えっ、まだ禁止じゃなかったの?」種の保存法点検会議 傍聴記

種の保存法を見直すための「点検会議」が開かれました。
( http://www.env.go.jp/nature/yasei/tenken.html )
今回傍聴したのは、ワシントン条約で規制されている外国の野生動植物の流通についての会議でした。


 印象的だったのは、象牙や毛皮などの野生生物由来の高級品や、希少動物ペットは所有が最終目的なのに取引の時しか違法にならず、所有禁止にすることが困難、ということでした。
 例えば本物のヒョウの毛皮を着ていたり、希少動物を飼っていたりすると、多くの人は「カッコイイ!」というより「それ、いいの?」と思うようになったのではないでしょうか。そうした人々の意識の変化に法律が遅れているように思いました。

 また輸入の時に必要な書類がそろっていないことを税関に指摘されたとき、所有権を放棄する「任意放棄」やインターネット・オークションなどに違法な出品があってもサイト管理者は責任を問われないなど、責任の所在を厳しく問わない法制度についての意見もありました。

 そしてたびたびマスコミがとりあげる、没収された密輸動物の飼育が動物園の経営や展示を圧迫している話や申請の悪用は、この会議の話題になってようやく改善に向けて動くのだろうかと思いました。

 「法律で規制すべきか社会的な合意はあるか」どころか「えっ、まだ禁止じゃなかったの?」という意識の変化に、法律が追いついてほしいと思いました。

<傍聴メモ>
希少野生生物の国内流通管理に関する点検会議 
第二回会合 2012年1月30日 経済産業省会議室

●今なお続く象牙と爬虫類ペットの密輸
以前より違法取引件数は減ったが、今でも違法取引されるのは、象牙と高額な爬虫類ペットであった。違法取引の収入の方が罰金より高いので、再犯事件も。罰則の強化が提言に盛り込まれた。

●財産権が強い日本の法律
日本の法律で所持が禁止されているのは銃・刀、麻薬など社会的脅威が極めて強いものに限られ、所持を禁止することは難しい。所有者が合法性を証明することは所有を禁止することと同じなので、それができない。今は違法性を検察が証明しなければならない。
登録にあたっての虚偽申請に登録機関が十分な情報を得られるようにするというのは、原則所持禁止に近い考え方である。所有が種の存続を危うくすることが明らかになった時は、原則所持禁止にした方がよいとの意見があった。

●没収後の生きた動物は
没収後の生きた動物は、飼育技術のある動物園などで飼育している。しかし飼育の費用が十分ではないことが問題になっていた。税関で必要な書類がないことが明らかになった場合、任意放棄を認めず、責任を追及すべきではないかとの意見があった。
罰金は国庫に入るので、飼育の費用や原産国に返還する費用に充てられる仕組みにはなっていない。

●インターネットでの違法販売の責任は
ネットオークションの運営会社は、違法取引の利益からも収入を得ていることが指摘された。現在は違法な商品が見つかった時は、環境省が連絡してネット会社に削除してもらっている。売買した当事者に罰則はあるが、運営会社に罰則はない。環境省からはフリーマーケットの主催者にあたるとの認識が示された。ただ、販売目的の陳列にあたる可能性もあるそうだ。

●「国際希少野生動植物種登録票」制度の不備
登録した動物が死亡した場合、登録票が確実に返納されているかは管理されていない。 登録票の返納や所有者が変わった場合は申請の義務があり、罰金が決められている。しかし移動も把握できていない。登録票がコピーされ、悪用されている。登録票は販売目的で陳列する時や譲り渡す時に必要になる。売買ではなく所有が目的のとき、登録票はコピーでもいいという所有者がいる。
生物の年齢や違反の事例を参考に期間を決める、登録票の更新制度が提案された。

(鈴木希理恵 JWCS理事)

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