生物多様性条約 CBD COP10_

2011年9月21日 (水)

COP10後10年の方向を探る会議

 名古屋での生物多様性条約COP10から1年。2020年までの目標「愛知ターゲット」、国連生物多様性の10年と、10年単位の取り組みの1年目のとして、環境省は方向性を決める会議を開いています。

 COP10の結果を受けて生物多様性国家戦略が改定されます。それに先立ち、有識者の意見を聞く「人と自然との共生懇談会」が開かれています。この懇談会は7月から12月まで毎月開かれ、国家戦略改定の議論が2012年1月から始まり、9月に決定される予定です。     
(資料・議事録→ http://www.biodic.go.jp/biodiversity/ )

 この「共生懇談会」は、JWCS理事の山極壽一・京都大学大学院教授も委員になっています。9月12日の第三回懇談会では国際協力がテーマでしたので、山極委員から研究者が主体にすすめるアフリカでのゴリラのエコツーリズムを核に、生息地周辺の生物多様性保全と紛争防止に向けた活動の報告がありました。

 また経済界から「愛知ターゲット」への取り組みを検討する会議も開かれています。愛知ターゲット目標4は「持続可能な生産及び消費」と「自然資源の利用の影響を生態学的限界の十分安全な範囲内におさえる」ことをビジネスにも要求しています。
 これまでに事業者の自主的な取り組みを促すために「生物多様性民間参画ガイドライン
( http://www.env.go.jp/nature/biodic/gl_participation/gaiyou.html )」
ができています。
 このガイドラインでは、取り組みを各社で考えるスタンスですが、自社の経済活動が生物多様性にどんな影響があるのかわからない、何をしたらよいのかわからないという声があり、そのためさらに踏み込んだ情報提供をすることになったそうです。


 9月20日に開かれた「経済社会における生物多様性の保全等の促進に関する検討会
( http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14177 )」
では、日本標準産業分類の大分類ごとに生物多様性に与える影響を整理した資料「経済活動が生物多様性に与える影響について」と、生物多様性の危機(例:生息地の改変)ひとつひとつについて関連する産業、生物多様性総合評価報告書(JBO)の記載、法律や制度をまとめた一覧表「経済活動が生物多様性に与える影響とその対策について」の検討が行われました。
 業種ごとの生物多様性への影響について、製造業は細かく分けたほうがいいのではないか、金融・保険業は「間接的影響」だが影響は大きいのではないかなどの意見が出されました。
 経団連自然保護協議会の石原委員からは、自社製品の原材料の調達から廃棄までの環境への影響を低減するライフサイクルアセスメント(LCA)を始めている企業や、社会貢献としてすでに植林をしていた企業には、生物多様性の視点を取り入れて樹種の選択をするよう呼び掛けたことなどの発言がありました。

愛知ターゲット目標4は、「環境への配慮をしている、してない」から「生物多様性への影響の量をどれだけ減らしたか」へ、「意識の高い企業が取り組んでいる」から「生物多様性への配慮はビジネスの主流」へと質・量ともに大きなステップアップを要求しています。
 各企業にとっては、ささやかな社会貢献ではグリーン・ウォッシング(環境に配慮しているように取り繕っている)と批判されかねず、本業の生物多様性の影響を海外からの原材料調達も含めて分析することが必要になります。生物の生息地の情報はますます必要とされるでしょう。そして問題解決や影響緩和のために、政府や企業ができないことをNGOが担うこともあるでしょう。
 グリーンエコノミーのような経済の仕組み自体の変革は、今はまだ雲をつかむような話ですが、ビジネスチャンスの競争に政策が連動した国が一番乗りをする日が来るのかもしれません。

(鈴木希理恵 JWCS理事)

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2010年11月16日 (火)

COP10が残したもの3--NGOのモチベーションが上がった

◆参加の敷居が低かった
 COP10は、とてもオープンな国際会議でした。
まず、オブザーバー参加に登録料がなく、生物多様性に関係するテーマのNGOなら登録することができました。インターネットが使えるパソコン(ただし日本語入力機能なし)やNGOのオフィスの代金を請求されることはありませんでした。そのため登録料を気にせずに参加しやすい会議でした。

 ちなみに2010年3月のワシントン条約締約国会議の場合、登録費が一人300米ドル、情報交換やインターネットなどを使うオフィス代としてNGOネットワークに一人100米ドル払いました。これでは、小さい団体から何人も参加することはできません。

◆情報公開が進んでいる
 会議資料はインターネットで公開され、公式会議はインターネットで見ることができます。小委員会でもオブザーバーの参加に制限のない会議が多くありました。NGOも公式サイドイベントを主催し、それぞれの主張をしていました。
 このように情報公開が進み、NGOは活動しやすい会議でした。とくに公式会議は日本語通訳があり、さらにNGOによる通訳・翻訳もあって、日本国内に向けた情報共有に貢献していました。

◆NGOの意見が尊重される
 そして9日のCOP10報告会で、CBD市民ネット普及会啓発作業部会長のスピーチが決議文に盛り込まれたことが報告されました。(詳しくはCBD市民ネットHP http://www.cbdnet.jp/archives/3839/ )

 この他にも2020年目標(愛知ターゲット)の目標5:2020年までに[森林を含む]自然生息地の損失及び劣化の速度や、それらの生息地の分断が・・・に「森林を含む」を入れるべきだという主張は、会議場のトイレの個室すべてに英文で張り紙がしてありました(男性用は確認してませんが)。そうした強いアピールの成果か、愛知ターゲットには「森林を含む自然生息地」と書いてあります。(写真:会議場前でのアピール 10月29日朝)

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 もちろん愛知ターゲットの保護区の面積がNGOの主張に及ばない低い数値だったなど、締約国同士の綱引きで決まることがほとんどですが、日本国内よりもNGOの意見が尊重されていると感じました。

◆だから決まったことはみんなで実行する
 愛知ターゲットには、「参加型の改定生物多様性国家戦略および行動計画」、「生物多様性とその慣習的な持続可能な利用」を「あらゆるレベルで完全に認識され主流化される」と書かれています。NGOの役割は大きいです。COP10で決まったことが実行されなかったら、あんなに苦労してできた決議文も意味がありません。
 生物多様性の損失に待ったをかけるため、決めたことをみんなでやる。妥協の結果、残念だったところは次の機会に巻き返す。日本のNGOのモチベーションが上がったように思います。

JWCS 鈴木希理恵

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2010年11月15日 (月)

COP10が残したもの2--持続可能な自然の利用をする伝統的な知恵

 日本は耕作放棄が問題になっていますが、世界に目を向けると農地の拡大が生物多様性喪失の原因になっています。貧困が原因で自然が失われている国は多く、持続可能な自然の利用をする伝統的な知恵が対策として決定文のあちこちに盛り込まれました。もともと条約の第10条(c)に「保全又は持続可能な利用の要請と両立する伝統的な文化的慣行に沿った生物資源の利用慣行を保護し及び奨励すること」と書かれています。

 COP10期間中も先住民のグループの活動は活発で、生物多様性条約から伝統的知識への評価が高まり、先住民の生活基盤である自然が守られ、人権擁護につながることが期待されています。

 また「SATOYAMAイニシアティブ」を提案した日本では、2012年にインドで開催される次回会議までに優良事例を掘り起こす動きがあるでしょう。また生物多様性を守る行動として「地産地消」や「旬食」を呼びかけた市民団体もありました。生物多様性保全の政策から、地域経済の組み立て直しにつながるかもしれません。そうするとグローバル企業の儲けは減るのではと思いますが、同じ条約の中で伝統的知識とグローバル企業の利益が綱引きをしているようです。

 里山の見直しで気をつけなければいけないのが、「SATOYAMAイニシアティブ」の議論でほかの国から出された意見です。「二次的自然の保護の支援によって保護区が後退するのではないか」、また「どんなプロジェクトに結びつくのか理解しにくい」という意見がありました。

  たとえば大木に営巣するシマフクロウのように遷移の後半の森でないと生きていけない生物には保護区が必要です。そして地球上の残り少ない手付かずの自然を守ることも生態系サービスの維持に重要です。

 また半乾燥地帯や山岳など脆弱な生態系の国の人にとって、もともと自然災害による撹乱に適応した生物の多い日本での自然の利用の方法は、イメージしにくいと思います。
  里山の自然を誇るあまり「人の手を入れるほど生物多様性が豊かになる」という主張は、撹乱に弱い生物・生態系に対して配慮が足りないと感じます。脆弱な生態系も含めて多様な生態系があることが生物多様性です。

 そもそも里山の価値が言われ始めたのは、1987年にリゾート法が制定され、里山がありふれた自然だからとゴルフ場やスキー場に開発されたことに対する反論でした。1989年に日本自然保護協会とWWFJから日本で初めてのレッドデータブック『我が国における保護上重要な植物種の現状』が発行され、川原の植物をはじめとする里山の植物の多くが、開発のため絶滅の危機にあることが明らかになりました。また循環型社会としての里山の研究も進みました。

 COP10が終わり、里山整備に税金が投入されることがあるかもしれません。そのとき「人の手を入れるほど生物多様性が豊かになる」という言葉が独り歩きして画一的な里山になってしまったら、都会のコンサルの言うなりだったリゾート開発の繰り返しになってしまいます。

 それに対し、生物多様性条約には広報・教育・普及啓発(CEPA)という活動があります。これを「地域社会の伝統的な知恵」と、「進化の結果今ここにある自然」をみんなで理解し、未来を決めることに活用できます。

 生物多様性条約は、実はとても身近で大事なことだったのです。

JWCS 鈴木希理恵

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2010年11月12日 (金)

COP10が残したもの1 生物多様性を失うことはカネを失うことだ

 11月9日、COP10報告会が東京・国連大学内の環境パートナーシップ・プラザで行われました。

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 そこで参加者の元・環境副大臣の吉野正芳氏(自民党)は、「生物多様性を壊して経済活動をすればGDPが上がり、経済的にはプラスに評価されるが、生物多様性が失われる損失は反映されない。国家会計に生物多様性の価値を入れるべきと要望し、それが愛知ターゲットの目標2に反映された」と発言していました。

 1999年に私が「環境・持続社会」研究センター(JACSES)で働いていたときに発行した『税制財政を環境の視点で考える』は、まさにそのこと、公害や自然破壊を経済ではカウントしないこと(外部経済)などを問題にした本です。

 それから10年が過ぎ、経済の研究者や一部のNGOで話していたことが政策決定者である政治家の口から聞くことができました。

 戦後まもなく、尾瀬ヶ原を発電用ダムとして沈める計画があったとき、自然保護運動から「電気かコケの保存か」と論争になりました。経済発展に必要な電気をコケのようなつまらないものを守るためにあきらめるのかということです。でもその後の観光地としての尾瀬の価値、下流にあたえる水温・水質・水量の影響など生態系サービスを考えれば、電気のほうが価値が低いとでるかもしれません。

 こうした生物多様性の経済価値分析が政策に反映され、生物多様性の損失が止める10年にするためのスタートが切られました。

 一方で算出される経済価値は生態系のすべての要素が測定できるわけではないという限界も理解して、数字がひとり歩きしないよう監視する必要性も感じています。

JWCS鈴木希理恵

●『生態系と生物多様性の経済学 中間報告書』日本語版
http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/teeb/teeb_page.html

生物多様性と生態系サービスは、今や人類の福祉と幸福を達成するための非常に重要なインフラだと認識されている。(P56)

●COP10で発表された最終報告書 英語版
http://www.teebweb.org/LinkClick.aspx?fileticket=bYhDohL_TuM%3D&tabid=924&mid=1813

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2010年11月11日 (木)

COP10で決まったこと

 前回の気候変動枠組み条約の締約国会議(コペンハーゲン会議)と違って、とにかく決まってよかった、よかった・・と終わった生物多様性条約COP10ですが、何が決まったのかを整理してみました。

■グローバル企業のルールが決まった

 1. カルタヘナ議定書(遺伝子組換え生物(LMO)の国境を越える移動に係る措置を規定)の責任及び救済が決まった(名古屋・クアラルンプール補足議定書)。

 遺伝子組換え生物を輸出して、経由地や輸入国の生物多様性にダメージを与えるようなことがあったとき、締約国は責任事業者を特定し、原状回復などを命じる。不安を緩和して遺伝子組み換え生物の輸出入を促進されることが期待されている。
(アメリカ、カナダ、オールトラリアはカルタヘナ議定書を締結していない)

 2.名古屋議定書(遺伝資源へのアクセス及びその利用から生じる利益の校正で衡平な配分・ABS議定書)ができた。

 例えば製薬会社がある国の微生物を使った薬を開発したとき、利用国から提供国へ利益を両国の合意で配分する。その利益には、技術移転など金銭以外のものも含む。また、先住民・地域社会の伝統的な知識(薬草など)の利用も契約の対象になる。

■生物多様性の損失を止めるためのルールや計画が決まった

1.2020年までの新戦略計画(愛知ターゲット)
 戦略目標A :「生物多様性の主流化」のため、生物多様性の価値を国や地方の事業や国家勘定などに組み込むこと、生物多様性に有害な補助金などの廃止、自然資源を生態学的限界の十分安全な範囲内に抑えること

 戦略目標B :農林水産業の持続可能な利用、汚染、侵略的外来種、サンゴ礁その他の脆弱な生態系において人為的圧力軽減・最小化

 戦略計画C :2020年までに少なくとも陸域及び内陸水域の17%(現状は陸域の13%・IUCN)沿岸域及び海域の10%(現状は沿岸域の5%・IUCN)を保護地域にする、基地の絶滅危惧種の絶滅・減少の防止、作物・家畜の遺伝子の多様性保護

 戦略計画D :生物多様性・生態系サービスの恩恵がとくに弱者のニーズを考慮して提供されるように、名古屋議定書の施行運用、劣化した生態系の少なくても15%以上の回復と気候変動の緩和、砂漠化防止

 戦略計画E  :国家戦略、行動計画の改定、 持続可能な利用に関する伝統的知識の尊重、科学的知識の共有・適用、この戦略計画のための資金の顕著な増加

2.SATOYAMAイニシアティブ
 生物多様性の持続可能な利用として、日本政府が提案。二次的自然環境の保全の優良事例を集め、その教訓を共有し、途上国に支援を行うもの(環境省資料より)。

 COP10の決定文には、条約の第10条(c)「保全又は持続可能な利用の要請と両立する伝統的な文化的慣行に沿った生物資源の利用慣行を保護し及び奨励すること」と関連し、他の目標やプログラムとの調和、さらなる議論、分析、理解を深めて助成すること、国連MAB計画など他のイニシアチブや活動との相乗効果が書かれている。

3.国連生物多様性の10年
 日本のNGOが発案し、日本政府から提案。2020年までの愛知目標の達成を、締約国だけでなく、国連に広げて推進するため。国連総会(第65回2010年12月)に採択するよう勧告する。

4.政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)
気候変動枠組み条約では、科学データを政策につなげるIPCCという枠組みがある。これと同じように生物多様性と生態系サービスについて研究し、政策に反映する枠組みの設立を国連総会(第65回 2010年12月)に奨励する。

5.その他の各議題の決定
資金動員戦略は目標額の決定はCOP11に持ち越し。
ほかにも生物多様性保全に重要な要素、例えば教育普及、バイオ燃料、気候変動、侵略的外来種や、森、海、山岳、半乾燥地帯といった生態系ごとの対策が決められました。

編集途中の決定文書が公表されています http://www.cbd.int/nagoya/outcomes/
COP9までの決定文書・COP10の決定も 国連6カ国語に翻訳されてここに掲載されます http://www.cbd.int/decisions/

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2010年11月 4日 (木)

NGOは締約国会議で何ができるか

 締約国会議は、文字通り条約を締約した国同士で話し合う場ですが、NGO(非政府組織)はオブザーバーとして発言する機会があります。

 作業部会で最初に議題を取り上げるときは、時間内に発言を希望した(マイク横のボタンを押した)国、次にFAO・UNESCOなどの国連機関、最後にNGOの順で指名されます。意見を文書で条約事務局に届けることもできます。
 二回目に議題が取り上げられるとき発言が許されるのは締約国ですが、締約国が1国でも支持すればNGOも発言できると議長から何度かアナウンスがありました。

 しかし1分や2分の発言ではその主張は伝えきれません。そこで、各国政府やNGO、企業などがサイドイベントを開催します。サイドイベントは締約国会議の公式プログラムで、締約国会議に登録した人しか入れない会議場で行われます。時間はお昼休みと会議終了後の時間になっています。

 とくに2020年目標(愛知ターゲット)に、沿岸・海洋の保護区の面積を盛り込むことが懸案の議題になっていたため、海洋に関係するサイドイベントはほぼ毎日ありました。

 その中で海洋保護区の重要性を訴えたり、自分たちの主張の根拠を示したりします。見たところ参加者はNGOが多いようでしたが、中には政府代表もいて質問をすることもありました。

Pew

(写真:PEW財団環境グループ主催サイドイベント 海の生物多様性と大型海洋生物種
http://www.pewtrusts.org/our_work_category.aspx?ID=134

例えばEUは保護地域への資金提供について「サイドイベントでLifewebのプロジェクトはうまくいっていると報告されていた。だからLifewebの文言を入れるべき」と使っていました。EUは資金提供の議論になると発言が多かったです。( http://www.cbd.int/lifeweb/ )

 このように採択文の内容に影響を及ぼすだけではなく、COP10以降の活動のためネットワークを拡大するイベントもありました。たとえば絶滅ゼロ同盟はプログラムを紹介して協力してくれる団体はいないかと呼びかけていました。( American Bird Conservancy 主催のサイドイベント 絶滅ゼロ同盟 http://www.zeroextinction.org/ ) 

ただ、日本政府の主催のサイドイベントの参加者は日本人が多いようでした。環境省が主催した「食べて考える、外来種ワークショップ」は日本での取り組みを紹介する内容で、ブラックバスバーガーが提供されました(温かければおいしかったかも)。日本のテレビの取材もきていました。

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2010年10月31日 (日)

COP10 未明の閉幕

 ぎりぎりのタイムスケジュールの中、COP10が成果を出す形で終了しました。

 懸案のひとつだった「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」は、29日0時の期限までにコンタクトグループ(非公式の交渉グループ。どの国も参加できる)での交渉がまとまらず、29日最終日の午前8時30分に議長案が提示されることになりました。

 第一作業部会は予定の議題の審議が前日に終わったものの、第二作業部会は懸案の2020年までの戦略計画と条約実施のための資金が議題になっているため、最終日も朝から予定外の会議になりました。それでも一度採択したパラグラフに戻った発言があったり、「議長は進むのが早すぎる」との発言があったり。さすがに議長も「私は怒っています。でもこの場でそのように言うわけにはいきませんので疲れていると言いましょう」と言っていました。

 当初は午後3時からの予定だった締めの全体会合が、4時になっても始まりません。第二作業部会では会議が続いています。でも全体会合の会場は満員で席を立つと通訳機を使われてしまうので、第二作業部会の会議場を見に行くこともできません。インターネットもつながりにくくなっていたそうです。

 午後4時半すぎ、議長の松本環境大臣が着席して全体会合が始まりました。でも第二作業部会は続いているため、第一作業部会の議長報告と議題の採決を先行しました。
 全体会合に提出された最終版文書は49にもなりました。

( http://www.cbd.int/cop10/insession/?tab=0 ) 

文書番号44以降は最終日の午後に出されたものです。それほどぎりぎりのスケジュールでした。

 第二作業部会の議論が終わらないため、5時半に全体会合はいったん打ち切られました。6時からは次の開催国、インドが主催するレセプションが中庭であるからです。レセプションでインド映画の陽気な音楽が流れる間も、コンタクトグループは必死の交渉を続けていたはずです。

 時間切れで東京に戻り、11時に自宅のパソコンでインターネット中継をつけたら、全体会合が始まっていました。日本人の会議ならここまでもめて最終段階にたどり着いたらシャンシャンと終わりそうですが、国際会議はとことん議論します。この段階でも文章の修正がありました。「前に進みましょう、私たちは家に帰りたいです」との発言も。

 最後の文書が採決されたのは30日午前2時過ぎでした。各国代表もオブザーバーも総立ちで拍手をしていました。手で顔を覆う議長の姿もありました。

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 採択されたABS議定書は「名古屋議定書」と名づけられ、他国の遺伝資源を勝手に利用すること(生物の海賊行為)ができなくなります。伝統的な薬草を使って新薬が開発され、製薬会社が利益を得る…といった場合を想定しています。

 2020年までの目標は「愛知ターゲット」と名づけられ、陸域の17%、海域の10%を保護区とするなどの数値が決められました。IUCNが主張していた「少なくとも陸域および内陸水域の25%、また沿岸域・海域の15%」という主張に比べ、後退しています。ほかにも生物多様性保全から見れば後退した文言になっています。さらに「愛知ターゲット」はあくまでも目標なので、実行できなければ意味がありません。

 とにかく何も決まらないのが一番よくない…会議に参加した誰もがそう思い(そう思わない国もあったかも)、健康を犠牲にした会議でしたが、疲れがとれたら行動にうつさなければ!

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2010年10月28日 (木)

手をつなぐNGO

 会議場では、閣僚級の会議、具体的な決議文を議論する作業部会が二つ、意見が割れている議題を別の部屋で話し合う「コンタクトグループ」や「議長フレンズ」、そのほかの非公式な交渉が同時進行で行われているので、会議の全体像をつかむのは大変です。そのためNGO、ビジネス、アフリカグループなど、グループごとに朝のミーティングが毎日開かれています。

 28日は朝のNGOのミーティングに参加しました。国際NGOのCBDアライアンスが主催しています。幸い日本語の通訳があります。二つの作業部会の報告と、コンタクトグループに参加して一つの議題を追い続けている人たちからの報告がありました。
 
 例えばサトウキビから作るアルコールなどバイオ燃料は、地球温暖化の問題から「地球にやさしい」燃料と注目されましたが、同じ作物を大量に栽培する必要があり、生物多様性保全だけでなく食糧供給の面からもマイナス面が指摘されています。朝のミーティングでは、昨夜までのコンタクトグループでブラジル、フィリピン、ボリビアがバイオ燃料を推進したい立場で発言していたことなどが報告されました。

 こうした情報は、NGO発行の国際会議速報 『eco』
( http://www.cbdnet.jp/wp-content/uploads/ECO35-8_jp1.pdf )に掲載されています。これはCBDアライアンスが英語版を発行し、日本の CBD市民ネットが翻訳しています。

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 28日、その日の午後、バイオ燃料のコンタクトグループから出された文書が第1作部会で議論されました。ブラジルがたびたび異議を唱えましたが、多くの国に押し切られる形で譲歩し、この議題は採決されました。

 朝のNGOミーティングでは、「状況を追いかけ、それぞれの国の政府やコンタクトグループに働きかけて行きましょう。まだ終わっていません。観光に行ってはダメですよ」との発言もありました。

 そして次回COP11の開催国インドのNGOに、COP9開催国のドイツのNGOが作り、COP10開催の日本のNGOが飾りつけた「バトン」が手渡されました。
 

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 生物多様性の危機的な状況を考えると、あせる気持ちはどのNGOも同じだとミーティングに参加して思いました。そしてNGO同士が手をつなぎ、地道な活動を積み重ねるしかないのでしょう。

 とっても小さいNGOであるJWCSも、締約国会議が日々のくらし(買い物)の延長にあることを伝え、「生物多様性を守ることは常識」になるよう活動していきたいと思います。

JWCS 鈴木希理恵

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ABS議定書(名古屋議定書)締切まであと4時間

 今、全体会合が終了しました。もめ続けている「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」について、非公式協議グループの共同議長から進捗が報告されました。

 27日の12時現在の文案( http://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-10/in-session/icg-final-protocol-2010-10-27-13h00-en.doc )が示され、第4条の利益配分や第2条の派生物の利用など未解決の問題があると報告されました。文案の [ ] の中は、まだ合意が得られていない部分です。

 議長である松本環境大臣は「各国の閣僚は議定書を望んでいる。今夜0時までに非公式協議グループは合意するように。できない場合は議長提案を明日の午前中の早い時間に提出して、午後3時からの全体会合で検討してもらう」と発言しました。

 全体会議が終わると再び作業部会が始まりました。夜10時半以降は通訳なしで続けるそうです。

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会議は続く・・・

 意見のまとまらない議題については、主張したい国が集まって議論する「コンタクトグループ」で意見の調整をします。
 27日水曜日朝、会議場に行くとコンタクトグループが完成させた決議案が山積みになっていました。この案を作業部会で検討します。朝の作業部会は、こうしたコンタクトグループの議長からの報告で始まります。

 第二作業部会では、資金メカニズムの検討が終わったと議長のインドから報告がありました。保留になっていた議題が作業部会で検討されます。

 同時進行で閣僚級会合も開かれています。でもその会場には報道関係者しか入れません。閣僚級会合が作業部会で煮詰まっている文案を進展させることを期待しています。

27hilevel2

 今日は第一作業部会で侵略的外来種の議題が採択されましたが、バイオ燃料に関係するパラグラフは、バイオ燃料問題のコンタクトグループの結果と整合性をとることを事務局が保証するという条件つきです。
 このように他の議題の足を引っ張っているのがバイオ燃料、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)、条約実行のための資金問題です。

 今日の作業部会は夜10時半過ぎまで続けられました。第一作業部会は気候変動、第二作業部会は新戦略計画が議題でしたが、通訳の時間切れのため、議論の途中で会議は終了しました。
( 動画配信・作業部会は日本語通訳あり http://webcast.cop10.go.jp/ondemand.asp )

 決議文のニュアンスの違いが政策の違いにつながるので、会議では言葉選びが延々と続きます。世界中の言葉の違う人たちが、どの言葉だったら合意できるのか辛抱強く探っていく姿を見ていると、言葉を獲得し、争いをやめて話し合いで解決しようとする人類の歴史に思いが飛びます。

 でも語る内容はいつまでも自国の利益の主張ではなく、地球の未来のために譲歩しましょう、になってほしいです。

JWCS 鈴木希理恵

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