生物多様性

2018年12月23日 (日)

2018年注目されたニュースTop10

2018年 JWCSのTwitterランキング

JWCSは野生生物保全につながる、おもに海外のニュースをツイッターでシェアしています。2018年に多く読まれた記事(インプレッション)上位10位を発表します!

第10位 EUで関心の高いウナギの保全

ヨーロッパウナギの資源量は90%下落。最終的に日本と中国のテーブルにのるウナギは「地球最大の野生生物犯罪」。犯罪組織の関与で取引関与はますます危険になった。 https://t.co/nAny2n94w4

ヨーロッパウナギはIUCNレッドリストでは「深刻な危機(CR)」とされています。ニホンウナギ、アメリカウナギの「危機(EN)」より高いランクです。ヨーロッパではウナギの生息地の保護も含め保全の関心が高く、新聞の見出しになっているようにEUではウナギの違法取引が“largest wildlife crime on Earth”と呼ばれているそうです。そしてヨーロッパウナギの稚魚が養殖用に密漁され、中国や日本が消費していることが注目されています。


第9位 トッケイヤモリの違法取引

トッケイヤモリの組織的な違法取引がインド東北部、ネパール、ブータン、バングラディシュで数百万ドル規模になっている。ペットや伝統薬に利用される。
鳴き声から名前がついたというトッケイヤモリは、日本で野生個体がペットとして3000円程度で売られており、知名度が高いためこの記事は関心を集めたようです。TRAFFICは2015年発行の報告書で、インドネシアでトッケイヤモリを商業用に繁殖しているが採算がとれないことや、捕獲により野生個体数に影響が出ていることを指摘しています。


第8位 鳥8種の絶滅が明らかに

新たな分析により、この10年で8種の鳥が絶滅したと判断された。そのうち5種の絶滅は南米の森林破壊が原因で、アニメ映画「Rio(ブルー初めての空へ)」に出てくる青いオウムも含まれる。
『IUCNレッドリストカテゴリーと基準』3.1版改訂2版によると、絶滅は「既知の、あるいは期待される生息環境において、適切な時期(時間帯、季節、年)に、かつての分布域全域にわたって徹底して行われた調査にもかかわらず、1個体も発見できなかったとき」とされています。この記事はバードライフインターナショナルの調査によって絶滅が明らかになったというものです。
これらの鳥の絶滅要因として持続的ではない農業と森林伐採が挙げられており、ブラジルから大豆などを輸入している日本の消費も無関係ではありません。


第7位 アフリカの国々によるゾウ保護の動き

ゾウを守りたいアフリカの国々が結成したアフリカゾウ連合(AEC)の会議がエチオピアで開催された。 https://t.co/0ke2gs4Xel

実はこの、アフリカゾウ連合はワシントン条約の重要なグループになっています。
南部を除くアフリカの国々にとってゾウの密猟は、種の絶滅の問題だけでなく、武装勢力が象牙の違法販売で資金を得ているので治安の問題として深刻に受け止められています。アフリカゾウ連合は、「国際的な象牙取引の脅威から逃れる」ことを目的の一つに掲げ、30か国が加盟しています。
そのためワシントン条約締約国会議で議題が投票にかけられた時、アフリカゾウ連合の30票とEU加盟国28票(2018年現在)は、採否を決める存在となっています。


第6位 世界のウナギを調査した報告書

過去10年で日本はウナギの主要な輸入国(図)。そして2014-2015年から2016-2017年の間に、日本の養殖池に入れられたウナギの57-69%(11-12トン)は、違法・無報告漁業、密輸によって供給されたと推定されている。 https://t.co/YVNztvnHjT
2018年7月に開催されたワシントン条約動物委員会には、現在附属書Ⅱに掲載されているヨーロッパウナギ以外の未掲載のウナギについて調査した報告書が提出されました。この報告書P43 の地図は、北米、ヨーロッパ、中東、東南アジア、オセアニアのウナギが中国に集まり、まとまって日本へ輸出されていることを表しています。これを見ると「ウナギは日本の食文化」と言っているだけでは済まされず、世界の野生生物の問題と認識する必要があることがわかります。
 
Unagi_2



第5位 種の絶滅の持つ意味

種の絶滅は、進化史の生命の木(系統樹)の枝を切ることであり、原生自然の破壊、密猟と汚染が50年以内に終了し、絶滅率が自然なレベルにまで低下したとしても、自然界が回復するには500~700万年もかかる、という論文が発表された。 https://t.co/1oIsCMquq4
この研究は種の絶滅を「何種絶滅した」と足し算をするのではなく、その種が地球上に出現し進化してきた時間を合計する考え方だそうです。例えば現存するゾウの種はアフリカゾウとアジアゾウの2種ですが、この2種を失うことは、マンモスやナウマンゾウなど過去に絶滅したゾウの系統の大きな枝を失うことになります。そして人間による大量絶滅が起きる前の系統樹のように枝が茂るまでには気の遠くなるような時間が必要とのことです。
 ちなみに野生生物保全論研究会(JWCS)は、未来の進化も考えた野生生物保全であるべきだと考えています。(詳細はJWCS(2008 )『野生生物保全事典』緑風出版をご覧ください)
Mammal diversity will take millions of years to recover from the current biodiversity crisis
Matt Davis, Søren Faurby, and Jens-Christian Svenning
PNAS October 30, 2018 115 (44) 11262-11267; published ahead of print October 15, 2018
第4位 どんな両生・爬虫類ペットが野外に放される?

外国産両生・爬虫類ペットのうち野外に放される可能性が高い種についての論文が公開され、長期間にわたって大量に輸入され、安く販売された種・長生きする種・安く販売され、成体が大きくなる種があげられている。
この論文では、初めて両生・爬虫類を購入する人に対し人畜共通感染症のリスクや長生きするペットを世話し続けられるかなど購入前に思いとどまる情報を提供すること、また小売業による買戻しやペットシェルターで野外に放すことを防ぐことを提案しています。


第3位 インドが規制強化

インドは野生由来の全てのCITES掲載動植物種(2種の木とその製品を除く)の商業輸出を禁止する。もしインドから野生由来の附属書Ⅱ掲載のカメなどが日本に輸入されたら、違反行為になります。 https://cites.org/sites/default/files/notif/E-Notif-2018-031.pdf


このCITESの通知文によると、締約国は違反行為をインド管理当局と事務局に通知するよう求められています。そうすると第9位のインドで密猟されたトッケイヤモリが日本で見つかったら、日本政府はインド管理当局とワシントン条約事務局に通知しなければならないことになりますが…。


第2位 爬虫類ペット密猟で日本人が南アで有罪に

日本人の男、南アで有罪判決 アルマジロトカゲ違法所持:朝日新聞デジタル https://t.co/X7LuOOw2Bf


アルマジロトカゲはワシントン条約附属書Ⅱ掲載種です。希少価値があり1匹30万円以上とも言われています。とか。附属書Ⅱ掲載種は税関で摘発されなければ、国内での譲り渡し(販売、貸借等)に規制はありません。税関でワシントン条約該当物品の関税法違反として差止めた件数に対し、通告または告発した事件数はわずか0.9%(税関におけるワシントン条約該当物品の輸入差止等の件数と主な品目2017年)。この事件は原産国の南アフリカで有罪になりましたが、日本の法律は野生生物犯罪に甘いと言わざるを得ません。


1位 ニュージーランドの外来生物対策

ニュージーランドは外来の捕食動物を2050年までに取り除く目標を掲げた。プロジェクトの一つにはキウイフルーツを使ったお酒のメーカーが保護区の島の外来捕食者の駆除を支援している https://t.co/JtqnK2qkcp


島単位での外来捕食者を駆除し、キウイなど在来の鳥たちを守る活動を、お酒のメーカーがタイアップしているというこの記事。以下がニュージーランド政府の「Predator Free 2050」のサイトです。国民運動になっているようです。
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このように2018年を振り返ってみると、爬虫類ペットとウナギ、そして野生生物に対する日本と海外の温度差が注目されたように思います。
2019年は5月にワシントン条約締約国会議がスリランカで開催されます。野生生物の保全に前進が見られる年になることを願っています。

対象期間2018年1月1日~12月15日 
ツイッターの文面は一部修正してあります。
記事の内容を正確にお知りになりたい方は、原文をご参照ください。

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2018年6月 7日 (木)

シンポジウムの話題から考えたこと

生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存
2018年6月2日(土)早稲田大学 
主催:WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会 
共催:IUCN日本委員会、イルカ・クジラ・アクションネットワーク、グリンピース・ジャパン、トラ・ゾウ保護基金、野生生物保全論研究会
シンポジウム全体の内容は主催団体からの報告に譲り、ここではJWCSの理論研究会でテーマとしてきた、「保全と利用」について考えてみました。
●未来のおじい、おばあはヤンバルクイナを食べるか?
 シンポジウムで「昔はヤンバルクイナを食べていたと沖縄のおじい、おばあは言っていた、将来ヤンバルクイナの数が増えて、再びおじい、おばあがヤンバルクイナを食べられるようになるといい」という話がありました。
 絶滅危惧種が消費できるほど増えてほしいという意味だと思いますが、実際にヤンバルクイナを食べるようになるでしょうか?

 未来のおじい、おばあは、現在の小学生かもしれません。2015年に沖縄のヤンバルクイナ生態展示学習施設に行ったとき、国頭村のヤンバルクイナのキャラクターの名前が「キョンキョン」に決まったお知らせや、ヤンバルクイナを小学生が描いた絵が張られていました。
 もしも生態展示学習施設でヤンバルクイナの絵を描いている遠足の小学生に、「おじい、おばあになったらヤンバルクイナを食べたい?」と聞いたら「へんなひとー!」と言われてしまうかもしれません。そして帰宅後、「ママー、今日ね、変な人にヤンバルクイナ食べたい?って声かけられた」なんて話したら、「遠足で不審者出没」というLINEが保護者の間で飛び交ってしまうかもしれません。それくらいヤンバルクイナに対する認識は変わっているのではないでしょうか。将来、数が増えてもヤンバルクイナは大切にするものであって、食べるものではないという認識は変わらないのではないかと思います。
●「食べる」「カネになる」だけが自然と人のつながりか

 またシンポジウムでの「食べたり、利用したりするという伝統的な自然とのつながりがなくなると、その自然を守ろうと思わなくなる」という話にも疑問を感じました。
 生態展示学習施設でヤンバルクイナの絵を描いた小学生は、昔ヤンバルクイナを食べたおじい、おばあに比べて、自然を大切にする気持ちが劣っているのでしょうか。そうではなくて自然と人間のつながりが「それ食えるのか?それともカネになるのか?」というつながりから、「絶滅危惧種は大事にする」に変化したのではないかと思います。
 かえって「食べる・カネになる」という価値は、自然に対してより大金が提示されれば(カネがあればもっといろいろな食べ物が買えるので)小さくなってしまうでしょう。
 今回のシンポジウムの登壇者のひとり、中静徹・総合地球環境学研究所特任教授の論説文「絶滅の意味」が中学校の国語の教科書に掲載されています(新編 あたらしい国語 3年 東京書籍)。生態系のしくみや生態系サービスなどを学んだ世代は、「それ食えるのか?カネになるのか?そういう価値がなければ守る必要はない」というのは、20世紀の人間の考えだと思うのではないでしょうか。
 そうすると「伝統が失われて嘆かわしい」という声が上がるかもしれません。しかし失われる伝統には、若い世代に引き継がれない理由があるはずです。
 一般に伝統と言われるものには昔ながらの男尊女卑がしみ込んでいるので、それを理解せずに「上から目線」で「伝統を守れ」と言ったところで、若い世代、とくに女性から忌避されて静かに廃れるのではないかと思います。 「伝統」は絶対視されがちで、反論すると面倒くさいので、伝統が廃れる本当の理由は表に出ないように思います。
 ところでご神木や神の使いなど「食べる、カネになる」以外の価値のために野生生物を大事にすることもありますが、その「伝統」はあまり強調されないようです。定義があいまいな「伝統」よりも、地域の自立と持続可能性から地域の将来を考える方が、保全につながるのではないかと思います。
 
 
 さらにこのシンポジウムは、登壇者が全員男性でしたが、参加者には多くの女性の姿がありました。また仕事としてレッドリストや生物多様性について情報収集のために来ている参加者が多いように見えました。

 いまや自社の企業活動が種の絶滅に加担してしまったら、自社製品の不買運動がインターネットを通じて世界規模で起こるかもしれません。また投資家が、環境への配慮が足りない持続的でない会社と判断して投資をやめるかもしれません。絶滅危惧種への対応はビジネスリスク要因になったのです。ここにも「食えるのか?カネになるのか?」という認識とのギャップがあります。  
 このシンポジウムは「生物多様性基本法制定10周年記念」として、法律制定の経緯やレッドリストの基本となる考え方など、過去を振り返って意味を考えたり、整理をしたりする、その名にふさわしい内容でした。そこで語られた「過去」と、現在の認識のギャップは、もしかしたら主催者側より参加者の方が、より多く気付いたかもしれないと感じました。 
 
(JWCS 鈴木希理恵)

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2016年12月28日 (水)

CBD COP13印象記

生物多様性条約第13回締約国会議(CBD-COP13)は、前回の平昌(韓国)と違い、暖かいカンクン(メキシコ)で12月4日~17日(ハイレベルセグメントは12月2、3日開催)に開催されました。
今回は、生物多様性条約、カルタヘナ議定書、名古屋議定書の会議が期間中に開催されていました。私は12月12日~17日まで参加してきました。

Cbdcop13

会議に参加した時には、ワーキンググループ2では侵略的外来種、第8条j項、EBSA(生態学的、生物学的に重要な海域)、合成生物学の議題が行われていました。
CBDでは、会議の他にも展示やサイドベントが行われております。
サイドイベントは午前と午後の会議の合間、午後の会議後にサイドイベントが同時並行的に10前後行われています。また会議中に行われるイベントもあります。
CITES同様、サイドイベントの報告では地域コミュニティについての重要性が感じられました。
ただ、CITESと違うのは、CITESでは種を中心にしていますが、CBDでは特定の種の動物というわけではなく全ての生物に関わっているということです。そのため、農業に関する報告もあれば、海洋に関する報告もあります。
「持続可能な野生生物管理における男女の役割」についてのサイドイベントでは、野生生物管理の現場には女性の参加率が上がっている事例や、livelihood(生計)の中での男女がどのように野生生物と関わる可能性があり、持続可能な野生生物利用などの報告がありました。
今回参加したサイドイベントには、野生生物管理に関連するものはあまりなく、伝統的な知識に関連する報告などは見ることができました。今回の会議がメキシコということもあり、中南米の報告なども多かったように感じました。
CITESとCBDという、一見同じ生き物に関わる条約なので、関わっている人も重なるように思いますが、実際に参加してみると、別な感じを受けました。
CITESには動物好きな人が多い印象を受けますが、CBDには自然環境好きの人が多く参加しているように思います。またCBDには、ビジネスセクターからの参加も多いように感じす。
CBDの議題の決定文書には、CITESに関わる文言が含まれていますので、今後、その文言がどのような意味を持つのかということも関心を持って、見ていく必要があるように思います。
またCBDが、ただの文書作りの場にならず、決定された文書に沿って、文書を作成した責任を持ち、各締約国が実行していくことに注目していきたいです。
高橋雄一

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2015年3月26日 (木)

野生生物の保全をめぐる「対立」と「連携」

●90年代以前:「コケか電気か」の対立の構図


 自然保護か開発かの対立の議論として、尾瀬の電源開発が象徴的であるので以下に引用する。
 「戦後、荒廃した国土の復旧のために資源開発と電源開発が急で激しい自然破壊が目立ち、これに対して1949年尾瀬保存期成同盟がつくられた。電源開発が必要とはいえ、尾瀬を水没させるのは許せないというものであった。この後もやつぎ早に起こる開発計画に対し、1951年には日本自然保護協会と改称して、意見を出し続けていた。構成メンバーは学者、登山家等であり、大所高所からものを言う形であったことは否めなかった。
 しかし、マスコミの取り上げ方は、「苔か電気か」「トンボか電気か」「人か鳥か」であり、世間一般が自然保護思想を持たなければ所詮解決にならないとの結論に達し、日本自然保護協会は1960年、組織を法人化して自然保護思想の普及・啓発に力を入れることになった。」(金田1996)
 21世紀の今、「尾瀬を水没させて発電ダムをつくるべきか」と問われたら、「発電は他にも方法があるので尾瀬の自然を失うべきではない」という意見が多いのではないだろうか。
 かつては「コケか電気か」の対立の構図であったが、今は尾瀬の自然を残しつつ電力を得る方法を考える、つまり自然を残すために解決策を探る時代になったのではないか。これは引用文に書かれている、自然保護教育に携わった方々の長年の努力のたまものであろう。


●90年代:地球サミットと「持続可能な開発」


 JWCSが発足したきっかけの一つが、1992年の地球サミットの前からよく使われるようになった「持続可能な開発(Sustainable Development)」という言葉の使われ方である。JWCSの会報の第1号の巻頭言「野生生物保全論研究会の発展を目指して」では、「Sustainable Developmentの都合の良い独り歩き」を懸念している。(小原 1994)
 「持続可能な開発」に対するJWCSの意見は以下である。
「developmentの訳語である「開発」の実態が、自然の人工化であるならば、開発と野生生物保全とは相容れないものである。むしろdevelopmentを「人間、社会の発展」と考えれば、developmentは野生生物保全をその重要な一画に組み入れねばならない」(本谷・岩田2008)
 国際的にはJWCSの意見の方向へ動いている。Developmentを使っている国連のミレニアム開発目標は、貧困と飢餓の撲滅、初等教育の達成、女性の地位向上、乳児死亡率の削減などを掲げ、「人間、社会の発展」の意味で使っている。そして2014年10月に開催された生物多様性条約第12回締約国会議では、開発目標に生物多様性と生態系の見地を入れるよう働きかける決議がなされた(決議XII/4)。
 また同会議では、ブッシュミート(野生動物の肉)についての決議がなされたが、こちらは「生物多様性の持続可能な利用(Sustainable use of biodiversity)」 を使っている(決議XII/18)。
 ただこれらの「持続可能」の中身が実際に野生生物の保全になっているかどうか、常に検証することは重要である。


●00年代:ミレニアム生態系評価と「生態系サービス」

 2000~2005年に国連の主導で、生態系に関する世界で初めての大規模な調査である「ミレニアム生態系評価」が行われた。調査は人為的な生態系の変化と多様性の減少を明らかにした。また生態系による人間への恵みを「生態系サービス」と呼び、供給サービス(食料・水など)、調整サービス(気候・土壌など)、基盤サービス(生物の生息環境)、文化的サービス(神秘体験、レクリエーションなど)に分類して状況を評価した。つまり生態系は人間の生存の基盤であることを明らかにしている。
 この流れを明確にしたのが、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約国会議COP10で採択された「愛知ターゲット」である。2020年までの短期目標には「抵抗力ある生態系とその提供する基本的なサービスが継続されることを確保。その結果、地球の生命の多様性が確保され、人類の福利と貧困解消に貢献」とある。


●10年代:愛知ターゲットと「連携」

 生物多様性条約は条約の目的の一つに「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」があり、農業や先住民などのテーマが継続して議論されてきた。これに近年は、ジェンダー、貧困、健康の問題と生物多様性を連携した議題が加わっている。そして前述の「愛知ターゲット」は2010年までの戦略目標が達成できなかった反省から、政策のあらゆる分野に生物多様性保全を組み入れることを目標としている。
 ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約)も、国際取引の規制だけでなく、種の絶滅の背景にある人のくらしが議題に加わっている。(表)

 またこれらの国際環境条約同士と国連機関などが連携する動きも強まっており、条約の決議文などにそれを見ることができる。例えば前述のブッシュミートについては、先住民が伝統を継続できないほど森林の動物が減少し、動物による種子の散布がなされなくなって森林生態系全体が劣化しているとの認識から、ワシントン条約と生物多様性条約が連携している。
 とくに象牙の密猟・密輸などの野生生物犯罪は、種の絶滅の問題としてだけでなく、国際犯罪組織や武装組織の資金源の問題として、国際社会が協力して取り組むべきという認識が広がっている。
 つまり、生物多様性や野生生物の問題と貧困や紛争の問題は別物ではなく、それらの解決のために一緒に議論しようという「連携」が国際的な流れになっている。


(表)ワシントン条約と生物多様性条約の議題の変遷
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ピンク:ワシントン条約締約国会議 議題番号
緑:生物多様性締約国会議 決議番号

条約事務局ウェブサイトを元に鈴木作成
*1 The Millennium Development Goals (MDGs) 
*2 The post-2015 United Nations development agenda and the sustainable development goals (SDGs)


●日本の政策に残る対立の構図

 ところが、日本の政策においては野生生物か人間かの対立の構図が用いられる。以下は平成27年度の水産庁補助事業の説明である(農林水産省のウェブサイトから閲覧可能)。
「国際漁業連携強化・操業秩序確立事業(拡充)
(2)国際漁業連携強化事業
我が国漁船の海外漁場での操業を確保するため、国際漁業(主要国の漁業政策、RFMO、環境 NGO、環境保護国及びその影響を受けやすい国等の動向等)に関する情報収集・分析、環境保護国等の影響を受けやすい国への働きかけ、漁業関係者への情報提供」
 ここには「コケか電気か」と同じ「産業か環境保護か」の対立の構図がある。そしてこの文章によると日本は「環境保護国」ではないようである。
また「環境NGO」を対立の相手としているが、国際的にはさまざまなセクターの連携が重視されている。
 例えば2014年3月の「世界野生生物の日」に関連してインターポールの環境部長が来日した際には、JWCSを含む日本の野生生物犯罪に関する活動をしているNGOとの意見交換会が行われた。政府とNGO(非政府組織)の対立ではなく、NGOを政府から独立した組織と認めた上での連携である。


●JWCSの活動の中で

 これらの状況から考えると、野生生物を脅かす人間社会の問題に踏み込んで解決策を考えること、そしてそのような動きがあることを国内に浸透させ、短期的な利益を求める「産業か環境保護か」の対立の考えから脱却することが重要に思われる。
 そのためJWCSはワシントン条約プロジェクトとして、日本で絶滅のおそれのある野生生物が消費されている問題について、国際団体と協力した提言や消費者への普及啓発活動を行っている。
 また生物多様性条約プロジェクトとして、自然を収奪する社会から生物多様性を基盤とした社会へ転換することを研究し提案している。
 今や地球上で人間活動の影響の少ない野生の世界はわずかになってしまった。例えばアフリカゾウの生息地はアフリカ大陸に点々と残るだけになってしまっている(地図)。
野生の世界を野生のままに残すことが、当会の目的であることは会の発足以来変わらない。そのため人間社会の問題に踏み込んで解決策を考えるときに、安易な人為化を避けること、予防原則を徹底することを原則としている。

Elephantpopulationdistribution
(地図)UNEP, CITES, IUCN, TRAFFIC (2013) Elephant in the dust - The African elephant crisis. p.19

「野生生物保全」とは
 「野生生物保全」と同じような意味合いで一般には「自然保護」や「環境保全」が使われる。
 JWCSでは野生生物を「人為の影響を受ける・受けないに関係なく、そのものが自律的に維持存続し、長い時間的経過のなかで自己運動的に進化していく生物世界」と定義している。またその保全を「野生生物を賢明に合理的に利用しながら野生生物が野生生物として存続することを保障するという具体的な方策を含めた概念」としている(本谷・岩田2008)。
 この定義を分かりやすく普及させるため、「野生の世界は野生のままに」というキャッチフレーズを使っている。
 「自然保護」や「環境保全」はさまざまな概念があるため、引用文に関連した記述では引用文に従った語句を使っている。

小原秀雄(1994)『野生生物保全論研究会会報No.1』巻頭言
金田平(1996)『自然教育指導事典』国土社 p16 
本谷勲・岩田好宏(2008)『野生生物保全事典』野生生物保全論研究会編 緑風出版p25-32、P74

(鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2014年7月31日 (木)

命の集合体としての川の価値

●豊かな球磨川とともにあるくらし


 7月26・27日の2日間、JWCS愛知ターゲット3委員会のメンバー4人で、熊本県八代市を訪れました。生物多様性に影響を及ぼす奨励措置の研究として、荒瀬ダム撤去による自然の変化や地域社会について聞き取り調査をするためです。

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 ご案内いただいたのは、代々、八代にお住いのつる詳子さんでした。自然観察会を通じて長年、球磨川、不知火海の自然保護活動に携わってきた方です。
 つるさんが話すのは球磨川にダムがなかった時代の豊かなくらしでした。ブランドの服を買ったり、海外旅行に行ったりできなかった時代がなぜ豊かと言えるのかと考える人もいるかもしれません。
 しかしかつての海や川の漁師は、家の建て替えや家族の結婚など大きな出費があるときに集中して働けばまかなえ、親は子どもにおこづかいをあげなくても子ども自身がアユやウナギを取って稼ぎ、なかには学費を稼ぐ子もいたといいます。
 その豊かさや安心感の価値は、とくにブラック企業で働かざるを得ない若い世代には理解できるのではないでしょうか。

 ダムがなかった時代の洪水は、水位の予測がつくため畳や家財道具を水のこないところに上げて準備することができたそうです。そしてあらかじめ洪水になっても水の流れに逆らわないように柱を立てたり、二階に荷物をあげる滑車をつけたりと洪水を見込んだ家を建てていたそうです。私が状況を想像できなかったのは、「流れてくる水がきれいなので、水が引いた後は川砂を片付けるだけ、障子は外して流れないようにひもをつけておいて洪水の後は障子紙を新しく張るだけ」というお話でした 。
 家の中が泥だらけになって財産を失うという「水害」は、水位の予測がつかない洪水時のダムからの放流が行われるようになってからだそうです。

 不知火海から球磨川に沿って上流に向かう道を車で行くと、仁徳天皇時代に中国の揚子江から9千匹のカッパが来たという「河童渡来之碑」、景行天皇が熊襲(くまそ)征伐に来た時に(地元の人にとっては鬼が)座ってお昼ご飯を食べた岩、戦国時代に落城した城の女性たちが淵に身を投げた岩、明治になって鉄道が通り、川いっぱいに飛ぶホタルを減速して見せた「ホタル列車」のビューポイントなど、川とともに生きた人々の長い歴史をそこここに見ることができました。

●ダム撤去で復元する自然

 そんな球磨川に荒瀬ダムが竣工したのは1954(昭和29)年、県による発電ダムとして作られました。球磨川水系の上流部には国直轄の多目的ダムである川辺川ダムが計画されていました。

 しかし強い反対運動があり、現在は国と県、流域市町村長が参加してダムによらない治水の検討が進められています。この川辺川ダム問題が注目されていたころ、荒瀬ダムの水利権の期限がせまり、漁協や住民の強い反対で更新されずに撤去されることになりました。
 つるさんの話では、2010(平成22)年3月にダムのゲートが開き、水位が下がると瀬が現れて水はすぐにきれいになり、その年の夏はヘドロが臭かったけれど悪影響は1年ほどだったそうですと言います。
 荒瀬ダムのゲートを開けた後、上流にある瀬戸石ダムが点検のため冬の2か月間ゲートを開けるようになると、それが青のりの生育に重要な時期と重なったため今まで30センチくらいしか大きくならなかった青のりが、1.5メートルにも育つようになり、品質も良くなったそうです。また点在していた藻場の面積が3倍に広がり、漁師さんたちは2012年ごろからウナギやクルマエビが増え始めたと言っているそうです。
 水のよどんだダム湖だった場所が浅瀬や淵になり、川砂や砂利の河川敷が現れると、植物が生え、浅瀬にオタマジャクシが泳ぎ、小魚を狙う鳥たちが集まってきます。川とは水が高いところから低いところに流れるだけのものではなく、たくさんの命の集合体として存在しているものなのだと思いました。

●川の「命をはぐくむ力」を取り戻すお金の使い方

 しかし、荒瀬ダムより上流にある瀬戸石ダムがアユの自然な行き来を止め、また放流すれば干潟に大量のへドロが流れ込んでアサリが埋もれてしまったり、アユの稚魚が海に下っていく距離で考えると産卵に一番適している場所に堰があったり、周辺の山が放置されたスギ・ヒノキの植林地で土砂崩れの原因になったりと、まだ川は命をはぐくむ力を昔のように発揮できないようです。
 瀬戸石ダムは電源開発による発電ダムで、2014年、住民との話し合いに応じずに水利権が20年延長されました。「水力は原子力発電よりクリーンなエネルギー」など総論で片づけるのではなく、このダムの発電量なら節電技術や、その地域の資源を活かした他の再生可能エネルギーに替えられないかなど具体的な検討とともに、過疎・高齢化が進む中で希望の持てる将来について議論を重ねる重要性を感じました。
 川はよく龍にたとえられます。ときどき暴れて周囲の環境をリセットしながらも、野生の命をはぐくむ力を持ち、人が有形無形の恵みを引き出すことのできる命の集合体だと思います。
 その龍の価値を損なうお金の使い方をやめる。「生物多様性に悪影響を及ぼす奨励措置(公的資金も含まれる)の廃止(愛知ターゲット3)」はそう言い換えることができるのではないかと思います。
                                                                        (鈴木希理恵 JWCS事務局長)
<参考>荒瀬ダムと川辺川ダムの現場から
    最近の状況

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2014年2月24日 (月)

生物多様性条約 国別報告書・国家戦略のパブリックコメント

1月27日、環境省中央環境審議会自然環境部会(第21回)を傍聴してきました。
 今回の議題は、鳥獣保護法、種の保全戦略、生物多様性条約事務局に定期的に提出する国別報告書と国家戦略の点検結果についてでした。

今回はこの議題のうち、生物多様性条約の事務局に提出する国別報告書と、国家戦略の点検結果についてご報告します。
 国別報告書は生物多様性条約第26条に基づき、締約国が自国の実施状況を条約事務局に提出するレポートです。前回は2009年3月に提出されました。今回の国別報告書は2014年10月に開催される第12回締約国会議で予定されている愛知ターゲットの中間レビューや、地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)の情報源になります。
 
条約事務局ホームページ 国別報告書
 日本政府が提出する国別報告書(案)は、1月27日~2月20日までパブリックコメントが募集されました。
●生物多様性から見る未来

報告書は全100頁もあります。
第1章が生物多様性の状況、傾向と脅威、
第2章は生物多様性国家戦略の実施状況及び生物多様性の主流化、
第3章は愛知目標の達成状況及びミレニアム開発目標への貢献
の3部構成です。

 第1章では、東日本大震災の生物多様性への影響報告されています。津波によって生息地そのものが失われた場所がある一方、攪乱によって生態系が回復した事例が掲載されました。生物多様性の脅威の項では、依然開発が絶滅の脅威である図が掲載されています。そして生態系別にみると陸水生態系、島嶼生態系、沿岸生態系で生物多様性の損失が大きいことが述べられています。
 第2章は愛知ターゲットに対応した生物多様性国家戦略2012-2020についてです。そこでは新たに示した「自然共生圏」について述べられています。東日本大震災からの教訓としての食糧やエネルギーの地産地消、地域内循環による自立分散型の地域社会、そして生態系サービスを供給する地方へ需給する都市からの資金・人材・情報の提供で支えあうという考え方です。
 また第3章の「条約の実施から得た教訓」には(4)人口減少等を踏まえた国土の保全管理の項があり、生物多様性は地球の将来を考えるキーワードであることがわかります。

●進まない愛知ターゲット3

 この国別報告書(案)の中で、JWCSが取り組んでいる愛知ターゲット3(生物多様性に有害な補助金などの奨励措置を廃止・改革する)についてみてみました。
「奨励措置  多様な主体による生物多様性に関する取組を促進するための経済的措置としては、国からの補助金や交付金(生物多様性保全推進支援事業、緑化対策事業など)、税制上の措置、各種基金による助成(地球環境基金など)、損失補償、任意の募金や協
力金の提供、地方公共団体による森林環境税などがあります」との表記がありました。
しかし進捗状況については
「奨励措置による生物多様性への影響については、引き続き、考慮していきます」
しか書いてありませんでした。
 そこで、パブリックコメントでは以下のようにコメントしました。
(意見)
生物多様性保全目的の新規補助事業や、奨励措置の生物多様性保全を目的とした変更など、愛知目標3に向けた進捗状況を具体的に記載すべき。

(理由)
締約国として、また愛知目標が採択されたCOP10のホスト国として、目標の達成に責任ある対応が望まれる。とくに農業・漁業分野の補助金に関しては、国際交渉の場で環境への影響が議題になっており積極的に取り組むべきである。


資料1として添付したのは、条約事務局から愛知目標3の進捗についての調査です。2013年3月12日付の文章で、7月5日までに愛知ターゲット3である、生物多様性に有害な奨励措置の廃止や改革が進まない理由について締約国に回答を求めています。
資料2として添付したのは他国の事例で、フランス政府が2012年に発表した報告書『生物多様性に有害な公的援助』です。JWCSが2012年に発行した報告書にこの報告書の一部を和訳し資料として掲載しました。フランス政府は前回の締約国会議(COP11)の前に、自国の制度を生物多様性の視点から点検する報告書を作成していました。
自国の制度を点検し、その結果を踏まえて廃止した補助金や改革した補助金を金額で示せれば、国際社会に胸を張って報告できると思うのですが。



●国家戦略の点検


「生物多様性国家戦略2012-2020」の実施状況の点検結果(案)に対する意見募集(パブリックコメント)も同時に行われました。
こちらは愛知ターゲット達成のロードマップに対する国家戦略の点検で3部構成になっています。
第一部 5つの基本戦略に関する取組
  1生物多様性を社会に浸透させる
  2地域における人と自然の関係を見直し、再構築する
  3森・里・川・海のつながりを確保する
  4地球規模の視野を持って行動する
  5科学的基盤を強化し、政策に結びつける

第二部 愛知目標達成に向けたロードマップの進捗状況
 愛知目標を国内の事情に合わせて具体的にした国別目標の評価です。
第三部 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する行動計画の点検結果
 ここには水質の改善や生物多様性地域戦略を策定した自治体の数など数値目標に対する進捗状況と、各省庁の事業のうち生物多様性に関するものの一覧が掲載されています。

 奨励措置に関しては、国別報告書と同じ文言が使われていましたので、パブリックコメントでは国別報告書と同じ点を指摘しました。

 生物多様性国家戦略が描く未来図は、過去と地続きでありながら斬新で、希望が灯されていると思います。しかしそれに向けて環境省以外の農水省、国交省、経産省などの本気度が点検結果からは残念ながら感じられませんでした。

(鈴木希理恵 JWCS理事)

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2014年2月 4日 (火)

伝統知識と地域性を重視する生物多様性保全とは

2014年1月30日、環境省主催のIPBES第2回総会の報告会に参加しました。

 IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)とは、気候変動枠組条約のIPCCのように、国際的な専門家が構成する、科学的評価を行う機関です。

 2012年4月に設立され、第1回総会が2013年1月にドイツのボンで、第2回総会が2013年12月にトルコのアンタルヤで開催されました。この2回の総会で組織の枠組みやルール、予算が決まり、いよいよ参加する専門家を募集するという段階にきたという報告でした。

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 登壇者の中でとくに国連大学上級副学長の武内和彦氏のお話が興味深かったのでご紹介します。

 IPBESの機能は
1.知識の創出(知るべきことがたくさんある) 
2.アセスメント(評価) 
3.政策立案支援(研究結果を政策に結びつける)
4.能力形成(とくに途上国での人材育成)
です。

 立ち上げに際し世界の研究者にアンケートをしたところ、生物多様性分野の場合は通常議論に使われる査読付きの論文ではなく、伝統知識が重要であると8割の研究者が答えたのだそうです。また国連の地域区分や国境のような政治的な地理ではなく、生態学的な地域区分を採用すべきとの意見が多かったそうです。


 伝統知識と地域性を重視する生物多様性保全とは? 武内氏の報告資料を以下に引用します。

「先住民・地域の知識体系の基礎的側面とその世界観」


・社会経済・文化・環境の相互依存性
・社会的な関係と人間同士の相互依存、および人と自然の一体性の重要性
・過去、現在、そして将来世代の関係の連続性。価値、知識と責任の世代間伝達
・自然領域、社会領域における循環プロセスの強調
・場所、土地、先祖の領地に対する共同体のアイデンティティ
・景観モザイクと生物多様性の維持と管理におけるコミュニティの役割と認識
・知識にとどまらず実践すること
・言語の重要性、言語の多様性
・ジェンダーを考慮した役割と知識の認識
・スピリチュアリティー(霊性)の重要性

これって途上国の話では?と思うかもしれませんが、私は最近テレビで見た防潮堤問題を思い出しました。

例えば防潮堤の建設をどうするか、というときに、

・その集落のなりわいや引き継がれてきた文化は、海と切り離しても続くものなのか?
・将来世代や女性の意見が取り入れられているか?
・防潮堤は自然の循環や人と海とのつながりを絶たないか?
・集落の歴史や土地に対する共同体のアイデンティティを失うことにならないか?
・朝日を拝む、というようなスピリチュアリティーはどうでもいいのか?
などの議論はどうだったのでしょうか。

 愛知ターゲットは20の目標をその内容によってAからEまで5つに分類しています。戦略目標Aは「生物多様性を主流化して損失の根本原因に対処する」で、4つの具体的な目標が立てられています。目標1は「認識する」ですが、2から4までは、政策や経済活動の中で生物多様性が主流になることが目標です。

 それは防潮堤問題などさまざまな意思決定の場で、伝統知識や地域を重視する、生物多様性の視点が活かされるようになることです。そして生物多様性保全が地域振興につながるように、社会の仕組みを逆回転させていくことではないかと思います。

                            鈴木希理恵 JWCS理事

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2014年1月28日 (火)

狩猟だけでない総合的な対策の議論を早急に(審議会傍聴報告)

1月27日、環境省中央環境審議会自然環境部会(第21回)を傍聴してきました。
 今回の議題は、鳥獣保護法、種の保全戦略、生物多様性条約事務局に定期的に提出す
る国別報告書と国家戦略の点検結果についてでした。これらを3回に分けてご報告します。

●「鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき講ずべき措置について」


 鳥獣害対策のために狩猟をし易くする法改正のための検討が、2013年5月から自然環境
部会の中の鳥獣保護管理のあり方検討小委員会で行われてきました。狩猟を行う事業者を認定する制度などを盛り込んだ答申案について11月、12月にパブリックコメントが募集され、修正された答申が自然環境部会で諮られました。

 小委員会委員長からの報告では、「シカを減らすことは当面必要だが、その先の目標や捕獲以外の対策が課題として残っている」と述べていました。またパブリックコメントで捕獲そのものへ対する否定的な意見が多かったことに配慮したことも述べていました。答申の中の「国民の理解を得るための取組の推進」の項の書き換えや、捕獲以外の対策の加筆がその部分ではないかと思います。
 審議会というと行政の案をそのまま承認するだけともいわれますが、自然環境部会では、委員の発言を取り入れて小委員会の答申を修正することになりました。

 JWCSの生物多様性プロジェクト3では、愛知ターゲットの目標3(補助金を含む奨励措
置の改革)を研究しています。その点からみると「行政による鳥獣管理に鉛弾は使わな
い」のように、公的資金による事業での環境配慮の要件を厳しくすることは、奨励措置
改革の一つであると思います。
 ちなみ鉛弾の件は、小委員会の答申に「原則として」とあった部分を自然保護部会での意見で削除することになりました。


 また、2007年に農林水産業被害防止のための「鳥獣被害防止特措法(農水省)」が成
立し、1,331市町村(2013年4月)が被害防止計画を策定しました。しかし都道府県が策定する鳥獣保護事業計画・特定計画(環境省)との整合が十分図られていないことが答申で指摘されています。
 さらに鳥獣被害問題の背景にある、里地里山地域の無居住地化など、社会の変化につ
いても答申では触れています。
 鳥獣被害の防止には、狩猟だけでなく省庁をまたがるさまざまな政策が考えられます。この「政策統合」は愛知ターゲット3の研究の中でも重視している考え方です。

 
 答申が指摘するように、狩猟による対処にとどまらない総合的な対策の検討が早急に始
まってほしいものです。
                                    (鈴木希理恵 JWCS理事)

・鳥獣保護管理のあり方検討小委員会 
・中央環境審議会自然環境部会

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2013年11月29日 (金)

第1回アジア国立公園会議(APC) 保護地域の管理と生物多様性

11月13日~17日、第1回アジア国立公園会議(主催IUCN、環境省)が仙台国際センターで開催されました。
 会議では「保護地域の協働管理」のワーキンググループを中心に参加しました。その一部をご紹介します。


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●住民の協力を得るために絶滅危惧種の輸出を可能に

 パキスタン政府は、地域コミュニティーが管理するトロフィーハンティングの制度を成功例として報告していました。パキスタンの山岳地帯に生息する野生のヤギ、マーコールは角が長く、ハンティングトロフィー(狩猟記念品・壁に飾る頭部の剥製)として人気が高い種です。マーコールはIUCNレッドリストのでは絶滅危惧種でワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰ(国際取引原則禁止)に掲載されています。

 パキスタン政府は住民の協力を得るために輸出枠を求め、第12回締約国会議でシーズン毎マーコールの輸出枠は12頭に決まりました。この12頭は3つの保護地域に割り当てられ、狩猟の代金の80%が地域の保護委員会の収入になり、人口増に対応するためのインフラ整備や教育に使っているそうです。プロジェクトはWWFパキスタンがサポートしています。輸出割り当てに対して、パキスタン政府は保護地域ごとのマーコールの生息数を条約事務局に提出するなど管理義務があります。

 この制度が成功例であり続けるための運用や、そもそも外国人が払う高価な狩猟代金に依存する制度や、絶滅危惧種のハンティングトロフィーを珍重する価値観など、生物多様性を保全する奨励措置として考えるうえでは論点があるように思います。


●アジアゾウ・オランウータンの生息地での違法伐採

 インドネシア森林省からは保護地域での違法伐採対策についての報告でした。アジアゾウ、オランウータン、スマトラサイなどの重要な生息地であるルーサー国立公園では保護地域内で違法伐採が行われ、パームヤシの農園にされています。保護地域の面積に比べ森林省の職員が少なく能力開発も不十分なため、地域のリーダーと協力して、コミュニティベースのエコツーリズムを実施しているそうです。

 ルテン・レクリエーション公園では違法伐採され、跡地がコーヒー農園になっています。そこで地域でのワークショップや共同アクションプランの策定、コーヒー農園以外の産業育成を行っているそうです。

 しかし違法伐採の背後には、都市部に住む権力者がいるけれど逮捕できないと、報告者はくやしそうに話していました。その代わりに違法伐採に手を染める貧しい人たちに、エコツーリズムなど別の仕事を提供しているとのことでした。

 米国では違法に捕獲した野生動物の売買を禁じるレイシー法があり、今では木材も対象になっています。そして米国の国内法だけでなく、原産国の法律に違反した製品の米国内での所持・販売も取り締まりの対象になり、事業者自身が合法であることを証明しなければなりません。しかし日本には違法木材の輸入に対してこのような強い規制はありません。各国が協力して違法木材を市場から締め出せば、インドネシアの生物多様性保全に貢献できるのではないかと思います。


(鈴木希理恵 JWCS理事)

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2012年7月 9日 (月)

生物多様性国家戦略(案)パブリックコメント募集開始

2012年10月にインドで開催される生物多様性条約COP11の前までに、環境省は改定した生物多様性国家戦略を閣議決定する予定です。
 パブリックコメントの募集が7月6日から始まりました。8月5日までです。
各地で開かれる説明会にもぜひ参加しましょう。

★環境省 報道発表
 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15444


 国家戦略(案)を読むと第一部は、生き物の名前を挙げた具体的な例もあり、「ほほぉ、なるほど」と日本の現在の生物多様性の全体像がわかってきます。

 でも、国の役割(p.95)になると、愛知目標の戦略目標Aに掲げられた「生物多様性の社会における主流化」の達成のため、まずは全省庁の事業で主流化をすすめます!というわけではなく、ただ環境省の仕事が書いてあるようです。そのわりには市民の役割はたくさん書かれています。

 さらに第二部の愛知目標の達成に向けたロードマップになると「それで愛知目標は達成できるの?」と感じます。
 例えば今年度JWCSが調査提言を行う、目標3の生物多様性に影響を及ぼす補助金についても、「有害な補助金を廃止します」とは書いてありません(p.100 A-1-4)。

 第三部の行動計画になると各省庁の事業の集まりで、愛知目標を達成するための国家戦略改定なのにと頭を傾げたくなります。
 今までの国家戦略の点検結果には年度ごとの当初予算が書かれています。事業の中には「の内数」と、その事業の予算の中で生物多様性の事業にいくら使われたのか、わからないものの方が多いのですが、環境省よりも国土交通省や農林水産省のほうが事業規模が大きいことがよくわかります。
 第一部で書かれたことを環境省以外の省庁でも実行する強いしくみが、愛知目標の達成に不可欠です。

★国家戦略2010の点検結果 2.具体的施策の点検結果
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=19165&hou_id=14785

これでは何度改定しても生物多様性は減少してしまうのではないか・・・と無力感に襲われますが、希望を捨てずにパブリックコメントを提出しませんか。

    (鈴木希理恵 JWCS理事)

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