日本がボン条約に批准しない理由
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
2008年6月チリ・サンチャゴで第60回目のIWCの年次総会が開催された。
今回の会議では、こう着状態を打開するために冷静かつ建設的対話を重視したこと、その結果として恒例となっている捕鯨賛成派と反対派間の激しい投票合戦が事実上回避された、というニュースがメディアを通じて伝えられた。これらの報道は日本政府の姿勢も軟化したかのような印象を与える。
だが水産官僚(OBと現職)主体の日本政府代表団の言動から判断する限り、日本政府の捕鯨にこだわる姿勢に変化はないと言ってよいであろう。
それを象徴するのは政策オプションとしてのIWC脱退維持論であり、サンチャゴ会議直前のタンザニアのIWC加盟である。
日本政府によるアフリカ、カリブ海、南太平洋さらにはアジアの途上国を対象とし、ODAと招待外交を主たる手段とするIWC多数派工作は、2000年以来むしろペースは加速されている。タンザニアの加盟は、その成果の一つであった。
捕鯨問題の出口を求めての冷静で建設的な議論は、日本国内でも行われる必要があろう。今回はそのための一つの判断材料を提供したい。
テーマは、1970年代半ばから続く大手・中堅捕鯨会社の商業捕鯨離れと水産庁の強引とも言える政策誘導の歴史である。
日本水産刊行の社史、電通制作『日本水産の70年』(日本水産株式会社 1981年)に次のような記述がある。「南鯨捕獲枠の減少、鯨種別、海区別の規制の強化、さらに北太平洋捕獲枠の減少にともない、ついに捕鯨3社(「日本水産」、大洋漁業、極洋)による南鯨3船団、北鯨3船団の維持は、採算上も不可能になった。この対策をこうずるため捕鯨6社(前記3社と日東捕鯨、日本捕鯨、北洋捕鯨)の社長間で緊急に話し合いがおこなわれ、水産庁の指導もあって、昭和50年(1975年)7月、母船式捕鯨を統合して新会社を設立、捕鯨業の維持存続をはかることで合意をみたのである」(前掲書197頁)。
翌年1976年2月16日の日本共同捕鯨株式会社の設立については次のように記す。「この新会社は捕鯨6社を中心に構成され、捕鯨母船3隻、捕鯨船20隻を保有、社長には藤田巌前大日本水産会会長が就任。(注:藤田巌氏は、元水産庁長官)従業員は陸上100名、海上1400余名で発足した」(前掲 198頁)。
大変興味深いのは、捕鯨の維持の論拠として伝統や鯨食文化ではなく動物性蛋白質の自給が挙げられていたことである。
それは敗戦直後から戦後復興期にかけて主流であった考え方を再提出するものであったが説得力に欠ける。と言うのは、すでに経済大国となっていた日本にとって海外からの牛・豚・鶏肉や海産物の輸入によって不足分の動物性蛋白質を確保することは極めて容易であったし、実際にもそうしていたからである。
日本共同捕鯨株式会社の設立披露は76年の4月におこなわれる。出席した安倍晋太郎農相(注:安倍晋三前総理の父 引用者)は、「捕鯨業の灯を絶やさず、食糧確保のためにがんばってほしい。政府としてもできるかぎり積極的に応援をしてゆきたい」と挨拶した」(前掲書 198頁)。
すでに30年以上前の時点で捕鯨大手・中堅各社は、資源の枯渇や国民の鯨肉離れや商業捕鯨に対する国際的な規制の強化などによって捕鯨業が経営的に成り立たず、将来展望も持ち得ないことを理解していた。
だが以上の証言は、「採算上不可能な」商業捕鯨の維持が、「水産庁の指導もあって」合意・決定され、実施のための新会社の設立までなされた経緯を明らかにしていて興味深い。
藤田巌氏の捕鯨戦略に関し、当時の日本捕鯨協会会長の稲垣元宣氏による次のような証言がある。「藤田さんが共同捕鯨の社長をやられていた当時、商業捕鯨をいつまでも続けられないから、将来は捕獲調査の形を考えるべきだといっておられました」(日本鯨類研究所 『日本鯨類研究所十年誌』1997年10月
http://luna.pos.to/whale/jpn-zadan2.html)
大日本水産会や大手捕鯨会社や水産会社などには、水産庁幹部が退職後に大量に天下りして「水産庁一家」的なネットワークが歴史的に形成されてきた。許認可権や予算などを通じた影響力行使もあり捕鯨会社が仮に水産庁の「行政指導」に抵抗しようとしても困難となる状況が存在した。
水産庁という一つの官僚組織の意向と利益は、1970年代半ばの危機の時代において守られるとともに、やがて巧みな政策誘導によって霞ヶ関や永田町において日本国家の意思と利益まで昇華され国際舞台でも追求され今日に至る。水産庁主導の日本政府代表団がIWC会議において一体、誰のための、何のための利益を主張し、さらにどのような方法でその庁益を追求してきたかについては再検討する意味と価値があろう。
(もりかわ じゅん/JWCS理事・酪農学園大学教授、アデレード大学客員研究員)
| 固定リンク
| トラックバック (0)
最近のコメント