象牙

2017年3月 1日 (水)

種の保存法改正パブリックコメントに海外からも

●種の保存法パブリックコメントの結果

 環境省は種の保存法改正のための答申案に対し、パブリックコメントを募集し、その結果が1月30日の中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会で公表されました。
環境省報道発表資料 http://www.env.go.jp/press/103596.html

 コメントしたのは36個人/団体でした。JWCSは、スローロリスのペット取引の調査を元に、ワシントン条約附属書Ⅰに掲載されている種の登録や流通の問題点を指摘しました。
また附属書Ⅱに掲載されている種は国内取引規制が全くなされておらず、輸入時に密輸が見逃されると取締りができないため、規制の必要性を指摘しました。
JWCSのパブリックコメント http://www.jwcs.org/data/LCES2017JWCS.pdf

●海外の団体も意見を提出
またワシントン条約に関連する活動をしている国際NGO5団体がコメントしており、それらのコメントも正式に受理されていました。海外からはワシントン条約第17回締約国会議での決定にそって象牙の国内市場閉鎖を求める意見、象牙製品のネット販売の禁止を求める意見、種の保存法での海洋生物の保護を求める意見がありました。
ヒューマン ソサイエティ インターナショナル(米国)のコメント(日英)
 
生物多様性センター(米国)のコメント(日英)
意見を提出したその他の団体
   シーシェパード リーガル(米国)
   プロ ワイルドライフ(ドイツ)
   鯨類ソサエティ インターナショナル(米国)

 しかし環境省の反応は、答申の象牙取引に関する部分の文章に追加があったものの、JWCSや海外団体からのコメントの多くに対し「今後の施策の参考とさせていただきます」という回答でした。

●日本政府は象牙の国内市場閉鎖はしないという立場
 そして政府は象牙取引に関して、規制の強化はするが市場閉鎖はしないという立場を崩していません。「そもそも世界に合法の国内市場がある限り、需要が喚起され、ゾウの密猟は止まらない」という29か国から成るアフリカゾウ連合の訴えを日本政府は無視しています。
 2017年2月28日、種の保存法の改正案が閣議決定され、国会に提出されました。法案を見ると、違法行為があっても罪を立証する証拠がそろわないのではないかと感じました。JWCSはパブリックコメントで「規制前取得の登録票を発行する期限も設けるべき」と提案しましたが、新たな合法象牙の登録はしないといった象牙の国内市場閉鎖に向けた法案になっておらず残念です。
環境省 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について http://www.env.go.jp/press/103685.html
●業者の反応
 パブリックコメントで興味深かったのは、象牙の取引業者の登録と公表に対し、「現状でも善意の象牙取引業者がインターネット上で誹謗中傷されたり、HP上で悪意の書き込みをされたりしているため、登録企業の公表については注意が必要である」という意見があったことです。「日本の法律で合法であっても象牙取引を支持しない」という声が多くあることを事業者は受け止めたくないようです。
 一方で印鑑販売店のハンコヤドットコム、東洋堂、昭栄堂は、象牙の販売終了または終了予定を公表しています。
「ハンコヤドットコムでは、象牙・マンモス印材の販売を終了とさせて頂きました。」
中国政府は2016年12月29日に、2017年12月31日までに象牙の国内市場を停止すると発表しました。
中国政府のサイト(中国語)
英国では2016年9月から1947年以降に生産されたすべての象牙の販売は禁止されています。今、英国議会で議論されているのは、象牙を使った骨董品の販売禁止です。
このような状況の中で、「日本の象牙市場はCITES CoP17の決議の対象外」という日本政府の主張は理解を得られないものと思われます。
JWCS事務局長 鈴木希理恵

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2016年9月28日 (水)

象牙取引を再開する手順の議題が否決される

議題84は「象牙取引再開のための意思決定メカニズム」の提案です。


象牙取引再開するための生息国・輸入国双方の条件を挙げたものですが、今回の会議で決議できるように最終合意を取っておく必要がありましたができませんでした。 そのままならタイムアウトしてしまう議題でしたが、常設委員会がこの議題の議論を続けるかどうか、締約国会議で合意を取ってはどうかとのレポートがでていました。(Doc. 84.1)


 この「象牙取引再開のための意思決定メカニズム」を不要という提案が、ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、チャド、エチオピア、ケニア、ニジェール、セネガルから提出されました(Doc. 84.2)。


それに対し、ナミビア、南ア、ジンバブエが取引再開の条件を提案をしていました。(Doc. 84.3) 最初の投票で、取引再開のシステムはいらないという提案(Doc. 84.2)は、僅差で否決されました。 日本は反対していました。


次に南アフリカ共和国などの案です。日本を含む14か国が秘密投票に賛成しました。 結果は賛成21、反対76、棄権13の大差で否決されました。 相反する結果のため「議論を続けるかどうか」(Doc. 84.1)という常設委員会からの提案で投票が行われました。EUはEUとしてではなく、各国がそれぞれの意見で投票しました。
 

つまり、「Yes 緑」は次回の締約国会議でも議論する
      「No 赤」もうこの議題は終了する  

結果は賛成21、棄権13、反対76で圧倒的に議題の終了が支持されました。
日本はYesでした。


象牙取引再開に関する議題は、ワーキンググループで議論中の「象牙国内市場閉鎖」と、28日以降に予定されている附属書提案の議論の中で、南部アフリカの個体群を国際商業取引禁止の附属書Ⅰにするか、それともⅡのままで取引を再開しやすく改定するかが残っています。

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2016年9月23日 (金)

CITES17 日本に関係の深い議題

ワシントン条約第17回締約国会議(CITES CoP17)でJWCSは日本に関係の深い以下のテーマに注目しています。

1.アフリカゾウ 国内市場閉鎖と附属書アップリスト


 今回の会議では、議題として象牙の国内市場閉鎖と、すべてのアフリカゾウを附属書Ⅰ(国際商取引禁止)に戻す提案が出されています。一方で現在附属書Ⅱ(許可があれば取引できる)になっている南部アフリカの地域個体群のうち、ジンバブエとナミビアが自国の個体群に関する注釈を削除するという、取引再開に向けた提案をしています
附属書に関する提案はこれまでの条約運営の枠組みの中ですが、象牙国内市場の閉鎖となると、これまでのアフリカゾウに関する過去の決定の変更が必要になります。そのことが象牙国内市場の閉鎖の提案の後につけられた事務局からのコメントに書かれています。
 ワシントン条約43年の歴史の中で常に象牙問題が議論されてきましたが、すべての国際取引が禁止されていた時期を除き、アフリカゾウは減少の一途です。この現状を変える新たな展開になるのか、注目されます。

2.ウナギ


 アジアに生息するニホンウナギの漁獲が減少し、代わって中国でのヨーロッパウナギの養殖が拡大しました。そのため2007年にヨーロッパウナギがワシントン条約附属書Ⅱに掲載され、EUでは河川環境の改善など生息数を増やす努力をしてきましたが、生息数の減少が続いたため、2010年に輸出割り当てゼロという事実上の輸出禁止措置をとりました。

 その後、アメリカウナギや熱帯ウナギ(ビカーラ種)の漁獲が急増しました。1種だけを国際取引を禁止しても近縁種が減少してしまうので、その対策として淡水ウナギ16種の調査をしよう、というのが今回の案です。9月20日のみなと新聞には水産庁の「賛成する可能性がある」とのコメントが掲載されていました。

3.サメ


 クロトガリザメ、オナガザメ類の附属書Ⅱ掲載が提案されています。日本のサメ漁はヨシキリザメが多く(7,151トン)、提案されている2種の水揚げ量はクロトガリザメ(2トン、おもに混獲による)とオナガザメ類(170トン)です。どちらのサメも漁獲量は減少しています(「水産庁調査委託事業で収集された主要港におけるさめ類種別水揚量」2014年データ)。
 またワシントン条約は国際取引を規制するものなので、国内での消費は対象外です。そして附属書Ⅱの場合は原産国の許可があれば取引できます。みなと新聞によると日本政府は「資源状態が悪いというデータがない」ため提案に反対する方針とのことです。
『平成27年度国際漁業資源の現況』は、クロトガリザメの資源水準を低位(中西部太平洋)、資源の動向を減少(中西部太平洋)と評価しています。またオナガザメについては調査中としています。
 提案書に書かれた生息状況のデータに対し、日本の主張がどのように受け取られるのか注目されます。

4.ペットトレード(爬虫類・ヨウム)


 附属書掲載の提案として、ペットとして取引される爬虫類、両生類がいくつも挙げられています。中でもマレーシアが附属書Ⅰ掲載を提案したミミナシオオトカゲは、生息地では捕獲や売買が禁止されているにもかかわらず、日本で販売されています。このことは、9月15日に開催された種の保存法の見直しを議論する「あり方検討会」でも話題に上りました。
現在の種の保存法では、附属書Ⅰの動植物は所有や売買に登録票です。しかしこの登録票と登録した個体が対応せず、違法に売買されていることが検討会の課題になっています。
 附属書Ⅰに格上げが提案されたアフリカ原産のヨウムも日本で一羽24~30万円で売られています。しかしヨウムの生息地での密猟と違法取引を告発する動画から、1羽のヨウムが日本に売られてくるまでの間に、たくさんのヨウムが死んでいることが分かります。
 現在の日本の法律に違反していなくても、生息地や取引過程などで数々の問題があります。このことを締約国会議の機会に理解を広げ、来年に予定されている種の保存法改正につなげていきたいと思います。

5.CITESと持続可能な生産・消費


 このほかにJWCSが注目しているのが、持続可能な開発目標(SDGs)の一つ、「持続可能な生産・消費」に関連する議題です。CITESと生計、ブッシュミート、食糧の安全保障などの議題が挙がっています。
 絶滅のおそれのある動植物の輸出に頼るくらしは「持続可能な生産」なのか、他に選択肢はないのか、消費者としての日本は生息地の状況を理解して消費行動をとっているのか、また野生動植物の減少に大きく影響する紛争と難民、人口増加などの問題と関連させた、持続可能な開発目標の枠組みでの対策はないか、など情報収集をする予定です。

 会議期間中は、Twitter、Facebook、当ブログで随時報告します。
また10月14日にCITES参加報告会を行います。ぜひ直接話を聞きに来てください。
詳しくはJWCSホームページをご覧ください。
 JWCSはワシントン条約締約国会議で議論されていることを国内に伝えるため、日本と関係の深い議題の一部を翻訳しています。翻訳はJWCSのホームページの「資料室」「国際会議資料」からご覧になれます。
翻訳は翻訳ボランティアの皆さんのご協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
(鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2016年9月22日 (木)

IUCN世界自然保護会議での象牙国内市場閉鎖の決議

1.モーション(motion) とは

 国際自然保護連合(IUCN)の4年に1度の総会にあたる世界自然保護会議(WCC)が9月1日~10日、ハワイで開催されました。WCCでは、IUCNとしての意見を5団体以上の会員が動議として提出し(モーション)、議論ののち投票で採択します。過去に開催されたWCCでは、たくさんのモーションが提出されて会議に時間がかかったため、今回からは事前にオンライン会議を行い、議論がまとまったモーションは電子投票し、意見が割れたモーションはWCCで議論をすることになりました。

 WCCで議論することになったモーションの一つが「象牙の国内市場の閉鎖」です(英文)。この動議は9月24日から開催されるワシントン条約第17回締約国会議(CITES CoP17)に提出された同様の議題(日本語)について、IUCNとしての意見を決めるという意味を持っています。

2.投票までの経緯

 9月3日にはWCC会場で記者会見がありました。18か国のサバンナを空撮と地上での調査を行い、精度の高いゾウの個体数を明らかにした「グレート エレファント センサス」についてです。2007年から2014年の間にサバンナゾウの生息数は30%減少(144,000頭減)、そしておもに密猟により年間8%のスピードで減少していることが報告されました。(報告書 英語

 この日は、WWFはCoP17に向け、国際象牙取引再開を支持しない、強く象牙の消費を阻止する、そして象牙国内市場の閉鎖を支持すると表明しました。

WWF does not support the resumption of international ivory trade, strongly discourages ivory consumption and supports the closure of all domestic ivory markets.

英語

 しかしながら、MIKE(ゾウ違法捕殺監視システム)とETIS(ゾウ取引情報システム)の分析からは2008年(アフリカで競売があった年)の「一度限りの象牙取引(one-off sale)」によって密猟が増加したという結果は出ていないと述べています。

 「一度限りの象牙取引」は、1989年のCITES CoP7でアフリカゾウが附属書Ⅰになり、象牙の国際商取引が禁止された後、2回行われました。1999年に附属書Ⅱに格下げしたボツワナ、ナミビア、ジンバブエからの象牙を日本が輸入、そして2009年(入荷した年)に南アフリカ、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエからの象牙を日本と中国が輸入しました。CITES事務局 英語

 2008年に象牙取引再開が決定したころから、アフリカの国立公園での密猟のニュースが目立つようになりました。2010年1月14日付JWCSのブログ 日本語

 2008年の象牙取引再開が密猟激増の引き金になったと主張する研究者もいます。

英語

その後ゾウの密猟は増え続け、2012年にピークになり、その後も高止まりしていました。

『消えゆくゾウたち アフリカゾウの危機』UNEP CITES IUCN TRAFFIC 2013 日本語

 また2012年には密猟された象牙と武装組織の資金源のつながりが国連安全保障理事会で議論されました。CITES事務局 英語

 そして密猟、密輸は国際的な犯罪組織の資金源として成長しているとして、野生生物犯罪へ国際社会が取り組む必要性が理解されるようになりました。

例:野生生物の違法取引に関するロンドン宣言(日本語) 

 とくに象牙取引は野生生物犯罪の中でも規模が大きいので、世界各地で象牙を燃やすなどして象牙の需要を否定するイベントがありました。そして2015年9月25日の米中首脳会談でオバマ大統領と習近平主席は「中国国内の象牙市場の閉鎖」に合意しました。(日本語)

これらの国際社会の取り組みは、前述のCoP17の提案文書で述べられています。

3.コンタクトグループ

このような世界の流れの中で、WCCのモーション・象牙国内市場の閉鎖に対し、日本政府は会議前のオンライン会議で何度も反対意見を述べていました。そしてWCCの会期中に、投票にかけるモーションの文章を話し合うため、関心のある会員が集まって議論するコンタクトグループが2回開かれました。そこでは国内市場閉鎖に賛成する会員が圧倒的多数で、日本政府は少数派の意見が反映されないと退席した後、モーションの文章が決定しました。しかし翌9日の投票前に日本政府とナミビア政府から異議申し立てがあり、決議委員会での検討ののち、もう一度コンタクトグループを開催する提案が総会に出されました。

そしてその日深夜に及ぶコンタクトグループによる議論が行われました。その席でコンタクトグループの議長は、前回WCCのクマ牧場のモーションは意見が割れ、最終的にはモーションは議決されたがいくつかの大切な会員のサポートを失った、できる限りコンセンサスに達することが大切と述べていました。このクマ牧場のモーションはJWCSも共同提案者でした。クマ牧場とは漢方薬の原料にする胆汁をとるために、体にチューブを差し込んでオリの中でクマを飼う施設です。クマが死にやすいため補充のため野生のクマが捕獲され、野生の個体群に影響するのでやめるべきだという内容です。このモーションは中国が強く反対し、多くの修正がされて決議されました。

象牙の国内市場閉鎖についての日本政府の主張は、日本の制度は完璧なので密輸象牙は国内に入ってきていない、そのような合法な取引までも閉鎖しなければならないのはおかしいというものです。国内市場閉鎖賛成派の主張は、ゾウの密猟を止めることが目的であり、象牙が違法か合法かを識別する技術は確立していないというものです。

(コンタクトグループでの発言は出席者によるメモを参照)

4.投票

 翌日10日はWCCの最終日でした。7日のコンタクトグループでまとまった原案と、9日夜つくられた日本・ナミビア案の両方が投票にかけられました。原案のタイトルは「象牙国内市場の閉鎖(Closure )」に対して、日本・ナミビア案は「さらなる規制の努力(Making further Efforts to Regulate)」でした。

 会議は対案のあるパラグラフを原案、日本・ナミビア案の両方を説明してから投票する、という少数意見に最大限配慮した進行となりました。それでもどのパラグラフでも圧倒的に原案が支持され、閉会時間が迫る中、原案がそのまま採択されました。

 投票は、NGOの9割以上が原案に賛成、政府等も約6割が原案に賛成、3割が棄権、1割が日本・ナミビア案に賛成という結果でした。

Nacsj

(投票結果の写真 NACS-J提供)

5.世界が象牙取引禁止に動く中、日本は

(1)「適正な取引」が信用されていない

 WCCの投票で、少数意見を尊重した議事進行をしても、象牙国内市場閉鎖が圧倒的に支持されていることが世界に示されました。そして日本と南部アフリカ諸国の政府が、この問題に対しどのような態度を取るのか、注目されるようになりました。

 日本政府の方針は「適正な取引推進」です。今年5月と7月に「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」を開催し、9月に報告書が公開されました。協議会に参加しているのは、日本象牙美術工芸組合連合会、全日本印章業協会、全国印判用品商工連合会、そして海外のNGOにより印鑑など象牙製品の通販の問題点が指摘された楽天とYahoo!等です。

報告書には、違法行為に対する厳正な対処(立入検査の強化、行政処分の実施・公表等)、業界への周知、中国関税当局との情報交換などの対策が並んでいます。

報告書 日本語

 ところが、日本政府がコンタクトグループで「日本の制度は完璧」と発言した6日後、国内での象牙の違法取引で摘発がありました。都内の女性が、規制前の1972年に夫が香港から買ってきた象牙を古物商に持ち込み、それをインターネットオークションから中国籍男性が購入したという事件です。関係者5人が書類送検されました。

「警視庁、象牙の無登録売買摘発 ネット取引急増、抜け道に」東京新聞2016.9.16 (リンク切れの場合はご容赦ください)

 また6月に開催された種の保存法の見直しを検討する「あり方検討会」では、ワシントン条約附属書Ⅰの登録業務を国から委託されている自然環境研究センターが、現在の制度の問題点を報告しています。あり方検討会の委員からは「そのような後ろ向きなことでは困る」との発言がありましたが、制度の見直しにあたって登録や法執行の現場の困難さが反映されていないと感じます。

検討会配布資料「登録・認定機関としての業務内容について」自然環境研究センター

WCCのコンタクトグループの議論で、米国からの参加者は「どの政府にも違法取引がある。(違法、合法を判別する)技術が確立していないので今は使えない。合法市場なんて作れない」、中国外務省職員は「中国国内で違法取引があるのは確か」と発言していました。

現状を直視せず、合法市場があると主張する日本政府の主張が信頼されていないことが、WCCの投票や議論で明らかになりました。

(2)象牙取引が引き起こす問題の大きさが理解されていない

 ゾウの密猟、象牙の違法取引が武装勢力の資金源になるため、ゾウを観光に活かしたいアフリカの国にとって治安の悪化、ゾウの減少は大問題です。「アフリカゾウ連合」にはアフリカ諸国29か国が加盟しています。

 武力で武装勢力を抑えるには多くの資金が必要です。密猟者との銃撃戦でレンジャーが亡くなることもあります。しかし世界のすべての国で象牙の売買ができなくなれば、象牙は取引する価値がなくなります。

 また前述の「グレート エレファント センサス」で深刻なアフリカゾウの減少は明らかです。象牙国内市場閉鎖に強く反対したナミビアは、民間の助成による調査にもかかわらず、調査データの公開を拒んだため表記されていません。図で見るようにかつては大陸に広く分布していたサバンナゾウの生息地は島状です。

Photo

Great Elephant Census Final Results

官民会議の報告書には「現在、アフリカゾウの多くはアフリカ東部及び南部に生息しており、特にアフリカ南部での個体数は安定し高水準を維持している」と書かれていますが、どの状態を基準に「高水準」と言っているのか疑問です。

ゾウにGPS発信機を付けた調査では、ゾウが安全なボツワナに集まっていることが明らかにされました。

BBC News Japanの動画 日本語

 現時点では象牙の国際商取引はワシントン条約により禁止されていますが、地域社会の収入のために高額で狩猟を認めている例があります。しかし汚職などで理想的な運営はされていないことをナショナルジオグラフィック誌が報告しています。  (2015年11月17日 英語)

 日本国民はそんなにも象牙を欲しがっているのでしょうか。国民主権ということにはなっていますが、外交に民意が反映されていないと感じます。

(鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2016年3月18日 (金)

絶滅のおそれのある野生動植物の取引は企業リスク

●Yahoo!Japanに米国の環境団体EIAが象牙を取り扱わないよう申し入れ

 2016年3月17日、米国の環境団体Environmental Investigation Agency(EIA)は、Yahoo!Japanに対し、象牙製品の広告と販売をやめるよう申し入れをしました。
 EIAは2015年12月、日本における象牙取引を調査した報告書を発表しています。
EIA報告書『日本で展開される象牙の違法取引と不正な登録』(日本語)
 
日本語でのやりとりの録音を公開しています
 その中でYahoo!Japanが行っているインターネット販売は、違法象牙取引の温床になっていることを明らかにしています。
 報告書によると、Yahoo!Japanのサイトには2015年8月の単日だけで、6000を超える象牙製品の広告が掲載され、その93%は印鑑でした。広告が掲載された象牙製品の総額は2.6百万米ドル(約3億円)でした。そして2012年から2014年の間にオークションでは、800を超える全形象牙が売られていました。
 インターネット販売サイトは海外からでも閲覧することができ、このオークションに出品された象牙を落札代行業者が購入し、輸出することが可能です。
 今回Yahoo!Japanに対して提出された申入書では、他のインターネット販売の大手である、Google、 Amazon.comとアリババは全世界で、米国のYahooも象牙製品の販売を禁止していることを示し、Yahoo!Japanも象牙を取り扱わないよう求めています。
EIAのサイト(英語)
EIAは2014年3月に楽天の象牙と鯨肉販売についての報告書を発表しています。
『Blood e-commerce : Rakuten’s   profits from the slaughter of elephants and whales』(英語)
●違法な日本のインターネット取引

 トラフィック イーストアジア ジャパンが2015年1月に報告書で、ワシントン条約附属書掲載種が国内法に違反してインターネット上で販売されている事例があったことを明らかにしています。

『日本におけるインターネットでの象牙取引 現状と対策』(日本語)
●eコマース(電子取引)規制に向けたワシントン条約の動き

 インターネットを使った取引には、サイバーモール(電子商店街)、インターネットオークション、買い取りウェブサイトがあります。これらを総称して「eコマース」と呼ばれています。
 ワシントン条約では2009年の常設委員会でeコマースワーキンググループの設置を決めました。そして締約国に国内の野生生物取引を管理し、違法取引を調査するための国内措置を開発すること、インターネット犯罪の監視に野生生物犯罪調査専門の担当部署を置くこと、国レベルの監視情報をタイムリーに共有する仕組みの確立を求めています。
(11.3 (Rev. CoP14))英語
 第15回締約国会議(2010年ドーハ)での決議では、締約国に対し、以下の情報を求めています。

(Dec. 15.57 )英語
・条約のウェブサイトに掲載するための成功事例の情報
・インターネットと野生生物犯罪に関する研究
・インターネットを使った附属書掲載種の取引の程度や傾向
・インターネット取引の増加により貿易ルートや輸出の方法が変わったか
 2011年の常設委員会では、ガイドラインを含むツールキットの開発することが議論されました。

(SC61 Doc.29)英語
 第16回締約国会議(2013年バンコク)の決議で世界税関機構と連携し、附属書掲載種を統計品目番号(貿易統計に使う世界共通の番号)に加えることを決議しました(Decision 16.62)。そして2014年の常設委員会で、2017年1月1日の改訂が示されています。
(SC65 Doc.33)英語
 今後、附属書掲載種の貿易は各国の税関でより明確に記録されるようになり、インターネットを使った附属書掲載種の取引の国際ルールも決まっていくものと思われます。
 国境を越えた消費や商取引が盛んになり、日本の国内法で規制されていないからといって国際的な動きに無頓着ではいられなくなっています。企業は、野生生物犯罪に対する国際的な取り組みが強化されている状況を理解し、絶滅のおそれのある野生動植物の取引は企業活動へのリスクであると認識する必要があります。
                                               (鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2013年5月31日 (金)

ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(3)

アフリカから緊急メッセージ(3)  西原智昭(WCSコンゴ共和国・JWCS理事)


 密猟の起こる根本的な理由は、象牙への需要の存在です。内戦という特殊な事態であるからこそ、この事実が一層浮き彫りにされます。アフリカでの内戦は日本人にとっては遠い国の話かもしれませんが、象牙問題はそうではありません。いままさに大量殺戮にも繋がりかねないマルミミゾウに関してはとくにそうです。日本にはマルミミゾウの象牙への強い需要があるからです。

 かつては印章もそうでありましたし、三味線の撥は今でもハード材と呼ばれるマルミミゾウ由来の象牙が好まれています。われわれ日本人はそれを身近な問題として認識しなければなりません。日本には三味線の演奏者など、それを必要としている人がいるということをまず知る必要があります。

 「ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(1)」でご紹介したWWFの声明にも書いてある通り、現時点での国際違法象牙取引量が多いのは中国とタイですが、マルミミゾウの象牙に特化した需要を持つ国は世界で日本のみです。ワシントン条約でマルミミゾウの象牙取引は20年以上一切取引禁止ですが、管理制度の穴をくぐって違法象牙取引は不可能ではありません。象牙密輸の存在を認める象牙業者もいます。

ここ10年の激増した密猟や管理当局の汚職等による違法象牙取引のためにマルミミゾウは絶滅の危機にある上に、いま中央アフリカ共和国での内戦によりさらに絶滅への道は加速されています。しかし、その根源的な原因は象牙の需要にあることを、われわれすべては理解しなければいけません。

 無論、象牙利用の伝統文化に一方的に反するものではありません。しかし、まずは皆さんがマルミミゾウに関する確かな情報を共有しなければなりません。そうでなければ、何も知らずに、地球上の財産である生態学的礎石種マルミミゾウが絶滅して行くのをただ眺めていくだけという事態にもなりかねません。

 アフリカ現地での汚職を排し、国際協力のもと関連諸国が管理制度を厳格に整備するまでの間、或いは象牙に代替し得る素材の開発を進めるまでの間、現在の象牙利用、とくに生存危機にあるマルミミゾウ由来の象牙利用の継続性について、日本人は真剣に検討しなければなりません。事態は危急です。

 当面の現地での対処ですが、まずはわれわれ(現地管轄サポートのWWFやザンガ・バイの研究主管であるWCS、世界遺産統括のUNESCOなど)が中央アフリカ共和国新政府とのハイレベル協議を経て、密猟を阻止し、事態の鎮静化に向けて努力する次第です。

 その後、まず取り組むべきことは、ザンガ・バイを中心に、世界遺産地域の中の中央アフリカ共和国側の地域全体への野生生物保全を確保するための、パトロール隊の再整備が必要です。それには、新たな部隊採用や新規の装備購入等も含まれます。

 さらに、兵隊により略奪され破壊されたWWFの国立公園管理基地やWCSのザンガ・バイ研究基地の再構築が不可欠です。建造物の再建だけでなく、車両や発電機、通信設備、パソコン等業務機器、野外活動用装備(双眼鏡、カメラ、テント等)などの再導入が必須です。

 安全確保が何よりも第一ですが、昨年後半まで継続していた通常通りの研究、ツーリズムなどを復活させるには、多くの時間と資金が必要となります。マルミミゾウを絶滅から救い、世界遺産を継続していくには、多くの方からの支援と協力が不可欠です。

 5月31日現在、WCSを中心としたチームが現場にて、暫定政府軍と協力する形で、ザンガ・バイでのマルミミゾウの密猟防止と、世界遺産地域の保護の確保に努めております。またWCSとの連携で、ガボン政府が中央アフリカ共和国政府への保全活動への協力を申し出ております。残念ながら、他の組織や国はまったく名乗りを上げていない状況です。

 しかしながら、現地の状況はいまだ不安定であり、次なるマルミミゾウの殺害など世界遺産地域への脅威はぬぐえません。アフリカにおける開発をベースにした発展は不可欠ではありますが、まずは政情の安定こそが第一義であると考えます。平和な状況なしには、投資も開発も実現し得ないからです。

 現代は、いかなる事業も、地球規模での生物多様性保全を前提とした形でなければなりません。人間による自然資源の利用を先行させるのではなく、グローバルな保全の文脈の中で、確たる持続可能性を配慮した上での事業が必要不可欠の条件です。

 内戦による政情不安定性、内戦によってさらにあおられている密猟とマルミミゾウの喪失による熱帯林生態系への負の影響、いずれも、こうした主旨に反するものであります。繰り返しですが、マルミミゾウの密猟の根本要因は、その象牙への重要です。

 奇しくも、いま日本を中心としたTICADが開催されております。アフリカ地域での開発事業の発展を目指す中で、政情安定化と生物多様性保全にまずは目を向け、日本政府が舵取りをし、それに向けた投資を優先する形で議論が進むことを願う次第です。

 ザンガ・バイとマルミミゾウへの生存に、あたたかいご支援、お鑑みしていただければと存じます。

西原智昭
自然環境保全技術顧問
WCSコンゴ共和国プロジェクト
         2013年5月31日、コンゴ共和国にて

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ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(2)

アフリカから緊急メッセージ(2)  西原智昭(WCSコンゴ共和国・JWCS理事)
付記:西原智昭
 昨今の中央アフリカ共和国における内戦とそれに伴う上記のマルミミゾウの密猟の状況につて、背景説明いたします。
 昨年2012年7月、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国、カメルーンの3国国境をまたがる地帯約25,000km2の熱帯林とその緩衝地帯が、世界自然遺産に登録されました(名称Tri-Natioanl Sangha)。そこには、世界でも稀有な原生林を有する保護地域と、環境配慮型の熱帯材伐採区が存在、生物多様性の宝庫の一つです。
 
 昨年後半以来起こった中央アフリカ共和国における内戦の影響はこの世界遺産地域にまで波及、混乱状態に乗じた密猟者が世界遺産の中でも最も貴重な場所の一つザンガ・バイ(湿原)に侵入、これまで26頭のマルミミゾウの殺害死体が確認されました。すべて象牙が抜かれており、密猟は象牙目的です。
 
 ザンガ・バイはザンガ国立公園内にあります。西原の関わるコンゴ共和国北東部にも密猟の影響が波及する可能性があり、情報収集のみならず、現在森林警察などとともに厳戒態勢を整備しつつあります(下記、当該世界遺産地域地図を参照のこと)。
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© 西原恵美子
 ザンガ・バイは、通常毎日100頭前後のマルミミゾウが集まる地球上に最後に残された希少なバイであり、これまで20年以上に渡り、われわれWCSの研究者が4,000頭以上の個体識別を元に、マルミミゾウの生態・社会に関する調査を行なってきました。下の写真は、内戦前のごく平素なザンガ・バイの風景です。泥状の湿原の中に、数多くのマルミミゾウがいるのが見られます。ほか、アカスイギュウ、イノシシ、ボンゴなどが集まります。WCS研究者は、内戦の激化に伴い、現地を脱出しました。
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© 西原恵美子
 アフリカでの内戦時に必要不可欠なのは現金と食糧です。そのために兵隊は略奪などをします。中央アフリカ共和国の場合もその例に漏れません。その中でターゲッ トになりやすいのがゾウです。殺害し象牙を採取、売買すれば効率的な現金収入となるし、その大量の肉は食用に利用できるからです。
 
 違法行為であっても、密猟者が内戦の混乱に乗じてゾウの密猟に走るのは、内戦下で自動小銃が身の回りにあり、ゾウの殺害が容易だからです。その時、ザンガ・バイのようなマルミミゾウが集まるような場所は格好の場所となるわけです。内戦下では森林警察も十全に機能していない状況です。
 内戦はゾウの密猟と象牙取引を助長し、また内戦は密猟に必要な武器も提供します。内戦は当地国の諸事情により起こるもので、解決は容易ではありません。しかし、もし象牙が高価な経済的価値を持っていなければ、リスクの多いゾウの密猟は起こらず、別の収入源・食糧源を探すことは確かです。

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ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(1)

アフリカから緊急メッセージ(1)  西原智昭(WCSコンゴ共和国・JWCS理事)

世界遺産の地で少なくとも26頭のゾウ殺害
WWF声明文:ヤウンデ、カメルーン(2013年5月10日)
 
中央アフリカ共和国の世界遺産、ザンガ・バイにて少なくとも26頭のゾウが殺害された。カラシニコフライフルで武装した17名の密猟者が5月6日月曜日、現地で「ゾウの村」として知られるこの希少なゾウの生息地に侵入したことによる。

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© WWF/APDS


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© WWF/APDS
5月9日木曜日のWWFの情報によれば、毎日50頭から200頭のゾウが土の中にあるミネラルを採取しに集まってくる広大なザンガ・バイの周辺で、少なくとも26頭のゾウの死体が発見されたという(上方の写真は、ゾウを殺害ののち、象牙採取のために首から先を切断されたゾウの死体であり、下方は肉採取目的で解体されたため、内臓が外に飛び出している)。
 
その情報源は、その26頭のうち4頭は子どもであったことや、地元民らがゾウの死体から食用に肉を取り始めていたことも伝えた。密猟者が現れて以来、ザンガ・バイではゾウが姿を消し、まるで「ゾウの霊安室」のようだ、と伝えている。
 
国の暫定政府軍の一部であると名乗る17名の武装者らは、既にザンガ・バイから去っているものの、WWFや他の保護協力者らは、地域の安全がきちんと守られない限りゾウの殺害は続き得ると恐れている。
 
中央アフリカ共和国は今年初めから暴力と混沌に揺さぶられており、WWFや他の保護団体は4月に、安全上の理由からザンガ・バイ隣接の現地事務所を離れた。
ジム・リープ WWFインターナショナル事務局長は以下のように述べた。
 
「殺戮が始まりました。中央アフリカ共和国はこの希少な世界遺産を守るべく直ちに行動せねばなりません。」
 
「ザンガ・バイで我々が目撃している残虐な暴力は、世界で最も素晴らしい自然界の遺産の一つを今にも破壊しようとしており、さらに、そこに住む人々の未来を危険にさらそうとしています。」
「国際社会もまた、中央アフリカ共和国の人々と自然遺産を守るべく、この国の平和と秩序を取り戻すための手助けをしなければなりません。」
「WWFはさらに、カメルーンとコンゴ共和国に対し、中央アフリカ共和国が世界遺産を保全することへの支援を提供するよう強く求めます。この世界遺産はこのバイのみならず、これら2カ国の広大な隣接地域も含んでいるからです。」
「ザンガ・バイにおける出来事は、アフリカ中央部の森のゾウに直面している実際の脅威を彷彿させるものです。この種のゾウの個体数は、過去10年間で62%激減しています。」
「ザンガ・バイで展開している悲劇は、象牙の不法取引を助長している象牙市場を閉ざすべく責務に従って行動するよう、中国とタイの政府をも駆り立てなければなりません。」

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2013年5月15日 (水)

緊急事態!世界遺産に登録されたアフリカ熱帯林で大規模なゾウ密猟

<拡散歓迎>

●国際社会がゾウ密猟に危機感

アフリカでゾウの密猟が激しさを増しています。象牙の国際取引が禁止されて以来最大の危機で、このままではアフリカゾウの絶滅が現実になってしまいそうです。
ワシントン条約事務局長から、緊急にゾウを保護するよう呼びかけがありました。
●日本人には関係ない?


 密猟者に今とくに狙われているのが、アフリカ中央部の熱帯林に生息するマルミミゾウです。マルミミゾウの象牙は、その品質から日本で高い需要があります。需要があるから象牙は高い金銭的価値をもち、密猟の動機になります。

 また、2013年6月1日から3日まで、横浜で第5回アフリカ開発会議が開催されます。
この会議は日本政府が国連機関や世界銀行と共催で開催します。そして重点分野として一番に「平和の定着」を挙げています。ゾウの密猟の背景には内戦があります。この地域の治安を維持して違法行為を取り締まることが密猟防止になります。
 
 日本では富士山が世界遺産に登録されるというので注目を集めていますが、アフリカの世界遺産の危機に手を差し伸べることはできないものでしょうか。 

                                                  (鈴木希理恵 JWCS理事)

●アフリカから緊急メッセージ


西原智昭(WCSコンゴ共和国 自然環境保全マネージメント技術顧問、JWCS理事)
 2012年7月、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国、カメルーンの3国国境をまたがる地帯約25,000km2の熱帯林とその緩衝地帯が、世界自然遺産に登録されました(名称Tri-Natioanl Sangha)。そこには、世界でも稀有な原生林を有する保護地域と、環境配慮型の熱帯材伐採区が存在、生物多様性の宝庫の一つです。

 2012年後半以来起こった中央アフリカ共和国における内戦の影響はこの世界遺産地域にまで波及、混乱状態に乗じた密猟者が世界遺産の中でも最も貴重な場所の一つザンガ・バイ(湿原)に侵入、これまで26頭のマルミミゾウの殺害死体が確認されました。すべて象牙が抜かれており、密猟は象牙目的です。

 ザンガ・バイは毎日100頭前後のマルミミゾウが集まる地球上に最後に残された希少なバイであり、これまで20年以上に渡り、WCSの研究者が3000頭以上の個体識別を元に、マルミミゾウの生態・社会に関する調査を行なってきました。内戦の拡大で、研究者はすでに現地を脱出したあとの出来事でした。



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 写真は、内戦前の通常時のザンガ・バイの風景。泥状の湿原の中に、数多くのマルミミゾウがいるのが見られます。ほか、アカスイギュウ、イノシシ、ボンゴなどが集まります。

 世界遺産地域地図(下)。ザンガ・バイはザンガ国立公園内にあります。西原の関わるコンゴ共和国北東部にも密猟の影響が波及する可能性があり、情報収集のみならず、現在森林警察などとともに厳戒態勢を整備しつつあります。

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 アフリカでの内戦時に必要不可欠なのは現金と食糧。そのために兵隊は略奪などをします。中央アフリカ共和国の場合もその例に漏れません。その中でターゲットになりやすいのがゾウです。殺害し象牙を採取、売買すれば効率的な現金収入となるし、その大量の肉は食用に利用できるからです。

 違法行為であっても、密猟者が内戦の混乱に乗じてゾウの密猟に走るのは、内戦下で自動小銃が身の回りにあり、ゾウの殺害が容易だからです。その時、ザンガ・バイのようなマルミミゾウが集まるような場所は格好の場所となるわけです。内戦下では森林警察も十全に機能していない状況です。

 内戦はゾウの密猟と象牙取引を助長し、また内戦は密猟に必要な武器も提供します。内戦は当地国の諸事情により起こるもので、解決は容易ではありません。しかし、もし象牙が高価な経済的価値を持っていなければ、リスクの多いゾウの密猟は起こらず、別の収入源・食糧源を探すことは確かです。

 密猟の起こる根本的な理由は、象牙への需要の存在です。アフリカでの内戦は日本人にとっては遠い国の話かもしれませんが、象牙問題はそうではありません。いままさに大量殺戮にも繋がりかねないマルミミゾウに関しては特にそうです。日本にはマルミミゾウの象牙への強い需要があるからです。

 かつては印章もそうでありましたし、三味線の撥(ばち)は今でもハード材と呼ばれるマルミミゾウ由来の象牙が好まれています。われわれ日本人はそれを身近な問題として認識しなければなりません。日本には三味線の演奏者など、それを必要としている人がいるということをまず知る必要があります。

 WWFの声明にも書いてある通り、現時点での国際違法象牙取引量が多いのは中国とタイですが、マルミミゾウの象牙に特化した需要を持つ国は世界で日本しかありません。ワシントン条約でマルミミゾウの象牙取引は20年以上一切取引禁止ですが、管理制度の穴をくぐって違法象牙取引は十分に可能なのです。

 ここ10年の激増した密猟や管理当局の汚職等による違法象牙取引のためにマルミミゾウは絶滅の危機にある上に、いま中央アフリカ共和国での内戦によりさらに絶滅への道は加速されています。しかし、その根源的な原因は象牙の需要にあることを、われわれすべては理解しなければいけません。

 無論、象牙利用の伝統文化に一方的に反するものではありません。しかし、まずは皆さんがマルミミゾウに関する確かな情報を共有しなければなりません。そうでなければ、何も知らずに、地球上の財産である生態学的礎石種マルミミゾウが絶滅して行くのをただ眺めていくだけなのでしょうか?

 アフリカ現地での汚職を逓減し、国際協力のもと関連諸国が管理制度を厳格に整備するまでの間、あるいは象牙に代替し得る素材の開発を進めるまでの間、現在の象牙利用、とくに生存危機にあるマルミミゾウ由来の象牙利用の継続性について、日本人は真剣に検討しなければなりません。事態は危急です。
                                                                                     2013年5月13日
(参考)
WWFのサイト(英語)
5月7日
5月10日
関連ニュース(英語)
ナショナルジオグラフィック
World Bulletin

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2013年5月12日 (日)

生物多様性と消費 象牙の需要とゾウの危機

●細切れになったアフリカゾウの分布

 アフリカゾウはサハラ以南の熱帯雨林、サバンナに分布し、遠距離移動をします。アフリカゾウの数を正確に推定することは難しいですが、アフリカゾウデータベース (1)が推定を試みています。それによると生息地はすでにアフリカ大陸の中で島状にしか残っていません。その生息地も人口の増加と農地の拡大で脅かされています。これは長期でみたアフリカゾウへの脅威となっています(2)。
 1989年にアフリカゾウがワシントン条約附属書Ⅰ(国際取引は原則禁止)になる前も、附属書Ⅱ(国際取引に許可が必要)に掲載されていました。しかし1970~80年代はヨーロッパ、米国、日本で需要が拡大し、密猟を誘引しました。国際取引が禁止されるととくに東アフリカで多くの密猟が終止符を打ちました。その結果、その後の20年間で東アフリカのゾウの生息数の回復が見られましたが再び密猟に脅かされています。またアフリカ中央部をはじめいくつかの個体群が絶滅の危機にあります(2 ) 。
 とくにアフリカ中央部の熱帯林には、サバンナに生息するゾウよりも小型の「マルミミゾウ」が生息しています。このマルミミゾウの牙は緻密で硬いので、三味線のバチなど伝統楽器や印鑑の材料として、とくに日本での需要の高い象牙といわれています(3 )。

●密輸の現状

 アフリカ大陸の中で犯罪組織を通じて違法取引された象牙は、おもにケニア、タンザニア、南アフリカから出発し、香港、マレーシア、フィリピン、ベトナムを経由して中国とタイに到着することが明らかになりました(2)。
 日本へのゾウ(象牙・皮製品など)の密輸を、税関で輸入が差し止められた件数でみると、2009~2011年では年間1000件前後の差し止め件数のうち10件以下でした。しかし2011年5月には日本象牙美術工芸組合連合会元会長らが国内での違法取引で逮捕される事件があり、今なお根強い需要があることを表しています。

●大規模なアフリカゾウの密猟と武装集団

 2012年6 月、ゾウの密猟のレベルがこの10年において最悪となり、象牙の押収も1989年以来記録的な量となったとCITES事務局が発表しました(4)。2011年の1年間でアフリカゾウ全体の7.4%が違法に殺されたと推測され、2012年もその傾向が続いています(2)。
 とくに大規模な密猟は、2012年2月にカメルーン北部のブバ・ンジダ国立公園のゾウ約450頭が組織的に殺された事件です。 
 2012年4月にはコンゴ民主共和国のガランバ国立公園で、22頭のゾウがヘリコプターからレベルの高い射撃の腕前で襲撃されたとみられ、象牙が取り去られていました。2012年6月24日にはコンゴ民主共和国のオカピ野生動物保護区の本部が、密猟や不法採掘をしていたとみられる武装集団によって襲われました。武装集団は本部の建物に放火し、近隣の村を略奪しました。この事件により数人の死傷者がでました。2012年9月には密猟者の報復とみられる攻撃でチャドの国立公園レンジャー5人が死亡、1人が行方不明になりました(5)。 
 2012年2月にはチャドとスーダンの密猟者集団が、乾季を利用してゾウを大量虐殺したとの報告がありました。そこで密猟された象牙は、近隣の紛争地域に渡る軍資金や武器・弾薬になっているとみられています(6 )。
密猟が多発する地域は人々の暮らしが最も不安定で、国の統治や法執行が弱い地域です (4)。このようなゾウの密猟は、東アジアでの象牙の需要が引き起こしているとみられています。
「象牙を買うことでアフリカの経済に貢献するのではないか」という考え方がありますが、現実は法執行が難しく、象牙を買うことで紛争の激化や犯罪組織の拡大に加担してしまうのです。
  (鈴木希理恵 JWCS理事 『JWCS通信』No.68より転載)
参考文献

(1) アフリカゾウデータベース http://elephantdatebase.org
(2 )  Elephant in the dust  The African elephant crisis UNEP CITES IUCN TRAFFIC 2013 p15,p23,p32,p46
(3) 『HIDDEN GIANT 知られざる森のゾウ』ステファン・ブレイク著 西原智明訳2012 現代図書
(4) CITESプレスリリース 2012年6月21日
(6) CITESプレスリリース 2012年2月28日

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