スローロリス

2017年1月12日 (木)

日本におけるスローロリスのペット取引についての論文に対するコメント

日本におけるスローロリスのペット取引の論文
 2014年5月に英国のオックスフォード・ブルックス大学大学院生で、スローロリスの保全に取り組むLittle Fireface Projectのメンバーであるルイーザ・ミュージンさんが来日し、JWCSと共同で日本におけるスローロリスの販売状況を調査しました。
 この調査を元にしたルイーザさんの修士論文が、2016年2月1日にIUCN 種の保存委員会 アジア霊長類ジャーナルに掲載されました。
この論文に対し東京女子大学石井信夫教授からコメントをいただきましたので、それに関する応答を掲載します
東京女子大学 石井信夫様
                                      2016年7月22日
特定非営利活動法人野生生物保全論研究会 事務局長鈴木希理恵
拝啓時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 私が共同執筆者となっている論文(Crossing international borders: the trade of slow lorises, Nycticebus spp., as pets in Japan )についてコメントをいただき、ありがとうございました。先月、同じく共同執筆者のオックスフォードブルックス大学教授のアンナ・ネカリス氏が来日し、この論文に関する事実関係を確認いたしましたので以下にご報告いたします。
 なお、この論文に関する調査に当会は業務として協力しており、会員への活動報告義務の一環としてこの書簡を公開してよろしいでしょうか。ご協力をお願いいたします。
                                             敬具
上記の書簡に対し、公開用に再コメントをいただきましたので、下記に添付します。
石井信夫氏からの再コメント(PDF)
上記の再コメントについて
1-1)自然研による登録票の発給件数について
 2014年5月の調査当時、自然環境研究センターに電話で問い合わせたところ答えられないとの返答があったため、調査することができませんでした。2016年6月27日に環境省野生生物課、自然環境研究センター、ネカリス氏、鈴木らで意見交換を行った時質問したところ、登録票の発給に関するデータは野生生物課から公開できる場合があるとの返答がありました。今後、公開されるデータを研究に使用します。
1-2)輸入統計について
 (情報)CITESデータ―ベースの輸入統計はCITES事務局のホームページで検索できます。 https://trade.cites.org/
CITES Trade databaseに基づくスローロリス属の生体の日本への合法輸入頭数の経年変化は、JWCSのウェブサイトに掲載しています。
下記の部分について「「種の保存法」と「外為法」とが混同されていて、「種の保存法」が制定された 1992 年まで条約履行に係る国内法がなかったとの記述があり、その点についても訂正が必要」という指摘
In 1980 Japan joined CITES as a Party, yet it continues to list reservations (Mofson, 1994; Takahashi, 2009), and it was not until 1992 that Japan implemented The Law for the Conservation of Endangered Species of Wild Fauna and Flora (LCES) in line with CITES regulation (Knight, 2007). This legislation has moreover been criticised for its limited commitment to CITES, including a lack of communication regarding wildlife trade matters and weak control on imports (Reeve, 2002). However, the import and distribution of slow lorises is also prohibited by Japanese national legislation: the Customs Act, the Foreign Exchange and Foreign Trade Act, the Endangered Species Act and the Invasive Diseases Act, and perpetrators are in violation of these laws.
種の保存法制定までに以下の経緯がありました。
1980年 日本がCITESに批准。
既存の「関税法」第70条 (他の法令に対する証明または確認)および「外為法」 第54条 (通産大臣(当時)は税関長に対する指揮監督ができる)で国内措置が担保できるとした。
1985年 国内法の再調整 輸入貿易管理令の改正
1992年 「種の保存法」制定 国際希少野生動植物種に係る規制として輸出入時の承認が義務づけられる(第15条2項)
このような法整備された背景に、日本に対して一時的な措置であるはずの留保をいつまでも撤回しなかったことを含め、ワシントン条約の履行を適切に行っていないという国際的な批判がありました。
論文では、この国際的な批判があったことを踏まえて「種の保存法制定までCITESの法規に調和した国内法がなかった」と述べています。そして種の保存法の問題を指摘する意見があるものの、種の保存法だけでなく外為法を含む複数の法律でスローロリスの輸入と流通が禁止されていると述べています。
 そのためこの記載を訂正する必要はないと考えます。
1-3),4)登録票等の表記について
■ 「Registration」とすべきところを「Permit」とした部分および、輸入差止等実績を集計する税関の所轄官庁を「財務省」とすべきところを「経済産業省」とした部分を訂正します。
■ 種の保存法の罰則について記載したP.19 冒頭部分は2007年および2009年の論文の引用です。
Under current Japanese legislation, penalties imposed upon those involved in illegal trade or non-compliance with CITES regulation are weak. Fines of less than~USD 2,600 are given for falsified permits and less than ~USD 40,000 is set for wildlife smuggling along with an occasional short prison sentence; moreover court cases are regularly dismissed (Sakamoto, 2007, 2009).
2014年の調査当時、罰則強化を含む種の保存法の改正は認識していましたが、日本政府による公式サイト「Japanese Law Translation」が更新されておらず、当時はこれが英語で日本の法律を査読者が確認できる公式に公開されたものでした。法改正後の内容を加えた論文の訂正を行います。また2016年6月27日の環境省野生生物課との意見交換の時に、ウェブサイトの更新を申し入れました。
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Japanese Law Translation
(例2016年10月21日確認)
(なお、2016年1月に開催されたワシントン条約常設委員会に向け日本政府が提出した書類の中に罰則の強化が書かれました。2015.11.27付)
Japan’s report on control of trade in elephant ivory and ivory marke   P4
1-5)輸入差止
 この論文に使用した「ワシントン条約該当物品不正輸入差止等実績」に基づくデータは、当会が以前より情報公開請求により入手していたものです。附属書Ⅰ掲載後の評価については、同じ調査を日本向けに執筆した、「スローロリス属の販売状況からみた絶滅のおそれのある外国産野生動物ペットをめぐる問題」Wildlife Forum Spring/Summer 2015 (「野生生物と社会」学会発行)にて、国内取引規制の効果および附属書Ⅱ掲載種の対応では密輸は防げないことを示す事例と評価しています。
1-6)飼育繁殖
 動物園等以外の個人が飼育繁殖している事例は日本でしかみられません。2014年の調査では、日本国内での飼育繁殖状況を明らかにできなかったため、すでに発表されていた論文を引用しました。
2016年6月のネカリス氏の来日時には、日本のブリーダーと獣医師にヒアリングを行いました。あるブリーダーはピグミースローロリスの繁殖は2010年から成功するようになったが、他の種は難しいと述べていました。
 ペットのスローロリスは、ケージで飼育されるため交尾の時につかまる枝がない、繁殖ペアになるには相性があるという繁殖のための条件が満たされにくいほか、糖分の多いエサによる糖尿病、家畜の肉の食べ過ぎによる腎臓病、つかまる木がなく床に置かれることによる床ずれ、夜行性にもかかわらず明るい環境下におかれるためのストレス等、飼育技術が知られていないため過酷な飼育環境下に置かれていることが別の研究(Nekaris 2015)で明らかになっています。日本では動物園で飼育技術が確立しつつある段階にあり、スローロリスの飼育繁殖技術を持つ個人は限られると考えられます。
 2014年のペットショップ調査で18個体、2016年6月の調査で2個体のスローロリスの店頭販売を確認しましたが、飼育繁殖を示す登録票は一つもありませんでした。その中には、幼獣特有の体毛をもつ若いジャワスローロリスが規制前取得の登録票と共に販売されていました。附属書Ⅰ掲載(2007年9月13日)前に生まれた個体は2014年当時6歳以上の成体のはずです。この違法販売が立件されれば、ジャワスローロリスの国内での個人による飼育繁殖もしくは密輸の実態が明らかになるものと期待されます。
Nekaris K.A.I. ・ Musing L. ・ Vazquez A.G. ・ Donati G.(2015)Is Tickling Torture? Assessing Welfare towards Slow Lorises ( Nycticebus spp.) within Web 2.0 VideosFolia Primatol2015;86:534-551 (DOI:10.1159/000444231)
1-7)野生のスローロリスへの影響
 「スローロリス類の絶滅のおそれを高めている要因として、生息地の破壊とペット取引目的の捕獲があげられているが、前者の要因についての具体的言及がなく、後者の要因に日本がどれだけ関わっているかの評価がない」との指摘について
本論文は日本におけるスローロリス属の違法取引に焦点を当て執筆しました。これはアジアの霊長類の専門誌である掲載誌の意向です。
 ペット取引目的の捕獲と日本との関係は不明ですが、断片的な情報があります。ジャワスローロリスについては、インドネシアの市場で日本人が買い付けに来たなどの情報があります。
 附属書Ⅰの規制前(2007年9月13日以前)に税関で押収されその後動物園等で飼育されているスローロリスの多くはピグミースローロリスで、現在日本の動物園で飼育されているジャワスローロリスは4個体しかありません。2014年の調査では5個体のジャワスローロリスが同じ店舗で売られ、そのうち1個体は幼獣特有の体毛であり、2016年にも1歳とみられるジャワスローロリス1個体が販売されていました。これらのジャワスローロリスは規制6年後の同じ日に登録した登録票がついており、番号から推察すると14個体のスローロリスが同日に登録された可能性があります。今後、流通経路及び国内繁殖個体の違法販売について捜査が進むことを期待しています。
8)「日本が多くの野生生物取引に関わっていること、留保があること、罰則が緩いこと(誤り)など本件に直接関係のない記述があり、さらに日本の事例ではないのに、野外捕獲個体を飼育繁殖個体と偽る例があること、税関職員が腐敗していること(日本では考えられない)、偽の許可証が用いられること(同左)などをあげて、あたかも日本では違法な取引が横行しているかのような印象を与えようとしている」との指摘について
■ スローロリス属の中でも最も絶滅の危険の高いジャワスローロリスは、原産国のインドネシアでは1973年から保護動物に指定されています(Decree No. 66 1973 of Ministry of Agriculture)。The CITES Trade Databaseにおいてもインドネシアからの輸出またはインドネシアを原産国とするスローロリス属の生体が日本に合法的に輸入された記録はありません。しかし2014年、2016年の当会による調査ではジャワスローロリスの販売を確認しています。日本にジャワスローロリスが存在することは、税関で差し止められなかった個体があることを示しています。
■ The CITES Trade Databaseに記録された日本への生きたスローロリス属の輸出は1999年が最後であり、1999年は感染症予防法により研究機関・動物園以外のサルの輸入が禁止された年でもあります。知人の獣医師によると、日本でペット飼育されているスローロリスの寿命は15年程度です。そのため、現在個人が所有しているスローロリスのうち、国内繁殖以外の個体の大半は税関で差し止められず、合法的に輸入されなかった個体であると言えます。
つまり税関でスローロリスが多数差し止められていた時期に、差し止められずに国内に持ち込まれた個体が多く存在していたことから、附属書Ⅰ掲載後に差し止め数がほとんどなくなったことを理由に、差し止められずに国内に持ち込まれる個体が全くなくなったと考えることは合理的ではありません。
また2014年の調査で発見した登録票の表記より若い個体が販売されていた件を、2014年5月29日付で環境省野生生物課と警視庁に報告しましたが、立件には至りませんでした。警視庁の担当者によると、現在の登録票では裁判所に提出する個体識別の証拠としては不十分で、種の保存法を根拠とした立件は難しいとのことでした。これらの現状から法規制の弱さを2014年の法改正時の際に当会は指摘しました。
(補足)登録票を備え付けていない販売目的の陳列や、登録票不備の譲渡し(種の保存法第21条)が30万円以下の罰金のみ(第63条)です。違法行為を発見しやすいのは店頭での陳列や売買の現場であること、スローロリス1頭に100万円以上の値段が付けられていることを考えると法規制が弱いと言えます。
 ネカリス氏は世界の動物園で飼育されているスローロリスの情報を集積しています。日本では輸入が差止められた個体を動物園が寄託管理しているため、世界でのスローロリスの取引ルートの解明に寄与すると期待されます。
 なお、「ワシントン条約該当物品不正輸入差止等実績」により、原産国と輸出国が明らかになることもあります。
 種の保存法改正
2016年6月16日から10月13日まで「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存につき講ずべき措置今後のあり方検討会(以下、あり方検討会)」が5回開催され、当会は全回を傍聴しました。検討会は11月17日に開催される中央環境審議会環境部会野生生物小委員会に答申がありました。
 当会はこれまでのペット取引調査の結果を踏まえ、意見を提出する予定です。とくに裁判で求められる個体の識別については、2014年の法改正に係るパブリックコメント時に2014年5月2日付で「種の保存法施行規則等の改正案に関する意見」を提出しています。その意見では、スローロリスのDNA の研究をされている方から助言をいただき、生きた哺乳類の場合は根毛のついた毛をDNAサンプルとして遮光した密閉袋に入れ、関係書類とともに登録機関が保管することを提案しました。このDNAサンプルから親子関係が判明し、申請書の内容に虚偽があるかどうかの証拠にすることができます。
ここで述べた種の保存法の問題点は、2017年1月11日まで募集しているパブリックコメントに提案しました。
パブリックコメント(PDF) http://www.jwcs.org/data/LCES2017JWCS.pdf
                                             以上
Crossing international borders: the trade of slow lorises, Nycticebus spp., as pets in Japan

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2016年2月 8日 (月)

スローロリスの不十分な登録管理は世界から丸見え

 2016年2月初め、国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(SSC)アジア霊長類専門家グループが発行する専門誌に、日本でのスローロリスの違法取引についての論文が掲載されました。
 この論文を書いたオックスフォードブルックス大学の大学院生(当時)とJWCSは、一緒に日本のペットショップを調査しました。論文では、展示販売しているペットショップだけでなく、インターネット広告や、飼い主個人が投稿した映像も調査しています。
 インターネットに掲載された情報は、世界のどこからでも見ることができ、また自動翻訳を使えば日本語も読むことができます。インターネットの世界では違法取引が疑われるスローロリスたちが公開されているのです。

●登録票に6年半前に取得したと書かれた未成年ロリスも
 論文のために調査した20のペットショップで74頭のスローロリスが売られており、その中にはスローロリス属の中で最も絶滅のおそれのあるジャワスローロリスも含まれていました。展示販売されていた18頭のスローロリスを詳しく調べてみると、大人のスローロリスが83%、未成年(赤ちゃんよりは大きい)のスローロリスが17%いました。18頭のスローロリスには、すべてスローロリスの国際取引が原則禁止になり国内取引に許可が必要になった2007年9月13日以前に取得したという登録票がついていました。スローロリスの寿命は15~25年ほどで、16~21カ月で性成熟します。未成年ロリスの販売は登録票の不正が疑われます。
 この登録票は財団法人自然環境研究センターが発行しています。2016年1月に象牙の不正登録を指南した件で新聞に大きく取り上げられ、環境省が指導をした団体です。
 2013年には死んだスローロリスの登録票が不正使用され、種の保存法違反で逮捕者が出た事件がありました。登録制度そのものを見直す必要があります。

●飼い主個人の投稿映像に違法入手が疑われるロリス
 自分のペットの映像をインターネットで公開する人は大勢います。その映像は世界どこででも見ることができます。論文では、日本から投稿されたスローロリスの動画を調査しています。その数、2007年5月から2014年7月までの投稿で93本、114個体。そのうち大人は63.2%、未成年が22.8%、赤ちゃんが14%でした。
 ワシントン条約に従って日本に輸入されたスローロリスは1999年が最後です。したがって高齢のスローロリス以外は日本生まれのはずです。スローロリスは飼育繁殖が難しい動物なのに、なぜ日本には今も若いスローロリスが、商品になるほどたくさんいるのでしょうか。

●日本の不十分な規制が世界のロリスを守る努力に水を差す
 スローロリスの保護を行っている団体に、オックスフォードブルックス大学の研究者を中心に生息地での活動をしている「リトル ファイヤーフェイス プロジェクト」があります。この団体は保護のための研究や救護のほか、生息地での環境教育や購入者に向けた啓発活動を行っています。
 また野生生物の違法取引は国際的な犯罪組織の資金源や汚職の温床となっているため、インターポールや世界の税関は取り締まりに力を入れています。
 こうした努力も日本の規制が不十分では実りません。スローロリスは日本では高いものでは1頭100万円もの値がつくので、不十分な制度の隙をついて儲けようとする人もいるでしょう。

●インターネットで世界からは丸見え
 個人の飼い主がインターネットに投稿した違法が疑われる映像は、海外からでも見ることができます。象牙の場合は覆面調査で自然環境研究センターによる違法指南が明らかになりました。しかしスローロリスの場合は、飼育者が同センターに登録申請したときにどのような対応だったのかなどを個人のブログなどに書いているので、誰でも知ることがで きます。
 そのようなスローロリスの飼育日記や動画の投稿のなかには、スローロリスの野生での生態からみると虐待に等しいものがあります。例えば夜行性なのに昼間に連れ出したり、野生では樹脂や昆虫を食べているのに人間の食べ物を与えたりすることです。両手を上げる威嚇の動作をかわいいとコメントして投稿しているものもあります。このような動物福祉の面で問題のある映像が、日本から多く投稿されていることも海外から問題視されています。
 スローロリスを守る取り組みは、生息地での保護活動、密猟・密輸の摘発、消費国・日本での規制がひとつながりになって効果が現れます。日本でのワシントン条約対象動物の規制の強化、野生動物をペットにすることの教育普及が必要です。

                                  (鈴木希理恵 JWCS事務局長)

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2014年5月28日 (水)

スローロリス保全行動計画の策定に協力

スローロリスの脅威は森林伐採と密猟


 スローロリスは東南アジアの森林に生息する夜行性のサルです。森林伐採や密猟のため絶滅のおそれがあります。そこで2007年9月13日からはワシントン条約で国際取引が原則禁止になりました。しかし生息地の違法伐採や密猟は続き、日本では今なおペットとして人気があります。
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(写真)撮影地:インドネシア

野生生物犯罪のもたらす不幸

 野生生物の密猟や密輸などの「野生生物犯罪」は、犯罪組織の資金源として大きなウエイトを占めるようになってきました。金額で比較すると、麻薬、偽ブランド、人身売買に次ぐ世界第4位の犯罪分野です。
 とくにアフリカでは、象牙の密輸がテロ組織の資金源になっていることが大きな問題になっています。4月、ナイジェリアで女子学生200人以上を誘拐した「ボコ・ハラム」もその一つと言われています。
 象牙を高値で買う人が世界のどこかにいる限り、ゾウの密猟は止まりません。
 そのため野生生物の生息国だけでなく、国際協力で野生生物犯罪の取締りを強化する動きが活発になっています。


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(写真)Tokyo Conference on Combating Wildlife Crime 2014年3月3日 国連大学 での報告

野生のスローロリスの保全と日本

 スローロリスの保全を国際的に取り組むため、国際自然保護連合(IUCN)の内部組織の一つである種の保存委員会(SSC)が、行動計画を策定することになりました。そこには生息国での取り組みだけでなく、消費国での取り組みも加えることになり、消費国の一つである日本からも、情報を提供することになりました。
 スローロリスは国際取引が原則禁止になる前も、輸入には許可が必要な動物でした。さらに2005年からは感染症予防のため、ペット用のサルの輸入は禁止されています。それにもかかわらず、多くのスローロリスが国内で流通し、密輸が多発していました。
 その状況を変えたのが、スローロリスがワシントン条約で国際取引原則禁止の動物になり、それと同時に国内法の「種の保存法」の対象となって、国内での許可証なしの取引や陳列などが禁止になってからです。
 そこで行動計画策定のための情報として、この国内取引規制の効果とまだ残る法律の問題点を日本の事例として報告しました。
 このほかに新たな問題として、インターネットによる需要の呼び起こしがあります。例えば海外旅行に行って、スローロリスと記念写真を撮るサービスにお金を払い、その写真を自分のブログやTwitterやFacebookに掲載するとします。インターネット上の情報は世界中の人の目に触れる可能性があり、記念撮影用のスローロリスの需要や、ペットとしての需要に結びついてしまいます。
 また、自分が飼っているスローロリスを動画に撮ってYouTubeに掲載することも同じ結果を生み出してしまいます。さらにスローロリスのしぐさがかわいいからと投稿された動画が、スローロリスの専門家から見ると実は恐怖や威嚇の動作だということがあり、動物福祉上の問題が指摘されています。
 つまりスローロリスは愛玩用に品種改良された動物ではなく野生動物だ、という教育普及が必要なのです。教育普及は行動計画の重要な柱となる予定です。

Little Fireface Project との連携

 スローロリス保護団体「Little Fireface Project」は、2009年2月に「スローロリス識別ワークショップ」とシンポジウムをJWCSが開催した時に来日した、アンナ・ネカリス博士が主宰しています。このスローロリス保全行動計画への日本からの情報提供はLittle Fireface Projectとの連携で行われました。
 そのメンバーの一人でネカリス博士の下で研究をしているルイーザ・ミュージンさんが、JWCS主催のセミナーで報告をしました。セミナーは学生を中心に大入り満員で、スローロリスのもつ毒の話を初めて聞いたなどの感想が寄せられました。

Seminermini
(写真)2014年5月13日 セミナー 世界の野生動物研究「スローロリスの現状と保全の取り組み」
 「スローロリス保全行動計画」が策定されると、それに基づいて生息国・輸入国の両方で法執行の強化や教育普及のための活動が始まる予定です。
 日本にいても、東南アジアの森で暮らす野生のスローロリスのためにできることがあります。
 今後ともご支援をお願いいたします。
  Japan Giving (寄付サイト)

                           (鈴木希理恵 JWCS理事)

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2009年1月22日 (木)

いま日本で売っているスローロリスは違法?

 日本でスローロリスを売買、貸し借り、無料であげても、インターネットで売ろうとしても「登録票」が必要です。登録票は環境省の登録機関(財団法人 自然環境研究センター)が 発行しています。

  登録するには、スローロリスが輸入禁止になる2007年9月13日以前に取得した経緯を明らかにする書類が必要です。輸入禁止後に国内で繁殖した場合は親が登録されていて、繁殖の経緯の記録があるのが登録の条件になっています。( http://www.env.go.jp/nature/yasei/slow_loris/index.html )

つまり登録票のないスローロリスをうっかり買うと犯罪者になってしまうのです。

シンポジウム「密輸ペットから消費と絶滅を考える」まであと16日。

ゲストのトルシアさんから、発表資料が届きました。かわいいスローロリスの写真のオンパレード。そして初めて知る野生のスローロリスの生態。

「初めて」の情報がてんこ盛りのシンポジウムになりそうです。

ご参加、お待ちしています!  詳しくは http://www.jwcs.org/news/archive_event/081202.html

お申込みは  E-mail event@jwcs.org  まで。

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2008年12月22日 (月)

JWCSがスローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開くまでの物語(5)

サルの輸入は原則禁止です

「国際取引禁止」の種以外のサル目(霊長目)全種が、ワシントン条約で「国際取引に許可が必要」になっています。しかも日本では感染予防法によって、ペットを目的としたサルの輸入は禁止されています。輸入が許可されるのは動物園や研究機関で、しかも生息していた地域が指定されています(http://www.maff.go.jp/aqs/hou/57.html#8-54)。

だからスローロリス属でなくても、サルを国内に持ち込めば違法です。

それなら種の識別なんて不要じゃないのか?いえいえワシントン条約対象種の国内での譲渡は種の保存法で規制されていますが、対象となるのは「国際取引原則禁止」の種だけです。「国際取引に許可が必要」の種は輸入する時に書類が整っていれば、売買は違法ではありません( http://www.env.go.jp/nature/yasei/leaflet_rs.html )。

だから国内でスローロリスの仲間が売買されていたとき、「スローロリス属か、そうでないか」は「種の保存法に違反するか、しないか」になるのです。

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2008年12月18日 (木)

JWCSがスローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開くまでの物語(4)

ところでロリスは種類があります
 ロリスはキツネザルやメガネザルと同じ原猿類に分類されるサルです。
そのロリス科は、アフリカに生息しているグループとアジアに生息しているグループに分けられます。アジアに生息しているグループのうち、スローロリス属が2007年9月から「国際取引禁止」になりました。

霊長目 ― ガラコ科 (アフリカ)
     ― ロリス科 ―アンワンティボ属   (アフリカ)― 2種
              ―ポットー属       (アフリカ)― 1種
              ―ニセポットー属    (アフリカ)―1種
              ―スレンダーロリス属 (アジア)―   2種
              ―スローロリス属      (アジア)―  4種  ←国際取引禁止!
                   ・ベンガル(キタ)スローロリス
                                    ・ジャワスローロリス
                                     ・ピグミー(レッサー)スローロリス
                                      ・スローロリス―2亜種
                                      *スンダスローロリス
                                              *ボルネオスローロリス

種を偽って密輸されないよう、アジアのおもな国際空港の税関職員など政府の取締り担当者に向けて、スローロリスの識別と没収後の飼育についてのワークショップを開催しているのが、2月に来日するネカリス博士らです。日本ではJWCSが主催して開催することになりました。

*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   

この事業はイギリスに本部のあるNGO、Care for the Wild International の助成で開催します。

 じつは世界的な金融危機、急激な円高とポンド下落で開催が危ぶまれたのですが、関係者の努力でなんとか開催することになりました。だからシンポの運営はケチケチです。たくさんのボランティアの方に支えられて、シンポが開かれます。

シンポジウムのお知らせはこちら→ http://www.jwcs.org/news/archive_event/081202.html

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2008年12月17日 (水)

JWCSがスローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開くまでの物語(3)

取引禁止は2007年9月から
 締約国会議での決定は、会議終了(6月15日)から90日後(9月13日)に発効します。

 JWCSは、2007年7月9日に財務省関税局、東京税関、大阪税関の監視部宛てに、「スローロリス類の駆け込み輸入警戒のお願い」を送付しました。会議直前の5月は1カ月の間にピグミー(レッサー)スローロリス90頭の密輸が発覚していました。ペット店では「今年の9月から販売ができなくなります 今が購入のチャンス!」と張り紙するところも。

 初の逮捕者! 裁判
 2008年1月16日、スローロリスの密輸で始めての逮捕者が出たとのニュースが入ってきました。埼玉県在住の父子が、2007年9月から11月にかけて3回にわたり、タイからスローロリスを密輸し、ネットを通じて販売していたという事件です。
種の保存法違反、感染予防法違反など。

 じつはこの事件をJWCSのブログに書いたところ、ブログのアクセス数が急増しました。人気ペットのスローロリスが密輸だったのかも?とのショックがあったのでしょう。
 この事件は3月から裁判が始まり、6月に判決が言い渡されました。

  父 :懲役1年10ヶ月+罰金80万円
         麻薬の密輸の前科あり
息子:懲役1年6ヶ月(執行猶予3年)+罰金40万

この裁判の傍聴記も読んでみてください。→ http://jwcs.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_16b9.html

その後も2008年にはスローロリスの密輸に関して2件の逮捕がありました。

*   *   *  *  *  *  *  *  

 シンポジウムまであと52日。ポスターが完成しました。明日、印刷して動物関係の講座のある学校などに発送します。冬休み前に掲示してくれるかな・・。

ポスターは斉藤たまきさんのデザインです。カメの口がかわいい → http://www.jwcs.org/ 

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2008年12月16日 (火)

JWCSがスローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開くまでの物語(2)

2007年6月ワシントン条約締約国会議

 「国際取引原則禁止」の動植物と「許可があれば取引してよい」の動植物とでは、同じ密輸でも罪の重さが違います。それに日本国内での流通が規制されるのは「国際取引原則禁止」の動植物だけ。

 スローロリスの保全のため、カンボジアの提案を採択させるため各国のNGOが活動しました。2009年2月に来日する、スローロリス研究者 アンナ・ネカリス博士らの研究成果は、その主張の重要な裏づけとなりました。JWCSも日本での密輸の状況を締約国会議の会場でアピールしました。

 そして8日、いよいよスローロリスが議題に。「国際取引原則禁止」のカンボジアの提案に対し、各国が賛成意見を述べていきます。そして日本政府とオブザーバー参加したJWCSが議長に指名されて賛成意見を述べ、満場一致で採択されました。(祝!)

 そのアンナさんが2月のシンポのゲストです。野生のスローロリス、どんなくらしをいているのでしょう。 シンポジウムまであと53日!

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2008年12月 8日 (月)

JWCSがスローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開くまでの物語(1)

 JWCS(NPO法人 野生生物保全論研究会)は、2009年2月に、スローロリスを事例とした密輸ペット問題のシンポジウムを開催します。 (詳しくは→ http://www.jwcs.org/  )

 どうしてスローロリス?なぜ日本でシンポジウムをするの?そしてシンポジウム開催までの道のりをブログでご紹介します。

 日本のペット需要が絶滅に加担している!

 絶滅のおそれのある野生動物を日本はたくさん輸入してきました。とくにJWCSがスローロリスの問題に取り組むようになったのは、2007年のお正月あけに、その年に開かれるワシントン条約締約国会議にスローロリスを原則取引禁止にしようとカンボジアが提案するとの情報が入ってからです。

 それまでスローロリスは、某タレントがペットにしていることがテレビで紹介されたりして、ペットとして人気がありました。だけどその時すでにスローロリスは絶滅のおそれがあるため、ワシントン条約で国際取引に許可が必要な動物。そういう許可が必要な動植物の国際取引の情報を集めたCITESトレード データベースを調べてみると、日本へ許可されたスローロリスの輸入は2000年以降ゼロ。一方で密輸は毎年摘発されていて、2006年、2007年は1年間に100頭を超える密輸が摘発されていました。日本人のペット需要が密輸を招き、生息地での絶滅に加担していたのです。

シンポジウム開催まで あと61日・・・・つづく

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2008年6月19日 (木)

裁判傍聴記-スローロリス不正輸入・不正売買結審

6月12日 東京地方裁判所

この裁判は今年1月16日、ワシントン条約で商取引が禁止されている小型のサル、スローロリスをタイ王国から密輸し、日本国内で不正に売買した父子が逮捕された事件の裁判です。
父親がジーンズのポケットに入れるなどして密輸し、息子がネットなどを利用して販売していた事件で今回で結審。判決が出ます。
第1回裁判の傍聴記はこちら⇒ http://jwcs.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_16b9.html
第2回裁判の傍聴記はこちら⇒ http://jwcs.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/2_cd26.html

実は第3回の裁判も行われました。
5月29日 残念ながら私はこの裁判を傍聴できなかったので、傍聴した関係者より確認できた事実関係をお伝えします。
1.ピグミースローロリス関税法違反
2.平成19年2月27日父親がバンコクよりマダガスカルホシガメ5頭を不当に日本国内へ持ち込む。
 平成19年3月1日息子がインターネットによりペットショップへ4頭計32万円で売却。残りの1頭に関しては個人に5万円の約束で譲り渡す。

そして、本日は判決が言い渡されました。

父:懲役1年10ヶ月+罰金80万円
息子:懲役1年6ヶ月(執行猶予3年)+罰金40万

息子は裁判終了と同時に釈放(執行猶予付き判決のため)
父親は手錠をかけられ部屋を後にしました。
この後自身の罪を償うために刑に服します。

判決を聞いた私の率直な感想です。
「軽くない?」

罪に問う理由として裁判長は
1.利欲的で身勝手、巧妙な手口で常習性が顕著であり酌量の余地なし
2.ピグミースローロリス2頭とマダカスガルホシガメ4頭を死亡させたことは希少種が現に失われたということで結果は重大
3.領収書の日付を改ざんし、証拠隠滅を図っており悪質
4.父親は大麻取締り違反により懲役6年罰金刑150万に処せられ、その後5年以内に今回の事件を起こしており法遵守の気持ちが希薄
などをあげていました。

過去の罪を反省することなく、ただ彼にとって麻薬がピグミースローロリスやマダガスカルホシガメに代わっただけ。
命ってことを感じることは彼の中であったのでしょうか。
父親は一貫して無表情で、その表情からは彼の心の中を見て取ることはできませんでした。

また、息子に執行猶予がついたのは、
1.初犯であること
2.二度としないと誓っていること
3.叔父が指導監督をすることなどが理由のようです。
また息子に対して裁判長は「軽い気持ちでやったというが、決して軽いものではない」と言っていました。

息子さん、その言葉、心に響きましたか?
父親が手錠をかけられている最中、息子は父親と目で合図をしていました。
なんの合図であったか、うかがい知ることは出来ませんでした。
そして、法廷から出てきた息子は迎えに来ていた叔父とともに廊下で弁護士にお礼を言ったり談笑していました。罪の重さを感じていますか???
その顔からは罪の重さを感じるよりも自由になれた嬉しさを見て取れたのは私だけでしょうか…。

スローロリスなどの希少動物はその生息地を離れた時点で自然の中での彼らの位置を失い、実際は飼われて生きていたとしても死んだも同然であると考えないといけません。
そこで、生きているいるから絶滅はしていない、というのは人間側からの一方的な考え方ではないでしょうか。
自然界で考えたら、そこで生きてきた種がいなくなるということは、どういうことか。
その個体が暮らす森の中では植物や昆虫、その他の動物がそれぞれの役割を担って暮らしています。
その、なにが欠けても自然が崩れてしまうおそれがあることを知っていないといけません。
スローロリスを飼っているということは自然が崩れる可能性に荷担していること。
そして自然が崩れることはなにより人間の生活にも影響を及ぼします。
実際にアリューシャン列島の沿岸域では、ラッコが人間の捕獲によって減少し、ラッコの主食であるウニが増え過ぎ、ウニが食べるコンブが大打撃を受け、コンブから始まる食物連鎖に連なる魚介類が壊滅したという例があります。

種の保存法により国内での取引は規制されています。
国内繁殖を証明するものでない取引は禁止です。
もしも、それを知っていて買ったとしたら、その人も罪を犯しているのです。
今回ははじめての摘発と言うこともあり、売人のみの処罰となりましたが、次回は買った人も法廷に立つこともありうるし、やはり、罪の意識を感じるためにもそうあって欲しいと願います。
野生動物はペットではありません。

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