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2014年10月29日 (水)

生物多様性を取り巻く新たな議論“合成生物学”

 2014年10月、韓国・平昌で生物多様性条約第12回締約国会議(COP12)が開催された。本会合ではおもに、愛知ターゲットの中間評価やその達成に向けた資源動員戦略に関する議論が行われた。また、10月12日に発効した名古屋議定書の第1回締約国会議が開催されるなど、さまざまな議題が注目を集めた。本稿では、その注目を集めた議題の1つである「合成生物学(Synthetic Biology)」に焦点をあて、その概要やCOP12での議論を紹介する。

1.合成生物学の概要と議論の経緯

 合成生物学は2012年4月頃に開催された第16回科学技術助言補助機関(SBSTTA16)の会合から新規で緊急の課題として生物多様性条約の下で議論され始めた(ただし、議論され続けているものの、「新規で緊急の課題」として扱うべきかどうかという手続きの点においてもCOP12での論点となっている)。

 SBSTTAで議論が始まった背景には、合成生物学が人の手によって生命が創りだす潜在性を有した技術なのではないかという疑念に由縁する。2010年5月、サイエンス誌(電子版)にアメリカの研究グループが人工的に化学合成したゲノムDNAを持つ細菌を造成することができた論文を発表し、日本においても社会的に大きな話題となった(ただし、完全に人工的な生命体を創出するには、乗り越えるべき障壁が数多く存在するため、現時点では不可能という指摘もある)。

 そうして始まった生物多様性条約の下での議論は条約の最高意思決定場である締約国会議にて、「国内法令及びその他の国際的な義務に従って、合成生物学より生じる有機体、構成要素及び産物による生物多様性の深刻な減少や損失の脅威に対処する場合には、条約の前文及び第14条に従って、予防的取組方法をとること(決議 XI/11 para4)」を各締約国などに要請し、問題に対処することを決めた。


2.COP12での合成生物学に関する議論

 今年10月に開催されたCOP12における論点はおもに次の2点が挙げられる。

1点目は、前回のCOPにおいても議論になった、合成生物学を「新規で緊急の課題」とするかどうかということである。
 2点目は、合成生物学に新たな国際的な規制的枠組みが必要なのかどうか、さらに、カルタヘナ議定書とどのような関係があるのかということである。

具体的には、欧州連合やメキシコ、ブラジル、ノルウェー、カナダは新たな国際的な枠組みを不要で、すでにカルタヘナ議定書という国際的な枠組みがあるため、その下で合成生物学がどの程度カルタヘナ議定書によって適用されていて、されていないものがあるのかどうかを特定する必要があると、主張していた。

一方で、フィリピンやエチオピア、マレーシア、ボリビアは、新たな国際的な枠組みを求めていた。

結果的には、新たな国際的な枠組みを必ずしも設置しない方向で決議され、具体的な合成生物学に係る定義やカルタヘナ議定書との関係については、専門家グループの下で検討を進めていくことが決まった。

また、合成生物学的技術によって生じる構成要素、有機体及び産物の環境放出を規制していくために、リスクアセスメントを実施していく(すでに実施している場合には、引き続き)ことも決まるなど、問題に対処していくことが決められた。そのため、細かい具体的な対処については、今後の専門家グループでの検討などにも左右されることから、引き続き、この問題への対応を注視していく必要がある。

(小林邦彦 名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程)




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