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2014年7月31日 (木)

命の集合体としての川の価値

●豊かな球磨川とともにあるくらし


 7月26・27日の2日間、JWCS愛知ターゲット3委員会のメンバー4人で、熊本県八代市を訪れました。生物多様性に影響を及ぼす奨励措置の研究として、荒瀬ダム撤去による自然の変化や地域社会について聞き取り調査をするためです。

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 ご案内いただいたのは、代々、八代にお住いのつる詳子さんでした。自然観察会を通じて長年、球磨川、不知火海の自然保護活動に携わってきた方です。
 つるさんが話すのは球磨川にダムがなかった時代の豊かなくらしでした。ブランドの服を買ったり、海外旅行に行ったりできなかった時代がなぜ豊かと言えるのかと考える人もいるかもしれません。
 しかしかつての海や川の漁師は、家の建て替えや家族の結婚など大きな出費があるときに集中して働けばまかなえ、親は子どもにおこづかいをあげなくても子ども自身がアユやウナギを取って稼ぎ、なかには学費を稼ぐ子もいたといいます。
 その豊かさや安心感の価値は、とくにブラック企業で働かざるを得ない若い世代には理解できるのではないでしょうか。

 ダムがなかった時代の洪水は、水位の予測がつくため畳や家財道具を水のこないところに上げて準備することができたそうです。そしてあらかじめ洪水になっても水の流れに逆らわないように柱を立てたり、二階に荷物をあげる滑車をつけたりと洪水を見込んだ家を建てていたそうです。私が状況を想像できなかったのは、「流れてくる水がきれいなので、水が引いた後は川砂を片付けるだけ、障子は外して流れないようにひもをつけておいて洪水の後は障子紙を新しく張るだけ」というお話でした 。
 家の中が泥だらけになって財産を失うという「水害」は、水位の予測がつかない洪水時のダムからの放流が行われるようになってからだそうです。

 不知火海から球磨川に沿って上流に向かう道を車で行くと、仁徳天皇時代に中国の揚子江から9千匹のカッパが来たという「河童渡来之碑」、景行天皇が熊襲(くまそ)征伐に来た時に(地元の人にとっては鬼が)座ってお昼ご飯を食べた岩、戦国時代に落城した城の女性たちが淵に身を投げた岩、明治になって鉄道が通り、川いっぱいに飛ぶホタルを減速して見せた「ホタル列車」のビューポイントなど、川とともに生きた人々の長い歴史をそこここに見ることができました。

●ダム撤去で復元する自然

 そんな球磨川に荒瀬ダムが竣工したのは1954(昭和29)年、県による発電ダムとして作られました。球磨川水系の上流部には国直轄の多目的ダムである川辺川ダムが計画されていました。

 しかし強い反対運動があり、現在は国と県、流域市町村長が参加してダムによらない治水の検討が進められています。この川辺川ダム問題が注目されていたころ、荒瀬ダムの水利権の期限がせまり、漁協や住民の強い反対で更新されずに撤去されることになりました。
 つるさんの話では、2010(平成22)年3月にダムのゲートが開き、水位が下がると瀬が現れて水はすぐにきれいになり、その年の夏はヘドロが臭かったけれど悪影響は1年ほどだったそうですと言います。
 荒瀬ダムのゲートを開けた後、上流にある瀬戸石ダムが点検のため冬の2か月間ゲートを開けるようになると、それが青のりの生育に重要な時期と重なったため今まで30センチくらいしか大きくならなかった青のりが、1.5メートルにも育つようになり、品質も良くなったそうです。また点在していた藻場の面積が3倍に広がり、漁師さんたちは2012年ごろからウナギやクルマエビが増え始めたと言っているそうです。
 水のよどんだダム湖だった場所が浅瀬や淵になり、川砂や砂利の河川敷が現れると、植物が生え、浅瀬にオタマジャクシが泳ぎ、小魚を狙う鳥たちが集まってきます。川とは水が高いところから低いところに流れるだけのものではなく、たくさんの命の集合体として存在しているものなのだと思いました。

●川の「命をはぐくむ力」を取り戻すお金の使い方

 しかし、荒瀬ダムより上流にある瀬戸石ダムがアユの自然な行き来を止め、また放流すれば干潟に大量のへドロが流れ込んでアサリが埋もれてしまったり、アユの稚魚が海に下っていく距離で考えると産卵に一番適している場所に堰があったり、周辺の山が放置されたスギ・ヒノキの植林地で土砂崩れの原因になったりと、まだ川は命をはぐくむ力を昔のように発揮できないようです。
 瀬戸石ダムは電源開発による発電ダムで、2014年、住民との話し合いに応じずに水利権が20年延長されました。「水力は原子力発電よりクリーンなエネルギー」など総論で片づけるのではなく、このダムの発電量なら節電技術や、その地域の資源を活かした他の再生可能エネルギーに替えられないかなど具体的な検討とともに、過疎・高齢化が進む中で希望の持てる将来について議論を重ねる重要性を感じました。
 川はよく龍にたとえられます。ときどき暴れて周囲の環境をリセットしながらも、野生の命をはぐくむ力を持ち、人が有形無形の恵みを引き出すことのできる命の集合体だと思います。
 その龍の価値を損なうお金の使い方をやめる。「生物多様性に悪影響を及ぼす奨励措置(公的資金も含まれる)の廃止(愛知ターゲット3)」はそう言い換えることができるのではないかと思います。
                                                                        (鈴木希理恵 JWCS事務局長)
<参考>荒瀬ダムと川辺川ダムの現場から
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