日本がボン条約に批准しない理由
ボン条約(移動性野生動物の種の保全に関する条約)は、1979年にドイツのボンで採択され、1983年11月に発効した環境条約の一つです。120カ国(2014年5月1日現在)が加盟していますが、日本は批准していません。
日本がなぜボン条約に批准しないのかが、公式の場で明らかになったのが、2014年6月6日の衆議院環境委員会での質疑でした。日本維新の会の河野正美議員が質問をしました。
ボン条約の批准について政府の答弁は「慎重に検討している」でした。しかしすでに採択から30年以上がたっています。さらに批准のデメリットを議員が質問したところ、水産庁次長は、小笠原のアオウミガメ漁、海鳥の混獲、商業捕鯨が困難になることを挙げていました。
そして混獲については、ウミガメ類等は定置網、マグロ延縄漁業で、海鳥等はマグロ延縄漁業で混獲されているが、FAO(国連食糧農業機関 (*1)の措置や地域漁業管理機関(*2)の決定で混獲回避措置をしているとの答弁がありました。
混獲が生息数減少の原因として対策が検討されているのが、ウミガメやアホウドリなどの海鳥、サメなどです。漁具の技術開発や制度の改善など混獲減少に向けた取り組みが積み重ねられています。
この衆議院環境委員会での質疑によって、日本のボン条約批准に何が課題なのかが公式な場で明らかになり、批准に向けた取り組みへのきっかけになりました。
またこの質疑では、3月31日の国際司法裁判所による南極海における第2期南極海鯨類捕獲調査についての訴訟の判決についてもふれています。その中で水産庁から、クジラ類は他の水産資源と同様に重要な食料資源という答弁がありました。この答弁をはじめ一連の答弁を聞いていると、漁業対象種は「資源」で「野生生物減少という環境問題ではない」という考えが、ボン条約を批准しない根源ではないかと思いました。
人間が利用する生物もしない生物も、海の生態系を構成する生物であり、それが人間によって生息数が減少するのであれば、それは環境問題だと私は考えます。健全な海の生態系が土台にあるから、漁業を含む人間のくらしが成り立つと考えるからです。
一方、水産庁の書類には「環境保護団体の圧力」という言葉がときどき見つかります。「資源」の確保と環境保護は対立しているという短期的に見た考えなのでしょうか。「資源問題」と考えるか「環境問題」と考えるかは、とくに捕鯨に関しては長く続いている議論です。そして小原秀雄JWCS名誉会長は「クジラは資源ではなく野生動物だ」と主張し続けてきました。
ボン条約の批准は、利用が大前提の「資源」と、それ以外の、混獲されて「お金にならないから」と捨てられてきた海洋生物に対する見方を、「国際協力で海洋生態系を守る」方向へ転換する意味もあると思います。
ボン条約やワシントン条約による海洋生物に関する規制は、混獲や水揚げに対する法執行など、陸上生物への対応よりも難しい課題があります。しかしワシントン条約事務局などのプレスリリースを見ていると、ボン条約、ワシントン条約、生物多様性条約などがそれぞれ連携し、FAOやインターポールなど国際機関も交えた会議がたびたび開かれ、その難しい課題をひとつひとつ解決していこうという動きがあります。
そしてインターネットを使って情報を公開し、NGOに参加を呼びかける動きも強くなってきたように思います。例えば2014年3月にインターポールの環境犯罪部長と日本のNGOとの意見交換会が開かれ、JWCSも招かれました。そして6月25日にはインターポールから環境犯罪についての報告書(*3)が発行されたというお知らせのメールが来ました。
30年以上も「慎重に検討」してきたボン条約に批准することは、急速に変わりつつある国際社会の動きに一気に追いつくきっかけになるかもしれません。
(鈴木希理恵 JWCS理事)
<参考>
(*1)FAO 混獲と破棄についてのウェブサイト(英文)
FAO「混獲管理と破棄低減に関する国際ガイドライン」は2012年に発行されています(英文)」
(*2)地域漁業管理機関(RFMOs)
全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、インド洋まぐろ類委員会(IOTC)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)
IUCNは地域漁業管理機関による混獲や破棄の管理について現状を評価した報告書を発行しています。(英文)
P15の環境犯罪の中身の図がわかりやすいです。例えば違法漁業は年間110~300億米ドル(約1兆1000億~3兆円)の規模になっています。
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