伝統知識と地域性を重視する生物多様性保全とは
2014年1月30日、環境省主催のIPBES第2回総会の報告会に参加しました。
IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)とは、気候変動枠組条約のIPCCのように、国際的な専門家が構成する、科学的評価を行う機関です。
2012年4月に設立され、第1回総会が2013年1月にドイツのボンで、第2回総会が2013年12月にトルコのアンタルヤで開催されました。この2回の総会で組織の枠組みやルール、予算が決まり、いよいよ参加する専門家を募集するという段階にきたという報告でした。
登壇者の中でとくに国連大学上級副学長の武内和彦氏のお話が興味深かったのでご紹介します。
IPBESの機能は
1.知識の創出(知るべきことがたくさんある)
2.アセスメント(評価)
3.政策立案支援(研究結果を政策に結びつける)
4.能力形成(とくに途上国での人材育成)
です。
1.知識の創出(知るべきことがたくさんある)
2.アセスメント(評価)
3.政策立案支援(研究結果を政策に結びつける)
4.能力形成(とくに途上国での人材育成)
です。
立ち上げに際し世界の研究者にアンケートをしたところ、生物多様性分野の場合は通常議論に使われる査読付きの論文ではなく、伝統知識が重要であると8割の研究者が答えたのだそうです。また国連の地域区分や国境のような政治的な地理ではなく、生態学的な地域区分を採用すべきとの意見が多かったそうです。
伝統知識と地域性を重視する生物多様性保全とは? 武内氏の報告資料を以下に引用します。
「先住民・地域の知識体系の基礎的側面とその世界観」
・社会経済・文化・環境の相互依存性
・社会的な関係と人間同士の相互依存、および人と自然の一体性の重要性
・過去、現在、そして将来世代の関係の連続性。価値、知識と責任の世代間伝達
・自然領域、社会領域における循環プロセスの強調
・場所、土地、先祖の領地に対する共同体のアイデンティティ
・景観モザイクと生物多様性の維持と管理におけるコミュニティの役割と認識
・知識にとどまらず実践すること
・言語の重要性、言語の多様性
・ジェンダーを考慮した役割と知識の認識
・スピリチュアリティー(霊性)の重要性
これって途上国の話では?と思うかもしれませんが、私は最近テレビで見た防潮堤問題を思い出しました。
例えば防潮堤の建設をどうするか、というときに、
・その集落のなりわいや引き継がれてきた文化は、海と切り離しても続くものなのか?
・将来世代や女性の意見が取り入れられているか?
・防潮堤は自然の循環や人と海とのつながりを絶たないか?
・集落の歴史や土地に対する共同体のアイデンティティを失うことにならないか?
・朝日を拝む、というようなスピリチュアリティーはどうでもいいのか?
などの議論はどうだったのでしょうか。
愛知ターゲットは20の目標をその内容によってAからEまで5つに分類しています。戦略目標Aは「生物多様性を主流化して損失の根本原因に対処する」で、4つの具体的な目標が立てられています。目標1は「認識する」ですが、2から4までは、政策や経済活動の中で生物多様性が主流になることが目標です。
それは防潮堤問題などさまざまな意思決定の場で、伝統知識や地域を重視する、生物多様性の視点が活かされるようになることです。そして生物多様性保全が地域振興につながるように、社会の仕組みを逆回転させていくことではないかと思います。
鈴木希理恵 JWCS理事
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