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2013年5月31日 (金)

ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(3)

アフリカから緊急メッセージ(3)  西原智昭(WCSコンゴ共和国・JWCS理事)


 密猟の起こる根本的な理由は、象牙への需要の存在です。内戦という特殊な事態であるからこそ、この事実が一層浮き彫りにされます。アフリカでの内戦は日本人にとっては遠い国の話かもしれませんが、象牙問題はそうではありません。いままさに大量殺戮にも繋がりかねないマルミミゾウに関してはとくにそうです。日本にはマルミミゾウの象牙への強い需要があるからです。

 かつては印章もそうでありましたし、三味線の撥は今でもハード材と呼ばれるマルミミゾウ由来の象牙が好まれています。われわれ日本人はそれを身近な問題として認識しなければなりません。日本には三味線の演奏者など、それを必要としている人がいるということをまず知る必要があります。

 「ゾウの密猟 中央アフリカ共和国の状況(1)」でご紹介したWWFの声明にも書いてある通り、現時点での国際違法象牙取引量が多いのは中国とタイですが、マルミミゾウの象牙に特化した需要を持つ国は世界で日本のみです。ワシントン条約でマルミミゾウの象牙取引は20年以上一切取引禁止ですが、管理制度の穴をくぐって違法象牙取引は不可能ではありません。象牙密輸の存在を認める象牙業者もいます。

ここ10年の激増した密猟や管理当局の汚職等による違法象牙取引のためにマルミミゾウは絶滅の危機にある上に、いま中央アフリカ共和国での内戦によりさらに絶滅への道は加速されています。しかし、その根源的な原因は象牙の需要にあることを、われわれすべては理解しなければいけません。

 無論、象牙利用の伝統文化に一方的に反するものではありません。しかし、まずは皆さんがマルミミゾウに関する確かな情報を共有しなければなりません。そうでなければ、何も知らずに、地球上の財産である生態学的礎石種マルミミゾウが絶滅して行くのをただ眺めていくだけという事態にもなりかねません。

 アフリカ現地での汚職を排し、国際協力のもと関連諸国が管理制度を厳格に整備するまでの間、或いは象牙に代替し得る素材の開発を進めるまでの間、現在の象牙利用、とくに生存危機にあるマルミミゾウ由来の象牙利用の継続性について、日本人は真剣に検討しなければなりません。事態は危急です。

 当面の現地での対処ですが、まずはわれわれ(現地管轄サポートのWWFやザンガ・バイの研究主管であるWCS、世界遺産統括のUNESCOなど)が中央アフリカ共和国新政府とのハイレベル協議を経て、密猟を阻止し、事態の鎮静化に向けて努力する次第です。

 その後、まず取り組むべきことは、ザンガ・バイを中心に、世界遺産地域の中の中央アフリカ共和国側の地域全体への野生生物保全を確保するための、パトロール隊の再整備が必要です。それには、新たな部隊採用や新規の装備購入等も含まれます。

 さらに、兵隊により略奪され破壊されたWWFの国立公園管理基地やWCSのザンガ・バイ研究基地の再構築が不可欠です。建造物の再建だけでなく、車両や発電機、通信設備、パソコン等業務機器、野外活動用装備(双眼鏡、カメラ、テント等)などの再導入が必須です。

 安全確保が何よりも第一ですが、昨年後半まで継続していた通常通りの研究、ツーリズムなどを復活させるには、多くの時間と資金が必要となります。マルミミゾウを絶滅から救い、世界遺産を継続していくには、多くの方からの支援と協力が不可欠です。

 5月31日現在、WCSを中心としたチームが現場にて、暫定政府軍と協力する形で、ザンガ・バイでのマルミミゾウの密猟防止と、世界遺産地域の保護の確保に努めております。またWCSとの連携で、ガボン政府が中央アフリカ共和国政府への保全活動への協力を申し出ております。残念ながら、他の組織や国はまったく名乗りを上げていない状況です。

 しかしながら、現地の状況はいまだ不安定であり、次なるマルミミゾウの殺害など世界遺産地域への脅威はぬぐえません。アフリカにおける開発をベースにした発展は不可欠ではありますが、まずは政情の安定こそが第一義であると考えます。平和な状況なしには、投資も開発も実現し得ないからです。

 現代は、いかなる事業も、地球規模での生物多様性保全を前提とした形でなければなりません。人間による自然資源の利用を先行させるのではなく、グローバルな保全の文脈の中で、確たる持続可能性を配慮した上での事業が必要不可欠の条件です。

 内戦による政情不安定性、内戦によってさらにあおられている密猟とマルミミゾウの喪失による熱帯林生態系への負の影響、いずれも、こうした主旨に反するものであります。繰り返しですが、マルミミゾウの密猟の根本要因は、その象牙への重要です。

 奇しくも、いま日本を中心としたTICADが開催されております。アフリカ地域での開発事業の発展を目指す中で、政情安定化と生物多様性保全にまずは目を向け、日本政府が舵取りをし、それに向けた投資を優先する形で議論が進むことを願う次第です。

 ザンガ・バイとマルミミゾウへの生存に、あたたかいご支援、お鑑みしていただければと存じます。

西原智昭
自然環境保全技術顧問
WCSコンゴ共和国プロジェクト
         2013年5月31日、コンゴ共和国にて

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