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2013年4月29日 (月)

ワシントン条約締約国会議 CITES CoP16 報告③

魚類: 魚類ではヨゴレ、シュモクザメ3種、ニシネズミザメを附属書Ⅱに掲載しようとするサメに関する提案42と43、ノコギリエイを附属書ⅡからⅠに移行させる提案44、オニイトマキエイ(マンタ)を附属書Ⅱに掲載する提案46、およびポタモトリゴン科のエイに関する同様の提案47と48が審議された。その結果、ポタモトリゴン科の2提案を除く他の5提案はいずれも2/3以上を得て可決された。サメに関しては前回のCOP15会議でも同様な提案が審議されており、そのときには賛成が半数を超えたものの2/3の壁は越えられず、否決されている。これらの提案は今回の会議で多くのNGOが最も重視していた提案である。可決の瞬間には会場内に大きなどよめきと歓声があがり、その夜のNGOブースは祝勝会の雰囲気であった。
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 これら提案に関する大きな論点は、前回と同様に、対象種が本当に減少しているのかどうかという判断、すなわち「種の存続を脅かさないことの確認(Non- detrimental findings)」である。各団体はそれぞれに都合の良い情報に基づいて発言するので、聞き比べただけでは正直なところ、どちらが正しいか判断できない。科学的なデータの不足は多くの国や団体が指摘していた。附属書掲載に反対する代表的な意見は、商業利用されている海生生物の利用規制はCITESの枠組みで実施するのは困難であり、資源管理として漁業協定などの仕組みを通じて行うべきというものである。例えば通常のCITES取引規制の実務を行うのは貨物を扱う税関であり、実施場所は貿易港や国際空港である。しかし海生種についてみると、水揚げが行われるのは貿易港ではなく漁港であるし、公海で収穫された漁獲については輸出国も存在しない。魚種の識別や混獲など、現場で解決せねばならない問題もある。海産種に対する規制をどのように実施すればよいかについては、CITESにおいて「海からの持ち込み(Introduction from the sea)」としてこれまでから議論されてきたが、具体的な実施体制が決められたわけではない。今回も「有効な監視体制を確立しないままで附属書Ⅱに掲載すれば、獲らなければよいという選択肢しかなくなり、附属書Iに掲載したのと同じ事になってしまう。世界の漁業に与える影響は大きい」といった発言が聞かれた。
 これに対する典型的な反論は、「漁業資源管理の枠組みは数多くあるが、どれも決められたことが守られていないし、具体的な保護策がとられていない。だからCITESで規制するしかない」という意見である。すると「これまでの漁業資源管理にはたしかに問題があったが、管理方法は改善されている」といった反論が行われるのだが、議場では数字を示した説明が困難なため、原則論の応酬に終始しがちであった。漁業管理を推進する立場の国連食糧農業機関(FAO)は、サイドイベントで漁業資源管理体制の現状を紹介していたが、参加者は限られていた。
 今回の票差は僅差とはいえない数であり、投票前の議場の雰囲気もそうであった。この流れを変えるのは難しそうに思える。資源管理派の意見としては、細かな技術的な難しさが強調されすぎて、本当に数が減っているのかということへの言及が少なかったと感じた。また発言する国として日本ばかりが目立っていて、多くの国が連携しているという印象ではなかった。

 植物:
提案50~71は植物に関するもので、すべてが可決された。提案内容の多くは、附属書Ⅱへの掲載を求めるものであった。その理由を見ると、提案50はメキシコから各国に輸出される観葉植物ユッカに野生種が含まれている可能性があるため、提案51・64~68・71はマダガスカルの各種多肉植物に関するもので、野生種が減少傾向にあって、ポット苗などの輸出による減少が危惧されているとされた。提案58はマダガスカルのコクタンに関するものである。コクタンは銘木として高価であるが、乱伐が進んで大木が減少している。また材木を見て種名を同定することは困難なので、カキノキ属全体を附属書Ⅱに含めることを求めている。提案59~63のシタンやローズウッド、提案69の東アフリカのビャクダン科植物も銘木としての評価が高く、コクタンと同様な状況にあるためである。
 対象植物から作られた派生品の扱いに混乱が起きないよう、附属書Ⅱにおける注釈内容の明確化を求める提案もいくつかみられた。例えば提案53のチョウセンニンジンはすでに附属書Ⅱに掲載されている種であるが、注釈に「粉末、丸粒、抽出液、強壮剤、茶、菓子類などの製造された部分または派生物を除く」という具体的な説明を付加して、輸出入関係者に混乱が起きないことを狙っている。提案52は、南部アフリカのフーディア属や提案70の沈香も同様であり、加工品として除外される場合の記載をより明確化する提案である。
 他方、附属書Ⅱからの削除を求めた提案もある。その理由は、提案54~56におけるアナナス科植物の取引はすべて栽培種であるため、また提案57の米国産ベンケイソウ科植物の国際取引は皆無に近く、国内法でよく守られているとされた。
 
 ネット上への情報公開が進み、たいていの会議情報は参加せずとも得られるようになった。議場内でも必要書類はネットで見ることが多い。しかし会議全体の雰囲気や流れは、現場にいないとわからないと感じた。
 (安藤 元一 JWCS副会長)

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ワシントン条約締約国会議 CITES CoP16 報告②

●分類群別にみた採決の動き

哺乳類: NGOによるアピールが最も活発だったのはホッキョクグマである。ホッキョクグマを附属書Ⅱ掲載種から附属書Ⅰに引き上げるという提案3は、3年前の前回会議に引き続くものである。前回の議論ではホッキョクグマ減少の主因は気候変動による環境悪化であって、国際取引による影響は少ないという意見が多くてして否決された。このためかNGOによる今回のキャンペーンは狩猟圧も強いことをアピールする傾向にあったが、可決には至らなかった。アフリカマナティーを附属書Ⅰに引き上げるという提案13は可決された。アフリカゾウやサイについては毎回議論が紛糾するところである。アフリカゾウへの密猟圧は近年、特に高まっており、会議のサイドイベントにおいてもこの事実が報告された。しかし今回は両種に関する提案11と12は提案国によって撤回された。
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 提案1のイタリアンシャモア(野生ヤギ)と提案2のエクアドル産のビクー
ニャについては附属書ⅠからⅡにダウンリストすることが議論された。前者はイタリアおよびEUの法制度によって十分に守られているという理由で可決されたが、後者は保護不十分との理由で否決された。このほかの提案は、フクロオオカミなどの絶滅種や存在自体が疑問であった種を附属書から削除するといった、手続き的な提案であり、問題なく可決された。

鳥類: 鳥類に関する9提案はいずれも附属書IからIIへの移行あるいは附属書
からの削除に関するものであった。ハイイロヤケイやベニキジについては、分布地域の国が反対していたり、羽毛目的の狩猟圧が存在するとの意見があったりして否決され、カスピアンセッケイやチベットセッケイについても同様に否決された。絶滅種を附属書から削除するという手続き的な提案は可決された。

爬虫類・両生類: 爬虫類に関して過去に例を見ない16もの提案がなされた。とりわけカメ類については40種以上もの多種について審議された。カメ類の国際取引はペット需要が大きな割合を占めている。日本は生きたリクガメの輸入頭数においては米国に次いで多いことから、今回の決定には大きな関心払うべきだろう。
 日本からもリュウキュウヤマガメを附属書Ⅱに掲載することが提案された(提案34)。このカメは沖縄諸島の一部地域に分布する固有種であり、国内では絶滅危惧Ⅱ類(VU)として扱われる。天然記念物に指定されているので捕獲や移動等が規制されており、商業目的での利用は既に原則認められていない。しかし海外で同種が販売されていることがIUCNやトラフィックなどの調査によって確認されているので、そのための国際取引が違法捕獲を誘発している可能性が高い。また本種は人工繁殖も可能であるので、合法繁殖個体のみが適切に国際取引されるようにするためには、本種の取引を監視体制下に置くことが必要というのが提案理由である。加えて、日本の提案では野生個体の商業取引の割当量をゼロとし、飼育繁殖個体についても日本からの商業輸出割当量をゼロとしている。また中国と米国の共同提案による提案32では淡水ハコガメの多くの種を附属書Ⅱに掲載することを求めており、この中には国内産のリュウキュウヤマガメ、ニホンイシガメ、セマルハコガメも含まれる。
 爬虫類については、附属書ⅠからⅡへのダウンリストを求めたアメリカワニ、イリエワニ、シャムワニについての3提案以外は、すべて附属書Ⅱへの新規掲載あるいは附属書Ⅰへの格上げを求める提案であった。採決においては、ダウンリスト提案がすべて否決され、格上げ提案がすべて可決されるという対照的な結果となった。提案23におけるコロンビアの一部地域のアメリカワニのダウンリストについては、賛成が反対を少し上回ったが、2/3には達せずに採択されなかった。イリエワニとシャムワニのダウンリスト(タイ産の野生個体の商業取引割当量をゼロとする条件付き)は開催国であるタイからの提案である。同国政府は「養殖事業はうまく管理されているし、野生への再導入をはじめるなど保護努力も十分に行っている」とアピールしていたが、同様に2/3には達しなかった。開催国としてロビーイングをしたうえでこの結果であったので、同国政府関係者は、次回以降の会議でこの流れを変えるのはむずかしそうとの印象を持ったようだ。
 両生類に関する3提案のうち、一つは附属書への追加、二つは絶滅種をリストから削除するものであり、いずれも可決された。
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 (安藤元一 JWCS副会長)

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ワシントン条約締約国会議 CITES CoP16 報告①

●ゾウ保護を述べたタイ首相のスピーチ

今年40周年を迎えるワシントン条約の第16回締約国会議(CITES CoP16)が、178カ国約2,000名が参加して、3月3~14日にバンコクで開催された。議長国であるタイのインラック首相は冒頭スピーチにおいて、「同国は今後、象牙取引を終了させるという目標に向かって国内法を修正するよう努力し、自国のゾウだけでなくアフリカゾウの保護にも貢献する」と述べた。自国にゾウが生息するタイでは、これまで自国産象牙の国内取引は認められてきた。同国内には正規の象牙販売店が67あるが、実際には250以上の店で象牙が売られているという。自国産象牙と密輸入象牙との区別は難しいので、タイは密輸象牙の中継基地になっていると非難されてきた。首相スピーチは即時禁止といった表現ではなかったようだが、こうした非難への対応といえる。

審議の動向

附属書に関する提案数をみると、前回までの10年は一貫して減少傾向にあったが、今回は久しぶりに提案が増えた(表1)。とりわけ爬虫類に関する提案が増えたのが注目される。しかし爬虫類や植物はメディアに注目されにくい対象である。前回のCoP15では大西洋クロマグロに関する提案があって、「マグロが食べられなくなる」とセンセーショナルな取り上げられ方をしたため、各局のニュース解説などでかなりの報道量になったが、今回のCoP16に関する日本国内の報道はきわめて低調であった。

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 CITES附属書Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに掲載されている種数を見ると、絶対数で最も多いのは植物であり、無脊椎動物、鳥類、爬虫類、哺乳類と続く(表2)。しかし各分類群は自然界に存在する種数自体が大きく異なっている。そこで附属書に掲載された種数が世界における各分類群の全種数に占めるおよその割合をみると、哺乳類、鳥類、爬虫類、植物では12~18 %であり、およそ1割以上の種が附属書に掲載されている。これに対し、両生類におけるその割合は3 %、魚類では0.5 %に過ぎず、無脊椎動物では0.2 %以下である。近年のCITESにおける割合議論が哺乳類や鳥類にとどまらず、両生・爬虫類や魚類に広がりを見せているのは、今まで手薄だった分野に着目しようという動きの反映ともいえよう。

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 提案のタイプについてみると、特定種を附属書に掲載することを新規に求めるだけでなく、地域を限定したり、注釈の解釈を明確にさせて取引関係者に混乱が起きないように求める提案が増えたように感じた。附属書のランクを下げたり、附属書から削除するダウンリストは2/3以上の賛成を得ることが難しく、いったん上げたランクを下げるのは難しいとされてきた。しかし今回はいくつかのダウンリスト提案が認められ、保護重視の立場をとることの多いSSN(Species Survival Network)などのNGOも一部について賛成していた。主要な動植物があらかた附属書に掲載された現在、CITESの今後の方向性としては第二委員会で審議されるような、現場における実効性をどのように確保するのか、関連機関や関連条約とどのように連携して行くのか、人材をどのように養成するのかといった運用面の重要性が増してゆくだろう。
  (安藤元一 JWCS副会長)

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