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2012年6月11日 (月)

生物多様性国家戦略小委員会の傍聴記

中央環境審議会 自然環境・野生生物合同部会
生物多様性国家戦略小委員会の傍聴記

 2012年3月16日の第一回の小委員会から、隔週ペースで委員会が開かれています。6月末に最後の小委員会が開かれ、パブリックコメントを募集した後、閣議決定をして生物多様性条約COP11を迎えるスケジュールになっています。

 第一回、第二回は関係省庁、地方公共団体、民間団体、事業者のヒアリング、第三回から国家戦略の文章が検討されています。読んだだけでは何を意図しているのか分からない国家戦略も、その作成段階を傍聴すると、進展や課題が見えてきます。

●国家戦略は役に立つのか?
 委員の中から「(国家戦略は)誰に向けて書かれたものなのか」との発言がありました。あまり知られていない生物名が挙げられていたり、一般の人が読むとは思えない分量だったりするからです。この点については、普及用のパンフレットを工夫しようということになりました。
 そもそも国家戦略は「閣議決定する政策」なので、ここに書かれたものは「閣議決定されたのだから進めるべきだ」と言う根拠になります。逆に言えば書かれていないことは、やらなくてもよくなってしまいます。

●なにごとも人とカネ
 国家戦略に書かれていることが実現できたらすばらしいと思いますが、本当に進むのだろうかとも思います。国家戦略は平成7年にはじめて作られ、今回のものは5番目に当たるからです。
 委員の中からも人と予算、例えば文化財保護には各自治体に専門の担当が置かれているように、生物多様性専門の担当者を置かないと、事業が進まないとの意見がありました。

●縦割り
 絶滅のおそれのある生物のリスト「レッドリスト」日本版には海洋生物がありません。
(参照:http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html )
それは環境省が種の保存法の国会提出したとき、水産資源保護法の対象種は種の保存法の対象外になるという「覚書」が農水省と環境省の間で取り交わされたからです。この「覚書」については委員が質問しました。
 各省庁へのヒアリングでは、それぞれに生物多様性保全に関係する事業を報告していました。その内容は国家戦略の達成のために全省庁が力を合わせて…とは程遠い印象です。

●対応の遅れ
 各省庁からのヒアリングで「対応はしている」と回答はあっても、規模的にどうなのか疑問に思うことも。例えば文部科学省の生物多様性を教えるための先生の研修が行われていると報告がありましたが、教育現場に浸透するまでには時間がかかりそうです。

 また、科学的知見が蓄積されてきたことを「いまだ明らかでない」として対策を取ろうとしていないことも委員から指摘がありました。
 例えば、化学物質の生態系への影響については、育苗農薬にネオニコチノイド使用するとアカトンボへ影響があること、斑点米対策にはカメムシがつく外来牧草の除去が有効なのに農薬が使われていること、また深海のデリケートな生態系が明らかになってきて対策が急がれることなどの発言がありました。

●認識
 このような日本の行政に共通する問題点のほかに、生物多様性ならではの問題もあります。
 その点で日本生態学会外来種検討作業部会からの提言(2012年4月23日付)は重要です。
――生物多様性の内容がわかりにくいため、外来種が増加すると種が増加して生物多様性が増すという誤解も生じている。
 生物多様性の保全とは、『日本中のありとあらゆる地域で、その地域の歴史的に形成された生物相や生態系を守ることである』と明確にすること
。(抜粋)――

 この「進化の結果としての生物多様性」を保全すべきというのは、JWCSの20年来の主張でもあります。リオの地球サミットで生物多様性条約が締結された当時よりは理解は広がっているという感触はありますが、行政の中ですらまだ配慮が足りないことが、委員から指摘されていました。

 例えば自治体や学校の植樹として、原生的な自然が残る場所にも外来種が植えられているという委員の指摘に対し、農水省からの回答は「要注意外来生物を公表している」とのことでした。しかし生物多様性が保全された未来の国土の姿を考えれば、少なくとも行政はもっと配慮をすべきでしょう。

 また生物多様性の教育が、情緒的で科学的ではないという意見がありました。「被災地に花を送ろう」など善意に水を差しにくい例があげられていました。

●新しい視点
 都市の生物多様性というと、すでに人工物でいっぱいの空間に箱庭をつくるイメージで、広大な森林の保全に比べて優先順位が低いように思っていました。ところが、世界の人口の多くは都市住民なので、都市に生物多様性を取り戻さないと、生物多様性の保全が主流になる社会にならないという意見を聞き、なるほどと思いました。2012年10月のCOP11でも都市の生物多様性に力を入れる動きがあるそうです。

 国家戦略から未来の社会を展望する発言もありました。人口が減少して7千万人になった未来の日本で、なりわいを守りながら原生的な自然が戻っている姿。また「自然はタダ」ではなく、「自然を壊さないための費用」が人間にとっての便益を生むという考えに基づく社会。

 多くの人が「いいね!」と思う未来の姿から逆算して、今の日本に必要なことを盛り込み、政策に入っているか、実行されているか、多くの人が常に指摘して初めて役に立つのが国家戦略です。

 回数を重ねて低調になっているパブリックコメントを、今回こそ提出してみませんか。インターネットでできる生物多様性保全です。パブリックコメントは夏に予定されています。

会議資料がアップされています→
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/initiatives/index.html

(鈴木希理恵 JWCS理事)

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