合法木材と生物多様性
合法木材の利用促進を目指した貿易と国際的な最新動向
2012年3月23日(金)10:00-12:30
場所:東京・広尾 駐日欧州連合代表部
共催:EU代表部・日欧産業協力センター
●目的は合法木材の価格維持。プレミアムではない。
EUは違法伐採対策と合法木材の貿易促進を目指した「木材規制」を2010年に新たに定めました。2013年3月から、違法に伐採さ入れた木材や、その製品はEU市場で流通できなくなります。
米国には違法に捕獲した野生動物の売買を禁じるレイシー法が1900年に成立しています。そして2008年の改定で木材製品も対象になりました。この法律により米国の国内法だけでなく、原産国の法律に違反した製品の米国内での所持・販売も取り締まりの対象になります。そして輸入業者が書類をそろえて合法であることを証明しなければなりません。
(参考:レイシー法 http://www.aphis.usda.gov/plant_health/lacey_act/index.shtml )
オーストラリアも2011年に違法木材の取引を禁止する法律が成立しました。意図的な違法木材の売買には禁固刑や罰金、そのほかに規制のリストを業界やNGOなどと協議しているところだそうです。法律は世界の主要な木材市場の一つであるオーストラリアが、ダンピングの国にならないようにと立法されたそうです。
これら各国の状況が駐日米国大使館ケンドリック・リュウ氏、駐日オーストラリア大使館サリー・スタンデン氏、EU代表部通商部ヘイス・ベレンツ氏、フォレスト・トレンド カースティン・キャンバー氏から報告されました。
一方日本はというと、グリーン購入法で政府調達の木材・木材製品に合法性・持続可能性を求めているのみです。そして「証明にはコストがかかる、FSC認証の紙だからといって高い値段で買ってもられるわけではない。もっと消費者に理解してもらいたい」との発言が日本製紙連合会の上河潔氏からありました。
日本がプレミアムを期待しているのに対し、欧米豪は木材価格を引き下げている違法木材を市場から締め出すことを目的に規制をしています。とくに中国がアフリカ諸国などから違法木材を安く輸入し、加工した製品を輸出していることを念頭に置いてのようでした。
●日本は性善説。「自主的な取り組み」で違法木材の市場締め出しができるのか
日本では合法性や持続可能性を証明する手段として「1,森林認証、2,業界団体の自主的行動規範 3,個別企業による自主的な証明」を挙げ、規制は最終手段で自主的取り組みでいくことを強調していました。
これらの合法性の証明も、輸出国側が合法であるとすれば良いので、米国のように事業者自身が合法であることを証明しなければならないことと比べて緩いと言えます。
「日本は自然と共生する文化がある」、また「自主的な取り組みが守られている」と性善説に立っているように見えました。そして欧米豪の「規制によって、価格を下げている違法木材を市場から締め出す」との違いが浮き彫りになりました。そこに規制を嫌がる国内事情を優先している日本の姿を感じました。
●「持続可能」から「合法」へ。森林管理の中身が問われる
1990年代から持続可能な森林施業に対する認証制度(FSCやPEFCなど)が始まりました。しかし持続可能性を証明するのは難しいという理由で2000年代は「合法」で国々が足並みをそろえるようになってきました。そうすると持続可能で生物多様性を損なわない森林の管理が法律で定められているかどうかが重要になります。
野生動物の絶滅は生息地の喪失と狩猟・捕獲が大きな要因です。例えばアジアの熱帯雨林に生息するスローロリスでは、伐採によって生息地が失われるだけでなく、伐採されると夜行性で見つけにくい動物も捕獲しやすくなってしまいます。
(参考:スローロリスとFSC 30秒動画
http://www.youtube.com/watch?v=QE4hB7kxsrM&feature=share )
その森に生息する野生生物が法律で守られているかどうか。合法木材のチェックポイントです。
●合法木材から考えるグリーン経済
EUの木材自給率は90%、日本は26%。
安い違法木材とその製品が日本に輸入されなくなれば、紙や木製品の値段が上がって消費者にはマイナスです。でも安易な紙の使用や木製品を使い捨てをするライフスタイルを改める強い動機になります。木材自給率のアップ、丁寧に作られた長持ちする木製品、修理して使う、アンティークやリサイクル業など、国内の産業にプラスの要素も考えられます。
木材製品が高価になると、プラスチックなどほかの資材に流れて、木が売れなくなるという日本の懸念もセミナーで示されました。これは環境への負荷に応じた廃棄費用を製品に課す、それができないのならせめて有料ゴミの回収価格に環境負荷を反映するなど別の政策との連携が必要になると思います。
違法木材の市場締め出しには、合法木材の価格維持にとどまらず、グリーン経済へ転換するきっかけの一つになるのではと思いました。
(鈴木希理恵 JWCS理事)
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コメント
鈴木希理恵 JWCS理事
いつも世話になります。先日の駐日EU代表部でのシンポジウムにおける私の発言を紹介いただきありがとうございます。ただし、私の発言は、「NZの調査によると欧米ではFSCの認証を取得した製品は2割ぐらい付加価値が高くなっているが日本はどうですか」という質問に対する答えとして「欧米ではFSC製品は消費者に環境価値を認められて高く買っていただいているが、残念ながら日本で消費者がまず求めるのは安い価格である。証明にはコストがかかる。FSC認証の紙だからといって高い値段で買ってもらえるわけではない。もっと消費者に理解してもらいたい。」と申し上げたものです。製紙業界も、ビジネスですから、環境価値をお認めいただきプレミアムを付けて買っていただけるのであれば、それは大変に嬉しいのですが、製紙業界が森林認証を推進しているのは、単にプレミアムのためではなく、消費者に違法伐採材が含まれない環境にいい製品を提供することが主目的ですので、そのあたりについてのご理解を賜れば幸いです。
よろしくお願い致します。
日本製紙連合会
常務理事 上河潔
投稿: 上河 潔 | 2012年4月 2日 (月) 16時56分
日本製紙連合会
常務理事 上河潔 様
当会のオピニオンブログにご意見をいただき、誠にありがとうございます。
シンポジウムでのご発言の記載について、正確さを欠き大変失礼いたしました。
またご発言の趣旨をご説明いただきありがとうございます。
この政策セミナーのねらいは、違法木材を排除している企業がビジネスで不利にならないように、木材の合法性に全く関心のない企業も、世界規模で同じビジネスのスタートラインに立つ制度にしていくことと理解しました。
そこで生物多様性の損失が取り返しのつかなくなる転換点(Tipping point)が迫っているとされる中、企業の社会的責任や消費者の環境に価値を置く消費行動に期待するのは限界があり、環境に関心がなくても持続可能な利用になるしくみに変える段階ではないかというのが、言葉足らずでしたが上記のオピニオンの趣旨です。
価格重視の消費者に対し環境認証が拡大することは、他業種や他国へ成功事例としてお知らせしたい貴重なことと考えます。
貴会の森林認証推進について、今後とも情報発信していただけると幸いです。
NPO法人 野生生物保全論研究会
理事 鈴木希理恵
投稿: JWCS鈴木 | 2012年4月 5日 (木) 15時11分