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2012年2月15日 (水)

効果的な生物多様性国家戦略に変更なるか

●参加型で新しい国家戦略をつくる
 「生物多様性国家戦略」の変更が、環境大臣から中央環境審議会への諮問という形で始まりました。その2012年2月9日の中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会を傍聴しました。

 「生物多様性国家戦略」は1995年に初めて閣議決定され、その後「新・生物多様性国家戦略(2002)」「第三次生物多様性国家戦略(2007)」「生物多様性国家戦略2010(2010)」と改定されました。現行の戦略は2012年度までとなっており、生物多様性条約COP10の成果を受けた見直しです。

 3月から5月に生物多様性小委員会で検討し、6~7月にパブリックコメントを行って、10月にインドで開催される次回締約国会議・COP11の前に閣議決定する予定になっています。

 今回の国家戦略の変更は、参加型で行われます。それはCOP10で採択された2020年までに達成すべき目標
「愛知ターゲット」の中の目標17に、「2015年までに愛知ターゲットを実現するための国家戦略や行動計画を参加型で策定する」と書かれているからです。

●生物多様性の知識を学校教育で
 審議会では、生物多様性が学校教育に組み込まれていないことを指摘する意見が複数の委員からありました。「自然とのふれあい」では不十分で、知識を学校教育のカリキュラムに入れるべきだという意見です。
 これまでに環境省は文部省と交渉はしたが、不調に終わっているのだそうです。

 学校教育の中で野生生物の取り上げ方が不十分なことは、JWCSが主張し続けていることです。。
学校教育の中で、細胞や飼育動物・栽培植物はカリキュラムに入っていますが、野生生物はごくわずかしか出てきません。そのため、人間の管理で生きている飼育動物・栽培植物と、生態系のバランスの中で生きている野生生物の違いを知識として学ぶ機会がありません。

 その結果「絶滅しそうな動物は動物園で飼えばいい、エサを与えればいい」という意見が生まれます。しかし生態系のバランスの中で生きているからこそ野生生物なのであって、絶滅させないために人間が飼育繁殖するのは最後の手段なのです。

 また「クジラが有用魚種を食べるから、海を壊さないようにするためクジラをとるべきだ」という「クジラ害獣説」を水産庁が広報していましたが、生態学的に不適切と批判を浴びて広報をしなくなったと聞きます。畑で野生動物が栽培植物を食べてしまう場合と違い、海はクジラがいてもサンマは豊漁だったりするなど、単純ではありません。そしてクジラも死んで他の生物の餌となるなど、海の生態系の一員としての役割を果たしていることも考慮する必要があります。

 生物多様性の減少が取り返しのつかない状態になるまであとわずかといわれています。世界の国々が手を取り合って生物多様性の減少を止めようとしているときに、野生生物の基本的な知識がなくては、議論の輪に入っていくことすらできません。

<参考>
『野生生物保全教育入門』 http://www.schoolpress.co.jp/book/others/yasei.htm

●原因への切り込みとと地域に張り付く専門家
 審議会では、ネオニコチノイド系農薬の使用が昆虫を激減させ、鳥類の減少につながっているという発言がありました。

 農水省は独自に「農林水産省生物多様性戦略」を策定しています。その検討会(2011.12.27)を傍聴し、農水省、林野庁、水産庁で生物多様性保全への姿勢の違いを感じました。

 林野庁は森林の「公益的機能の維持増進」を掲げ、違法伐採によって安く輸入される木材の取り締まりに注目しています。
 そして農水省では環境保全型農業や里地里山整備を生物多様性保全事業にあげていますが、農業全体の影響からみればピンポイントに感じました。先ほどのネオニコチノイド系農薬の問題のように、負の影響に切り込むところまではいっていないようです。
 さらに水産庁は守りの姿勢が強く、海の生態系が危機的な状況にある(例 http://wildlife.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-d45b.html )現実から目をそらしているように思いました。ちなみに来年度改定される戦略にも「鯨類等の大型生物による有用水産資源の捕食の実態を把握し、その影響緩和の取組を推進する」の一文があります。

 国交省には「環境行動計画」があります。HPの「負の遺産の一掃と健全な国土にむけた取組」の中に「自然共生と生物多様性」が分類されているところは農水省に比べ積極性を感じます( http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/index.html )。

 各省庁の取組に対し、環境省が国家戦略改定のなかでどれだけリーダーシップを発揮して生物多様性減少の原因に切り込んでいけるのか、またどの省庁・自治体の所属であっても、地域に根を下ろして生物多様性のために調整ができる人材を配置できるのか。そこが効果的な国家戦略に転換するポイントだと思いました。

 (鈴木希理恵 JWCS理事)

 2012年2月9日(木) 中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会
  http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14743
 
 生物多様性国家戦略とは
  http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/initiatives/index.html
 
 農水省 生物多様性戦略検討会     
  http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/s_senryaku/seibutu_tayo/index.html

 国土交通省 環境行動計画の点検 平成23年3月 
  http://www.mlit.go.jp/common/000139748.pdf

 国家戦略2010の点検結果 
  http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=18646&hou_id=14479 
 
 国家戦略2010(案)に対してJWCSの意見
   http://www.jwcs.org/data/100107.pdf 

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