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2011年7月 5日 (火)

よみがえる自然、阻む「人間が作ったモノ」

フォーラム「東日本大震災による生態系や生物多様性への影響」の聴講メモ

2011年6月28日 日本学術会議講堂
主催 日本学術会議統合生物学委員会生態科学分科会、環境学委員会自然環境保全再生分科会
後援 日本生態学会


 大震災による生態系や生物多様性への影響はどれほどだったのだろうか。
 鷲谷いづみ氏(東京大学)はそもそも生態系にとっては大津波も「大きな攪乱」のひとつであり、人間活動のない場所には「災害」はないという。

 向井宏氏(京都大学)からは具体的には津波は直線化した河川を上流までのぼった例やダム決壊による死亡事故、堤防に依存した津波対策など人間がつくった「モノ」が生んだ災害と指摘があった。一方、津波で流失した海岸林も詳しく調査する漂流物を止めるなど減災効果が認められ、蛇行した川や海跡湖・塩性湿地が津波の減災になることが紹介された。
 塩性湿地の一つ宮城県の蒲生干潟は、自然再生推進法に基づく自然再生事業を県がすすめていたが、津波に覆われた。
中静透氏(東北大学)によると衛星写真で見ると、津波で海岸の砂が削られたが、6月には砂が戻ってきている。人による自然再生よりも「自然な」再生になるかもしれないという向井氏のコメントがあった。

 このような生態系の再生を阻むのは人間活動による影響である。鷲谷氏は津波で流失した有害物質や抗生剤の影響、化学肥料の流出や下水処理施設の損傷による富栄養化、裸地化した所への侵略的外来生物の侵入などの可能性を指摘した。

 そしてもっとも生態系への影響が心配されるのが放射性物質である。
 加藤真氏(京都大学)が紹介したチェルノブイリ原発事故の調査では、セシウムはキノコ、コケに蓄積し、ストロンチウムも生物に蓄積していることが報告されている。
 植物については、矢原徹一氏(九州大学)から広島・長崎の原爆の後では奇形の花が観察されたが数年で見られなくなり、遺伝子が傷ついた個体は子孫が残せず消えていったとみられることが紹介された。

 動物については、樋口広芳氏(東京大学)からチェルノブイリでの詳細な研究(Moller,A.P. Mousseau,T.A Milinevsky,G.)の紹介があった。それによると事故後、鳥と哺乳類が顕著に減少したという。ツバメを取り上げて生理を調べると抗酸化、免疫、ホルモンへの影響があった。そして、のどの赤い羽根が白くなる個体、繁殖しない個体の割合が有意に多く、また一回の産卵の数、雛の数、孵化率は対象地域と有意に低かった。
 かすみ網を使った鳥の調査では 脳容積の減少、土壌の無脊椎動物を食べる鳥や赤っぽい羽(カロテノイドを必要とする)を持つ鳥の減少、生息密度は同じでも個体の入れ替わりが激しいことが明らかになった。

 地震や津波は自然災害だが、「害」になるのは人間活動にかかわる部分である。復興にともなう土地利用、防災計画、原子力政策もまた、生態系と生物多様性の将来に大きくかかわってくる。        (JWCS 鈴木希理恵)

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