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2010年1月14日 (木)

一回限りの象牙取引とその後のゾウの密猟・象牙密輸の激化

●2009年日本への象牙輸入

  2009年4月17日、日本にワシントン条約に基づく許可を得た象牙が輸入され、外務省、経済産業省、税関、象牙の輸入業者の立会いのもと審査が行われた。乱獲によるゾウの激減のため、象牙の国際的な商業取引は1989年に禁止された。その例外的な取引として、南アフリカ・ボツワナ・ナミビア・ジンバブエから、日本と中国への「一回限りの在庫象牙取引」が認められたのだった。そしてこの4カ国は9年間、象牙取引を提案できなくなった。しかし、新たにタンザニア、ザンビアが自国の象牙を取引する提案を2010年の締約国会議(CoP15)に提出している。

 この取引の経緯について条約事務局は、2009年7月に開かれたワシントン条約の常設委員会に報告した。その公式の報告書では、4カ国あわせて105tあまりの象牙が取引され、その入札価格は約14億8300万円 (15,469,391ドル 2008年11/30-12/6公示レート95.87円換算)だった。そして中国へ135箱、日本へは64箱が輸出された。

 一方、輸出した4カ国は、その売上をおもにアフリカゾウの保護に使うと条約事務局に報告している。ボツワナはゾウの調査などに70%、ゾウと共存する地域への開発プロジェクトに30%を使ったとし、報告書でプロジェクトと金額を挙げている。ナミビアはゾウの調査と地域開発に50%ずつ、支出が決まったプロジェクト名だけを挙げている。南アフリカは2009年5月に使い道を決める会合を持つとしている。ジンバブエはゾウが生息する地域コミュニティーへの開発プロジェクトのほか、パトロール用の日本車14台を購入し、一連の業務で象牙の売り上げ以上の支出になったとアピールしている。

 この「一回限りの在庫象牙販売」の許可をめぐっては各国のNGOから、象牙市場が刺激されて密猟や違法取引が増える危険が指摘されていた。

 条約事務局は「密猟の増加は、一回限りの在庫象牙取引とは無関係」としている。

本当にそうなのか、各国の報道記事とNGOの発表をみてみよう。

●アフリカで急増する密猟

 2009年2月14日、ケニア南部のアンボセリ地域の象牙の密猟について、同地域で長年アフリカゾウの調査・保護を行っているシンシア・モス博士が報告書を発表した。それによると過去4カ月の間に密猟が増加し、ほとんどの象牙は国境を越えてタンザニアに運ばれているという。

 このレポートを受けて、5月3日付 Global Post Tristan紙は、「ケニアでゾウの密猟が新たに激増 中国人労働者の流入とアジアでの需要により」と報じている。ケニア野生生物公社によると、2008年に98頭が密猟され、前年の2倍。またアンボセリ国立公園での密猟はここ10年間で初めてだという。またツァボ国立公園でも6週間に5頭のゾウが密猟され、ツァボ国立公園次長のJonathan Kirui氏の「一回限りの在庫象牙取引以来、密猟が増加した」とのコメントを掲載している。また、ケニア野生生物公社は中国のインフラ投資と、鉱山開発権の取得により中国人労働者が大量にケニアに流入していることに関連し、中国人が象牙とブッシュミートの買い付けをしている情報を得たと話す。

 また2009年5月8日付 Wildlife Extra HPでも「空前の象牙押収 ケニア」と報道している。それによるとケニア北部の東サンブルで行われた密猟一掃作戦で、29の象牙と3丁のライフル銃を押収。3人が逮捕、8人が逃亡した。Namunyak Wildlife Conservation TrustのTitus Letaapo氏は、「昨年12月以来、この地域でのゾウの密猟は増加している」とコメントしている。

 最近タンザニア国境付近で500kgの象牙を押収され、ウガンダから密輸された象牙1tがタイで押収された。IFAW東アフリカ事務所長James Isiche氏は、「一回限りの在庫象牙取引」との関連を指摘している。

 ケニアだけでなく、中央アフリカ諸国からも密猟が報道されている。2009年4月26日付ロイター通信では、週2回発行の地域紙・The Postの報告によると、狩猟監視員がカメルーンのブンバーンゴコ区域で密猟者から差し押さえた象牙の量は、2008年に60本、2009年では20本にものぼっている」と報じている。

 そしてWWF(世界自然保護基金)のカメルーン局長を務めるMartin Tchamba氏は、「マルミミゾウは過去40年間で75%減少した。木材会社や炭鉱会社が最後の生息地である原生林へつながる道路を建設したことで象牙取引が助長されている。密猟者はAK47といったより高性能な急撃用ライフルを使用しているために、地域の公園の狩猟監視人が対抗するのは難しくなっている。武器は近隣の国々の監視が甘い国境沿いの地域や紛争状態の地域から簡単に流入してくる」と述べている。

 中央アフリカの森林に生息するマルミミゾウは牙が緻密で硬いため、象牙が高品質印材として高値で取引される。

●アジアで大規模な密輸発覚

3月にフィリピンとベトナムでタンザニア産の象牙の密輸が相次いで発覚した。2009年5月20日付 Africa Science Newsによると、フィリピンで押収された象牙は100万ドル以上(ロイターでは200万ドルと報道している=約1.8億円)、ベトナムでは約264億円(2,941万ドル)相当と大規模で、タンザニア警察は国立公園内で増加している密猟との関連から、国際的な密輸組織を疑っているという。

 フィリピンやベトナムには大規模な象牙市場がないので、中国に向かう船だったのではないかというのが関係者の見方だ。

 そして7月にも、タンザニアでビジネスマン6人が過去6カ月に渡りフィリピンやベトナムへ11tの象牙、5千500万円(600,000ドル)相当を密輸した罪で起訴された。またベトナム北部のハイフォン港にケニアから200kgの象牙の密輸が摘発されている。

●国際犯罪組織とゾウの絶滅

 2009年3月に発覚したタンザニアからベトナムへの密輸事件に関連し、TRAFFICは「インド洋を渡って密輸ができる、東アフリカの反対側に拠点を置いた、取引に慣れている中間商人がいることの証拠になった」とIndependent紙にコメントしている。

 一方、密輸象牙のDNA調査からも犯罪組織の姿が明らかになってきた。台湾、香港、ベトナム、フィリピン、日本の港湾で押収された数千もの密輸象牙のDNAを、ワシントン大学保全生物学センターSam Wasser氏らが調査した。その研究で、ほとんどの密猟は少数の大規模組織、つまり一つか二つの犯罪組織が、特定の地域のゾウを密猟していることがわかった。現在の密猟の中心はタンザニアで、最近ザンビアやマラウィの一部も標的にされていることがわかった。

 極東の経済成長が象牙の需要を増やし、2004年に1kgあたり約1万8千円(200ドル)だった象牙が、約54万円(6000ドル)にも跳ね上がった。そのためアフリカに生息するゾウ全体の8~10%が毎年密猟されると研究者らは試算している。それは1989年に象牙の国際取引が全面禁止になる以前の水準だという。Wasser氏は、アフリカゾウは2020年に絶滅に直面すると警告している。

●一回限りの象牙取引の影響は

 環境調査機関(EIA)事務局長のMary Rice氏は、2009年4月15日付 Independent 紙に「『一回限りの』合法的競売は密輸を阻止する手立てになっていない」と題して以下の文章を発表している。

「象牙の大量押収が増加していることから見ても分かるように、多国にわたる犯罪組織の関与により、象牙取引は高度に組織化された国際犯罪へと発展している。こうした組織は、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエが2度目の競売を行い、貯蔵していた110トンを超える象牙を中国と日本に『一度限りで』合法的に売却するということで信用を受けている象牙の、大々的に報じられている需要を利用している。

このような『合法的』象牙が市場に出回ることで需要が満たされ、象牙の価格が下落し、違法取引での収益は下がるものと見込まれていた。興味深い見解である。」

 日本では象牙の印鑑が店頭に並んでいても、消費者は合法輸入されたものだと思い、話題にも上らない。しかし世界では、急増するアフリカでのゾウの密猟、アジアへの密輸、国際的犯罪組織、そして2020年に直面するかもしれないアフリカゾウの絶滅に警告の声が上がっている。

<参考>

●2009年の一回限りの象牙取引

第 58 回常設委員会文書 36.3(Rev.1) 南部アフリカ諸国における一回限りの象牙輸出に関する報告(和訳)

●密猟

・「アンボセリ地域のゾウの密猟と象牙取引」Elephant Trust  HP (英文)

・「森林に生息するゾウ 絶滅の危機」ロイター通信2009年4月26日

・「合法的な象牙取引に後押しされ、ケニアの巨大なツァボ国立公園全域で密猟が急増」 インディペンデント 2009年2月25日(水)

・「ケニアでゾウの密猟が新たに激増 中国人労働者の流入とアジアでの需要により」5月3日Global Post Tristan

●密輸

・「タンザニア警察が象牙密輸調査を開始」2009年5月20日 Africa Science News

・「ベトナムで200kgの違法の象牙を発見」2009年7月29日Agence France Presse(AFP)

●国際的犯罪組織とゾウの絶滅

・「ゾウのDNA地図 象牙密猟者の足取りを暴く」2009年6月28日The Gardian

・「ゾウ、2020年には絶滅に直面するおそれ」IPPメディア(タンザニア初のメディア)ガーディアン記者 2008年9月3日

・「密猟者が略奪した象牙200万ポンド分を押収」2009年4月15日 The Independent

●一回限りの象牙取引の影響は

『一回限りの』合法的競売は密輸を阻止する手立てになっていない―Mary Rice

2009年4月15日 The Independent

これらのニュースの翻訳は、翻訳ボランティアの方々が担当しています。この場を借りて御礼申し上げます。

(JWCS 鈴木希理恵)

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