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2007年10月 3日 (水)

トキの野生復帰  羽山 伸一

 1981年、新潟県佐渡に生き残った5羽のトキがロケット・ネットで捕獲され、日本の野生個体群は絶滅した。しかし、飼育下繁殖の試みは失敗し、1995年に飼育下個体群も絶滅する。

 その後、中国の個体を佐渡トキ保護センターに導入し、1999年にようやく飼育下繁殖に成功した。そして来年、27年ぶりに日本の空をトキが舞うことになりそうだ。

 絶滅した地域に新たな野生個体群を創設する試みは、再導入と呼ばれる。わが国における大型野生動物の再導入は、2005年に放鳥されたコウノトリが最初で、トキは二つめの経験となる。一方、再導入は欧米を中心に30年以上前から試みられており、その多くの経験にわれわれは学ぶべきであると思われる。

 この観点から、ここではトキの再導入に関わる問題点を2つ挙げておこう。1つは、飼育下個体群のあり方である。今年、ついに佐渡トキ保護センターで飼育されている個体数が100羽を越えた。一方で数が増えるにつれて遺伝的多様性は失われてきた。飼育下個体群の元になる個体をファウンダーと呼ぶが、遺伝的多様性が失われる理由は、日本の個体群がわずか3羽(オス1、メス2)のファウンダーで創出されたからだ。つまり、すべての繁殖個体は、1羽の父親から遺伝子を継いでいるにすぎない。ようやく、今年、中国から2羽のあらたなファウンダーがやってくるが、この段階での放鳥は拙速の感が否めない。

 また、これら日本の飼育個体は、すべて佐渡の施設でのみ収容されている。感染症などのリスクを考えれば、一刻も早く他の施設への分散を行なうべきである。

 2つ目の問題は、マスタープランの欠如である。再導入事業は、生息地保全や地域産業との調和など、総合的な政策として実行される必要があるため、多くの先行事例では詳細なマスタープランや行動計画を策定している。しかし、トキの場合には多様な主体の活動をまとめあげる指針もない(少なくとも公開はされていない)。

 もちろん、再導入では、放鳥してみなければわからないことが多い。むしろ放鳥個体から人間が学びながら生息環境を復元する作業が再導入事業とも言える。しかし、放たれる動物の立場からすれば、もう少し準備してからでも遅くないのではないか。

(はやま しんいち/日本獣医生命科学大学准教授)
会報『JWCS通信』No.50 2007年Vol.2 掲載

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