生物多様性条約 CBD COP11

2012年10月29日 (月)

最後まで決まらなかった「資源動員戦略のレビュー」

最後に配られた文書はL.34の番号がふってある、「資源動員戦略のレビュー」(Review of implementation of the Strategy for Resource Mobilization, including the establishment of targets)という文章で、議題4の”Financial resources and financial mechanism”のなかの一つです。
 要するに愛知ターゲットを達成するためのお金をどうするか、というCOP11で注目されていた議題です。
この文書がどう変わってきたか、JWCSが研究テーマにしている「生物多様性に影響を及ぼす奨励措置(愛知ターゲット3)」の部分でみてみます。
 生物多様性を保全する政策を行うとき、国の予算を使う方法もありますが、補助金など奨励措置を改革して地方自治体の予算や民間の活動を生物多様性を保全する方向へ変えていくという方法もあります。生物多様性に有害な奨励措置(補助金を含む)を廃止して、生物多様性を保全する奨励措置に改革するというのが愛知ターゲット3です。そしてその直接お金を伴う目標を達成に向けて進めていこう、というのがこの文章です。
 
○19日午前中の段階で、条約事務局の会議資料のウェブサイトにアップされていた叩き台(Non-paper)では
8. [ [Decides][Agrees] to establish [at COP12] a target [regarding the number of initiatives for] [on] the removal, reform or phase-out of incentives, including subsidies harmful to biodiversity, [which could be used for the promotion of positive incentives that are][in a manner] consistent and in harmony with the Convention and other international obligations] [taking into account national social and economic conditions] on the removal, reform or phase out subsidies harmful to biodiversity, which could be used to promote positive incentives [at COP12].]
[8bis Decides to consider the development of a resource mobilization target for the Nagoya Protocol at COP12]
[  ]は検討中の言葉を表しています。
○19日作業グループ2に提出された会議文書(CRP.14)では
8. Decides in support of Aichi Target3,to establish at COP12 a target regarding the removal,reform or phase-out of incentives, including subsidies harmful to biodiversity,in a mannaer consistent and in harmony with the Convention and other relevent international obligations and taking into account the special needs and conditions of developing countries and the need to protect poor and affected population;
→「COP12で確立する」「生物多様性に有害な補助金(subsidies harmful to biodiversity)を含む奨励措置の改革または段階的な廃止」など具体的な言葉が入っていました。
○20日午前1時半ごろ配られた最終文書(L.34、日付は19日)では
8.Mindful of the potential of Aichi target 3 to mobilize resources for biodiversity, decides to consider at COP 12 modalities and milestones for full operationalization of this target, with a view to their adoption.
→具体的な言葉がなくなっています。ごく簡単にいうと「COP12でいつまでにどうやるかを検討する」。
愛知ターゲット3についての文が残り、「COP12で」と期限が明記されたことはターゲット3を進める上で力になりますが、COP12までの2年間に宿題をやっておかなくては…というほどの強さではなくなってしまいました。
生物多様性条約事務局のHPには、愛知ターゲットの達成期限である2020年までのカウントダウンが掲載されています。手元の会議文書と世界中の森や海や砂漠の生き物たちとの距離を思いました。
(鈴木希理恵 JWCS理事)

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2012年10月28日 (日)

午前3時の閉幕

 生物多様性条約COP11は10月19日(金)に終了予定が20日午前3時過ぎに終了しました。

Cop111020_001
19日は午後6時からの次回開催国の韓国によるレセプションで終了する予定でした。ところが前回の名古屋COP10と同じように、全体会議までに最終文書を用意できなかった議題があり、別室での交渉が続きました。
 レセプションは隣接するホテルの庭でありました。乾季に入ったデカン高原の町ハイデラバードの夕闇は心地よく、会議の成果が出た後だったらどんなに良かっただろうと思いました。
日本から参加していたNGO関係者は多くが19日の夜に出発する飛行機を予約していたので、会議の成り行きを気にしながら会議場を後にしていました。ところが午後9時半のホテルに帰る最終のシャトルバスの時間になっても、全体会議が再開する気配がありません。

Cop111020_002300

会議場は町はずれにあるので、この時間ではシャトルバスしか交通手段がなく、徹夜を覚悟して会議場で待っていました。会議場に残っている人は名古屋COP10の時と比べて格段に少数でした。
日付が変わって交渉がまとまり、文章ができあがり、国連公用語への翻訳があり、1時15分に印刷したての温かい最終文書が配布され、壇上や政府代表席に人が戻ってようやく全体会議が始まりました。

全体会議は午前3時に終了し、臨時のシャトルバスがホテルに着いたのは明けがた近くでした。この日はお昼も夜も十分に食事ができなかったので、日本から持っていったフリーズドライの雑炊を食べて2時間ほど眠ったのでした。心身の疲労がとれるまで1週間かかりました。

Cop111020_003300_2

何が最後まで決まらなかったのかは次回に。
(鈴木希理恵 JWCS理事)
 

◆CO11で何が決まったのか?政府代表団の報告
個別主要議題の概要(環境省HP)
https://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=20884&hou_id=15858

最後の写真はようやく始まった全体会議

Cop11plenary

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2012年10月16日 (火)

里山イニシアチブは注目されているけれど

インド・ハイデラバードでの生物多様性締約国会議COP11も9日目です。

議題の文書を検討する作業部会や本会議の合間に、国や団体が活動を報告する、サイドイベントがいくつも同時にあります。参加者はどこでも参加できます。

サイドイベントはたいてい参加者が20-30人程度で仲間内が多い感じです。でも11日の日本政府と国連大学が開催した里山イニシアチブに関するイベントは、会場が大入り満員で立ち見がでました。
Satoyama
名古屋でのCOP10で里山イニシアチブが提案されたとき、作業部会で締約国からは「それがどんなプロジェクトにつながるのかわからない」などの発言がありました。
それから2年たち、COP11での持続可能な発展の議題では、「里山イニシアチブは役に立つ」とアルゼンチン、ネパール、ガーナ、タイなどが発言していました。
 しかし人間がくらしながら生物多様性を保全する里山イニシアチブが成功するには、その地域の自然、人々のくらしをよくよく考えて計画を立てる必要があります。
サイドイベントでは、さまざまな生物多様性保全の成功事例が報告されます。
でもそれを国の政策や国際支援として、いわゆる「上から目線」で取り入れたら、それは里山イニシアチブのめざすものとは違うのではないでしょうか。
「どうすることが生物多様性を守ることになるのか」は常にどのプロジェクトにもかかわるテーマですが、そのものが注目されることはあまりありません。その地域の自然や人々のくらしをとことん知るところから「里山イニシアチブ」に取り組んでほしいと思いました。
写真は里山イニシアチブのサイドイベント
(JWCS理事 鈴木希理恵)

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2012年10月15日 (月)

国のポジションと自治体の活動と 7日目

4_016_800x600 会議が2週目に入り、自国のポジションを述べる段階から決議文の懸案部分の言葉をどれにするかを詰めていく段階になりました。その中でも資金動員など合意から遠い議題は非公式交渉が続いています。
今日の作業部会1は海洋・海岸に関する議題でした。発言がなく、どんどん議事が進むなかで、発言は日本、アルゼンチン、カナダ、中国がほとんどでした。日本からの発言は、生物多様性の保全には消極的に感じられました。
一方、サイドイベントは自治体の取り組みを報告するものに参加しました。
◆IUCNによるヨーロッパの都市の生物多様性保全の取り組みを紹介するサイドイベント(10月12日金)
地球の人口の多くは都市に住んでいるので、都市の人が生物多様性の保全を支持しなければ、政策は進みません。IUCNのサイドイベントでは、都市の生態系の価値の試算や日本の横浜市の「横浜みどり税」
( http://www.city.yokohama.lg.jp/zaisei/citytax/shizei/midorizei.html )が紹介されていました。
 ボンの緑地をつなげる「グリーンベルトプロジェクト」や企業と市民が協力して同じ種類の木にしてしまった植林地を、をたくさんの種類の木による森にする活動の話もありました。報告書がまもなくWebにアップされるそうです。
 →"Cities and Biodiversity Outlook Action and Policy"
◆都市と自治体の生物多様性サミット(15日月)
今参加しているサイドイベントは、自治体の取り組みの紹介です。
配布された資料には16の都市が紹介されていて、日本の名古屋もありました。名古屋は藤前干潟が市民の運動で守られた経緯が書かれています。
写真は別会場のオブジェ
(JWCS理事 鈴木希理恵)

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2012年10月13日 (土)

週末も非公式交渉は続く

土曜日の今日は公式の会議がなく、愛知ターゲット20の目標について20の報告をする、1日がかりのイベントが開かれています。その一方で資金調達など懸案事項の非公式交渉(コンタクトグループ)は続いています。

今日は会議場に行くスタッフと別れて、ホテルで大量の会議資料を読んでいました。ときどき数秒停電します。会議の中身は改めてご報告します。
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ところでハイデラバードの朝は早いです。5時20分ごろ、夜明けのアザーン(防災無線のようなスピーカーから大音量で礼拝を呼びかける)があるので、目が覚めます。日本時間は3時間半早いので朝9時ですから、起きてしまいます。
しばらくして夜が明けてきます。三日月と明けの明星が見えました(撮影日10月12日)。
平日は会議が終わるのが18時、サイドイベントに参加すると20時ですから、ホテルの窓から見る景色は夜ばっかりでした。
(JWCS理事 鈴木希理恵)

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2012年10月12日 (金)

最終文書が公開され始めました 5日目

議題によってはワーキンググループでの議論が終わり、最終文書が公表され始めました。
今現在、公開されている最終文書は バイオ燃料、世界植物保全戦略、世界分類学イニシアティブ、そして奨励措置です。
一方、資金メカニズム、REDD+、資金動員については今日も非公式の交渉がありました。
会議日程
今日は第一週の最終日なので午後から本会議があります。
Cop11obje_600x800 COP11会場のオブジェ。インドのアートはなんだかエネルギッシュです。母ざるは哲学的な表情。
(JWCS 理事 鈴木希理恵)

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2012年10月11日 (木)

名古屋COP10の成果を実感 3日目

 締約国会議の決定文書を話し合うワーキンググループや、国や団体が活動報告などをするサイドイベントに出席していると、「愛知ターゲット(2020年までの目標)」を必ず耳にします。
名古屋でのCOP10から2年、どの国もが「愛知ターゲット」に向けて動いていると感じまし
た。
Pa090004 そして名古屋COP10で、ワーキンググループの議論がまとまらず、何度もコンタクトグループ(交渉のための非公式の会議)が開かれ、そしてやっと決まった「愛知ターゲット」は、その努力に見合う大きな成果だったと改めて感じます。
 JWCSも10日に開催したCEPA(広報・教育・普及啓発)のイベントで、IUCN日本委員会の「にじゅうまるプロジェクト(http://bd20.jp/)」の一つとして、愛知ターゲット3についての研究を宣伝させてもらいました。
CO11 インド・ハイデラバード
 (JWCS理事 鈴木希理恵)

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2012年10月10日 (水)

愛知ターゲット3・補助金の取り組みは少ない!

まずは情報収集 会議2日目
 会場について、JWCSが作成した報告書英語版のURLを書いたチラシをIUCN日本委員会の展示の前やNGOのミーティングルームの前に置きました。JWCSが研究を始めた、愛知ターゲット3・生物多様性にに影響を及ぼす補助金について、海外の報告はないか情報収集を始めました。Ca3f0003_2
 9日火曜日は、IUCNによる愛知ターゲットキャンペーンについてのサイドイベントがありました。9月のIUCN世界自然保護会議において、愛知ターゲット20の目標のうち、どの目標に関するワークショップがいくつあったかのグラフが示されました。
 一番ワークショップが少なかったのが、ターゲット9の外来種、次がターゲット13の遺伝子の多様性、3番目がが目標3の補助金でした。世界的に見ても目標3は取り組みが少ないようです。
 でも、COP11の重要テーマ・愛知ターゲット実現にための資金確保のワーキンググループでは、各国家予算とともにODAの大きさについての発言がありました。「生物多様性を保全する補助金」もまた、大いに議論されるようになってほしいものです。
 IUCNのサイドイベントでは外来種問題に取り組むグループの活動が紹介されました。生物多様性に有害な外来種のランキング1位は飼い猫でした。身近なところから生物多様性保全に貢献できることがありそうです。
(JWCS理事 鈴木希理恵)
 

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2012年10月 8日 (月)

生物多様性条約COP11始まる

生物多様性国家戦略のパブリックコメントにJWCSも提出したのですが、残念ながら反映されていませんでした。

「愛知ターゲット3 生物多様性に有害な補助金」の取り組みはもっと積極的に書いて閣議決定してほしかったです。
JWCSでは今年度から愛知ターゲット3の研究に取り組み、予備的な研究でありますが第一次報告書をまとめました。英訳したものをHPに掲載しています。
   → 報告書 英語版
日本での状況を報告するとともに、他国の状況を情報収集し、今後の研究・提言に活かしていきたいと思っています。
今はドバイで乗り継ぎを待っています。なぜか空港建物内に小鳥がいます。会議は明日から出席します。
(JWCS理事 鈴木希理恵)Ca3f0001

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