2016年11月18日 (金)

会議報告⑫「地域社会のため」の落とし穴

●「地域社会のため」検証しているか

 ワシントン条約第17回締約国会議(CITES CoP17)に参加し、今回の会議のキーワードは「地域社会」だと思いました。
 「地域社会が野生生物を持続可能な範囲で利用する」ことは、生物多様性条約(CBD)をはじめ、国際的な共通認識になっています。
 そのため「地域社会」を持ち出されると反論をしにくい雰囲気があります。しかし、本当に利用しているのは地域社会なのか(儲けているのは都会の人や外国ではないか)、本当に持続可能なのか(きちんとモニタリングしているか、欲や権力がルールを曲げていないか)、地域社会の未来を考えた時に現在の利用の仕方を続けていくべきか、など「地域社会の利用」の中身を問う必要があります。
 例えば、ジンバブエの高等教育大臣が自分の選挙区のサッカー場建設に使われると知りながら60頭のゾウをトロフィーハンティング用に販売したと南アフリカの独立メディアIOLが報道していました(2016年10月13日 Zim minister probed over R2.9m from elephant sale)。
 聞こえのいい理念ではなく、汚職など多くの問題を抱える現状にどのように対処するか。世界の議論の中心はそこに移っています。

●象牙・サイ角の国際取引は地域社会のためだとする主張

 アフリカゾウが附属書Ⅱに掲載されているボツワナ、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエの個体群を国際取引するための条件が、附属書の注にあります。ナミビア政府の提案はその注を全部削除するというもので、ジンバブエ政府は部分的に削除するという提案をCoP17にしていました。
 この注に書かれた取引の規定のひとつとして
「取引の収益は、専ら、象の保護並びに象の生息域又は当該生息域に隣接する地域社会の保護及び開発計画に使用される」
 CoP17ではナミビア、ジンバブエ政府がそれぞれ提案の趣旨を説明する時に、議長の許可を得て、地域住民組織が「ゾウから利益を得られなければ、住民は守ろうと思わない」と訴えました。
 スワジランド政府代表は、自国のサイ角(犀角・サイの角)の取引再開の提案の趣旨説明の中で、貧しい人のために取引を再開したいと涙ながらに訴えていました。スワジランド政府の提案は、CITES管理機関のBig Game Parksがライセンスのある業者に漢方薬の材料として直接販売し、売り上げは寄付口座に入金するというものでした。提案は秘密投票で賛成26 棄権17 反対100で否決されました
 日本政府は象牙取引の「基本的な考え方」に「地域社会の発展」を挙げています。
「象牙取引においても、ゾウの存続に影響を与えない条件及び厳格な管理体制の下での国際的な商取引による利益は、ゾウの保全及びゾウと共存する地域の地域社会の発展のための財源となりそれらに貢献しうるものである。」
※この官民協議会は非公開で行われ、環境省、経産省、日本象牙美術工芸組合連合会が共同事務局となり、印章業界、ネット通販業界、トラフィックなどで構成されている。
 しかし「貢献しうるもの」が「本当に貢献しているのか」が問われています。また「ゾウの存続に影響を与えない条件」については、CoP17で「象牙取引再開のための意思決定メカニズム(DMM)」が否決されたように、国際的な合意が得られる状況ではありません。そして「厳格な管理体制」は国際情勢の現状や技術的に不可能という批判が各国から出されていました。
 
 1989年のCITES CoP7でアフリカゾウが附属書Ⅰになり、象牙の国際商取引が禁止された後、「一度限りの象牙取引」が、2回行われました。1999年に附属書Ⅱに格下げしたボツワナ、ナミビア、ジンバブエからの象牙を日本が輸入、そして2009年(入荷した年)に南アフリカ、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエからの象牙を日本と中国が輸入しました。
 2008年に象牙取引再開が決定したころから密猟が増え始め、象牙が武装組織の資金源となっていることが国連で問題になり、象牙取引に対する世界の目は厳しくなっています。

●一度限りの象牙取引の利益は何に使われたか

 2009年の第58回常設委員会に一度限りの象牙取引の収益とその使途が報告されています。どの国も収益は専用の基金の口座に入金していました。
 ボツワナ政府の報告が一番詳しく、基金を使用するプログラムと担当機関を明らかにしています。ナミビア政府は使用する項目の列記だけで、いつ、いくらくらい、誰が使うのかは明らかにしていません。南アフリカ共和国政府は基金の利用のガイドラインを決めた段階でした。ジンバブエ政府は日産とトヨタの車を計14台購入し、あとはCAMPFIRE (Communal Areas Management Program for Indigenous Resources、トロフィーハンティングなど野生動物による利益を地域住民に配分する事業) に充てていました
●地域社会のためにゾウの致死的利用を推進する国のゾウの生息数

 これらの国のゾウの状況はどうなっているのか、CITES CoP17に先立ち発表された「グレートエレファントセンサス」とIUCNアフリカゾウ専門家グループの報告書から見てみます。
 ボツワナ政府は、すべてのアフリカゾウを附属書Ⅰに格上げする提案の議論の中で象牙取引を禁止すると宣言し、致死的利用から観光へ方向転換をしました。国内に生息するゾウは131,626±12,508頭(約13万頭)で、今やアフリカゾウが最も生息する国になっています。そのほとんどが国の北部のザンビアやジンバブエとの国境に近いところに生息しています。密猟から逃げてきたゾウがボツワナに集まっているという研究者の指摘もあります。
 ナミビアに生息するゾウは推定22,754±4,305頭(約2万3千頭)。その約6割が生息しているのが、ボツワナやジンバブエに突き出したザンベジ地域です。ナミビア政府はグレートエレファントセンサスにデータ公開を拒んだため、そのデータによる10年間の生息数の変化は明らかになっていません。
 南アフリカ共和国に生息するゾウ推定18,841頭+推定8400頭(約1万9千頭)のうち、17,087頭がモザンビークとの国境に接したクルーガー国立公園に生息しています。東ケープ地方の個体群は少なく、例えばグレートフィッシュリバー州保護区(仮訳)とKnysna Forestはわずか2頭ずつです。国全体の10年間の生息数の推移は年2-5%の増加で、1995年からのデータでも一貫して増加傾向にあります。しかし、おもな生息地がモザンビークとの国境付近に集中しており、モザンビーク側では年5%以上生息数が減少しています。モザンビークでは2010年には2万頭以上いたゾウが2015年には約1万頭に激減しました。このように南アフリカ共和国のゾウにも不安材料があります。
 ジンバブエもゾウの生息地は国境付近です。生息数は82,630±8,589頭(約8万3千頭)です。そして約半数がボツワナと接するワンゲ国立公園に生息しています。ここの生息数は横ばいですが、ザンビアと接する地域は減少しています。モザンビークに近い地域では年5%以上増加しています。ジンバブエのゾウの生息数は、2005年ごろまでは増加傾向ですが、2010年以降は減少傾向にあります。2010年以降の減少はアフリカゾウ全体の傾向と同じです。
IUCNアフリカゾウ専門家グループ『African Elephant Status Report 2016』
Iucn2016


●アフリカ29か国は象牙取引禁止を望んでいる

 アフリカ29か国によるアフリカゾウ連盟は、「アフリカゾウが象牙の国際取引の脅威から自由になり、エコツーリズムを発展させ、非消費的利用による地域社会への利益」を目的に掲げています。
11月1日に『Nature Communications』 に公開された論文では、アフリカはゾウの密猟により年間約26億円の観光収入を失っていると見積もっています。
 アフリカゾウ連盟メンバーの何か国かの政府代表に「ゾウを保護するにあたり、何が一番問題ですか」と聞いてみました。どの国も密猟と即答しました。

 チャドは2005年ごろからゾウが激減しています。「10年前から象牙市場を閉鎖している。レンジャーは104人いる。モスクに祈りに来ている人も殺される(レンジャーへの報復か)」と政府代表が話していました。

 エチオピアの政府代表は、「国境を越えた象牙の違法取引の通り道になっている。スーダン、南スーダンとは協力しているが、エリトリア、ソマリアとの国境を越えての活動はできていない」と述べました。

 ゾウの生息数がわずか300頭ほどのマリの環境省職員は「北部は政情不安で密猟の現場に行けない。住民が密猟者になっている。アフリカゾウ基金(UNEPのプロジェクト)と対策を話し合っている。6、7月はゾウがブルキナファソとの国境を移動する時期だが、移動できていない」と言っていました。
 話を聞いてわかったことは、ゾウも密猟者も国境を越えて移動するので国家間の協力が必要だということ、また密猟は治安維持のためにも対策が急務であることです。
 またCoP17でインド政府は「アジアゾウとの共存に努力してきた、象牙取引に頼らない共存のための情報提供をする」と発言していました。『自然保護の神話と現実-アフリカ熱帯降雨林からの報告』(オーツ1999・日本語版2006)でもインドの事例をアフリカで参考にできないかと提案しています。
 2016年9月にハワイで開催されたIUCN第6回世界自然保護会議(WCC6)では、ネパールでの「密猟ゼロ」が報告されました。保護区の周辺住民による対密猟ユニットは地域外の組織と連携し、サイの密猟ゼロの記録を伸ばしています。
(参考) 
 このように「ゾウの保護には象牙の収益が必要」という主張は急速に説得力を失っています。そしてそれはCoP17の票の数でも明らかになりました。CoP17では地域コミュニティに関する発言があると拍手があり、会場を盛り上げていましたが、100を超える国々が地域社会のための国際取引であっても反対票を投じました。

●絶滅危惧種の取引で地域社会の問題を解決できるのか

 国際取引による地域社会の利益は、CITES決議8.3に明記されており、決議16.6に基づき「CITESと生計」の作業部会は、ワークショップの開催やガイドブックの作成を行ってきました。それに加えCoP17では、村落委員会の設立、生計と食糧安全保障についての提案がありました。
 村落委員会の新設(議題13)は、ナミビア、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ政府から提案されました。CITESの意思決定に村落コミュニティの意見を反映させるプロセスが必要というのが提案理由です。CITES事務局から運営資金の問題や労力の負担があることをコメントとしてつけられていました。
 また生計と食糧安全保障 (議題17) の提案国はアンティグア・バーブーダ、コートジボアール、ナミビア政府です。FAOの戦略目標の「食糧と栄養の安全保障」「文化的アイデンティティーの保全」「生計の安全」が、附属書改正基準や、種の存続を脅かさないことの確認(Non - Detriment Findings)に反映されるべきという提案です。
 反対する意見の多くは「CITESと生計」の作業部会の取り組みと重複するということでした。どちらの提案も今後の常設委員会で議論が続けられることになりました。

 これらの議題は、「地域社会」や「村落コミュニティ」が社会的弱者を含む住民の声を本当に反映する仕組みになっているのか、また時代とともに変わっていく文化や食習慣をどのようにとらえるのか、という曖昧さあります。利権を持つ人が都合良く解釈しないよう、この曖昧さをなくしていく議論が期待されます。
(参考)
CITESと生計 CoP17 Com. II. 4,5
村落委員会CoP17 Com.II.7
食糧安全保障CoP17 ComⅡ.22

 またここで疑問に思うのは、地域社会の食糧や生計や文化の問題を、絶滅危惧種の国際取引によって解決しなければいけないのか、絶滅危惧種にしてしまった反省はないのか、また他に解決法はないのかということです。

 生物多様性条約(CBD)は目的の一つに「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」を挙げる条約です。前回の締約国会議(2014年)でブッシュミート(野生動物の肉)について「(締約国は法整備にあたり)生存のための利用と密猟、野生種の試料および製品の国内取引と国際取引を区別する」(決議XII/18.para9)、「人口増加と野生生物資源への圧力の中で、野生生物の生き残りと回復のために『生存のための利用』による影響を、条約事務局は分析すること」(para 13(b))と決議しました。条約の目的に「利用」を掲げるCBDでも、地域社会による利用の中身を厳しく分けています。
 また2015年9月に採択された国連持続可能な開発目標(SDGs)には17の目標があります。目標には貧困、食糧、保健、教育などとともに海の持続可能な利用、陸の生態系保護と回復があり、一つの目標への取り組みが他の目標の達成にもつながる相乗効果が期待されています。
 相乗効果の例としてJWCSが支援しているポレポレ基金によるコンゴ民主共和国でのゴリラの保護活動を挙げることができるでしょう。ポレポレ基金は内戦の間ゴリラを食用にしていた村で活動しています。内戦で失われた学校の再建を軸に、村人の食べ物やたきぎの問題を解決し、その結果、村人に見守られてゴリラの数が回復しています。また養魚池などの取り組みを村人自身が近隣の村まで広げるまでに発展しています。
 このような地域の問題に包括的に取り組む事業がSDGsの枠組みの中で広がっていけば、絶滅危惧種を生かして利用する解決策が主流になるものと期待されます。
 さらにWCC6では、GEFによる地域社会が環境問題に取り組むための少額支援プログラム(SGP)の成果を報告がありました。少額とは直接支援の場合上限500万円程度です。前述の『自然保護の神話と現実』の中でも提案されていますが、少額でも長期に継続する資金が効果を上げるということには、JWCSの運営の経験から強く賛同するところです。
 このような「どのような場合に、どのような事業が成功し、失敗するのか」の研究を進めることが重要とCoP17に参加して感じました。「地域社会のため」という理由で、野生生物の減少という同じ失敗を繰り返さないために、地域の問題解決と野生生物の保全を両立させる事業に移行することが今求められています。
                                JWCS事務局長 鈴木希理恵

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月 9日 (水)

会議報告⑪ 10月4日 駆け足で終わった全体会合

 委員会での議論が終わり、全体会合で二つの委員会の決定を最終的に決議しました。この段階でも再決議を求めることができます。クェートからハヤブサのダウンリストが否決された件で、再議論の提案がありましたが、投票で再議論が否決されました。日本は再議論に賛成していました。
 ハヤブサに続き、ヨウムもカタールから再議論の提案がありました。今度は秘密投票により賛成28棄権3 反対104で再議論は否決されました。カタールはこの場でヨウムを留保すると発言していました。
このほかは再議論がなく、会議は1日早く終了しました。次回の開催国はスリランカです。

Web_4
会議場のあるビルからの風景。
緑が多いように見えますがこれらは庭木で、木の下には高い塀と電気柵で囲われた住宅が地平線まで続いていました。タクシーの運転手さんによると住民はショッピングモールで買い物をするとのこと。
Web_5
会議場から約30kmの所にあるクルーガーズドープ動物保護区は、住宅に囲まれていました。緑の部分は庭木です。もともとこの地に生息していたライオンやスプリングボックなどが、柵に囲われた中で管理されているところでした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«会議報告⑩ 10月3日 残りの附属書提案を一気に議論