2019年5月15日 (水)

ワシントン条約第18回締約国会議議題から 2

アンティグア・バーブーダから

海洋種を附属書に掲載すべきでないとの提案

 

 第12回締約国会議以降、ワシントン条約附属書(条約の対象として国際取引が規制される動植物種のリスト)に水生種の掲載が増えていることに対して、適切ではないという意見がアンティグア・バーブーダから提出された

 

その理由として法執行や附属書掲載種の適切な管理が困難なことを挙げている。そして附属書掲載が違法行為を促進させる例としてヨーロッパウナギを、また実行が困難な例としてヨーロッパウナギとともにメガネモチウオを挙げている。

そして現在の附属書が保全上の利益があると決するまで、また附属書の実行の適切なプロセスが導入されるまで、新たな海洋種の附属書掲載をすべきではない、と提案している。

 これに対し条約事務局は、主張の根拠が見つけられないと回答している。とくに提案書の2段落、「附属書掲載の決定にあたっては、定量可能な保全利益が得られることを確実にする明確な責任がある」については、附属書改訂の要件を決定したConf. 9.24 (Rev. CoP17) には、そのような「明確な責任」は含まれていないと反論している。

そして附属書ⅠおよびⅡの改正提案は条約第15条に締約国の主権者としての権利として定められているので、アンティグア・バーブーダの提案は推奨できないとしている。

さらに附属書の実施、とくに海洋種のように新たな利害関係者と関わるときには、能力構築のための長期ビジョンと利益が必要との考えを示している。

 

上記の提案の後に提出されたアンティグア・バーブーダからの327日付情報文書では、第18回締約国会議に向けて提案されているアオザメを取り上げている。情報文書では、海産種の附属書掲載提案についてFAOの意見とCITESでの決定を比較している。

附属書改定の議論で海産種が提案された場合、FAO専⾨家パネルは提案が附属書掲載基準を満たすか否かについて検討することになっているからである。

 一方、アオザメは、最新のIUCNレッドリストで危機(EN)にリストされた。IUCNレッドリストに比べ、国際取引規制が必要な種のCITES附属書への掲載は遅れているとの論文が発表され、IUCNレッドリストとCITES附属書を連携させるべきだとの意見(1)がある。

ちなみにアオザメについては、FAOの専門家パネル(2)CITES事務局のコメント(3)は、掲載基準を満たさないとしている。

Img_5249

(写真 第16回締約国会議(2016年)で附属書掲載が決まったオナガザメの模型。ダイビングスポットとして有名なフィリピン・マラパスクア島のおみやげ。サイドイベントで現地の人が「サメの減少は観光に打撃」と訴え、この模型を配った。)

これまでもサメの附属書掲載をめぐって議論が重ねられており、条約事務局は過去の経緯をウェブサイトにまとめている(JWCSによる和訳)。今回のアンティグア・バーブーダからの提案と、アオザメの附属書Ⅱ掲載提案は、絶滅のおそれのある漁業対象種の国際取引の規制を改めて議論する場になる。

 (鈴木希理恵)

(1) Eyal G. Frank, David S. Wilcove (2019) Long delays in banning trade in threatened species  Science 15 Feb 2019 Vol. 363, Issue 6428, pp. 686-688

(2) Sixth FAO Expert Advisory Panel for The Assessment of Proposals to Amend Appendicesandof CITES Concerning Commercially-Exploited Aquatic Species   P5

(3) CoP18 Doc. 105.1Annex 1

 

 

| | コメント (0)

ワシントン条約第18回締約国会議議題から 1

「国際取引したい」派から条約の見直しの提案

 

 およそ3年に1度のワシントン条約第18回締約国会議が、今年開催される予定で、締約国からの提案が条約事務局のウェブサイトに公開されている。ただし、開催予定地のスリランカ・コロンボでの爆弾テロ事件の影響で延期になっている。(写真 2018年10月にロシア・ソチで開催されたワシントン条約第70回常設委員会でのスリランカ政府による次回締約国会議の予告イベント)

2018sc70

 締約国会議では、条約の長期にわたる方針や解釈に関する「決議(Resolution)」、次の締約国会議までに委員会や事務局が実行することなどを決める「決定(Decision)」、そして条約の対象として国際取引が規制される動植物種を決める「附属書の改定」が行われる。

 ワシントン条約において議論が対立するのは、簡単に言えば「野生動植物を国際取引したい」側と、「国際取引による種の絶滅を防ぎたい」側の主張である。

 例えば今回の第18回締約国会議では、「野生動植物を国際取引したい」側から、現状を変えたいと条約の見直しの提案が提出された。(CoP18 Doc.11

 提出したのはコンゴ民主共和国(DRC)、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエである。

 ナミビアは自国のミナミシロサイを、またボツワナ、ナミビア、ジンバブエはアフリカゾウの取引規制の緩和を第18回締約国会議に提案している。コンゴ民主共和国は、附属書Ⅱ(国際取引が絶滅に無害であると証明されれば可能)のハネナガインコ、ヨウム、ヒョウモンガメ、センザンコウに関して、条約に従った国際取引ができないと判断され、条約事務局から締約国に対し、国際取引をしないよう勧告が出されている。

 提案書では条約見直しの理由として、以下の理由が挙げられている。(正確な内容は原文を参照のこと)

・・・・・・・・・・・

条約の見直しは1994年に1度行われたきりである。その見直しの中心は戦略ビジョンの決議や他の条約との連携などであった(2段落)。 

生物多様性条約COP7で採択された、生物多様性の持続可能な利用のための原則とガイドライン(アディスアベバ原則)はCITESでも決議されている(Resolution Conf.13.2  (rev.CoP14))(JWCSによる和訳

それにもかかわらず持続可能な利用の統一された解釈が決議されていない。そのため附属書ⅠをⅡに格下げするときは、分裂的で感情的な議論が会議を支配する傾向にあり、格下げ提案はしばしば否決される。

その例としてCoP7から17までのアフリカゾウの南部アフリカ個体群が挙げられる。附属書Ⅱに格下げされた個体群に対する複雑な注釈、そして象牙は別扱い。取引再開の意思決定メカニズムは否決され、象牙取引提案の一時停止決定は条約本文にある締約国の権利と衝突する。

最も悪いことは、CITESにおいては結果がなく、説明責任がなく、救済がないことである。(12段落)

アフリカのサイ2種の違法取引は続いている。サイの角の価格は確実に上がっており、サイの保護費用も急上昇している。持続可能なサイの角で保護の費用を賄い、違法取引を弱体化させる規制された取引について、多くの締約国、そして経験や知識のない批評家や自称専門家は、これまで十分に議論してこなかった。(13段落)

良く規制された観光狩猟のおもな対象種である南部アフリカのライオンやヒョウは、附属書Ⅰに格上げ、取引割り当ての取り消しまたは減少という、南部アフリカ地域以外からの提案の標的になった。これらの提案の根拠は南部アフリカ以外の種の減少に焦点を当てていた。明らかにNGO主導である南部地域の保護プログラムの影響は正当に考慮されていない。(14段落)

20年以上備蓄された象牙やサイの角は、セキュリティ保持のため経費がかかり、品質はだんだん悪化していく。

野生生物資源からの経済的価値が実現せず、村落コミュニテイは種の保護プログラムから利益を得る機会を奪われた。皮肉なことに国際取引提案に反対した国や組織からの援助に依存するようになった。政治に関心のある人はこれを新帝国主義、新植民地主義と呼ぶかもしれない。CITESは間違いなく貧困層に配慮していない。(15段落)

持続可能な利用に関する決定は、完全に誤っている。附属書Ⅱへの掲載のプラス効果に理解を得るための教育を事務局はしてこなかった。(16段落)

またGATT1994)は途上国に有利な紛争解決メカニズムがあったので、GATTの後の組織であるWTOの加盟国はそれを遵守する義務がある、としている。

・・・・・・・・・・・

この提案に対し、CITES事務局は、199497年の見直しの後、人口、経済、貿易のパターンが変わった、現在もCITESWTOと協調しているなどと反論している。

 

 提案書からは「国際取引したい」派のいら立ちが伝わってくる。一方で「よく管理された狩猟」の究極である、飼育したライオンなどを撃たせるキャンドハンティング(=缶詰狩猟)への批判、観光狩猟を試したが適切な制度ではなかったため中断しているケニア(SC70 Doc. 15 P11)、剥製にして見栄えのするオスの個体を選択的に狩猟することでの個体群への影響(MILNER 2006)、フェアトレードと結びついた村落の生業支援の動きがあるがそれも「新植民地主義」なのか、など、この提案書では考慮されていない事実がいくつもある。この議題について締約国会議でどのような意見が出るのかを注目している。

(鈴木希理恵)

| | コメント (0)

«生物多様性と持続可能な消費・生産(後編)地域の自立が絶滅危惧種の保護につながる