2017年1月12日 (木)

日本におけるスローロリスのペット取引についての論文に対するコメント

日本におけるスローロリスのペット取引の論文
 2014年5月に英国のオックスフォード・ブルックス大学大学院生で、スローロリスの保全に取り組むLittle Fireface Projectのメンバーであるルイーザ・ミュージンさんが来日し、JWCSと共同で日本におけるスローロリスの販売状況を調査しました。
 この調査を元にしたルイーザさんの修士論文が、2016年2月1日にIUCN 種の保存委員会 アジア霊長類ジャーナルに掲載されました。
この論文に対し東京女子大学石井信夫教授からコメントをいただきましたので、それに関する応答を掲載します
東京女子大学 石井信夫様
                                      2016年7月22日
特定非営利活動法人野生生物保全論研究会 事務局長鈴木希理恵
拝啓時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 私が共同執筆者となっている論文(Crossing international borders: the trade of slow lorises, Nycticebus spp., as pets in Japan )についてコメントをいただき、ありがとうございました。先月、同じく共同執筆者のオックスフォードブルックス大学教授のアンナ・ネカリス氏が来日し、この論文に関する事実関係を確認いたしましたので以下にご報告いたします。
 なお、この論文に関する調査に当会は業務として協力しており、会員への活動報告義務の一環としてこの書簡を公開してよろしいでしょうか。ご協力をお願いいたします。
                                             敬具
上記の書簡に対し、公開用に再コメントをいただきましたので、下記に添付します。
石井信夫氏からの再コメント(PDF)
上記の再コメントについて
1-1)自然研による登録票の発給件数について
 2014年5月の調査当時、自然環境研究センターに電話で問い合わせたところ答えられないとの返答があったため、調査することができませんでした。2016年6月27日に環境省野生生物課、自然環境研究センター、ネカリス氏、鈴木らで意見交換を行った時質問したところ、登録票の発給に関するデータは野生生物課から公開できる場合があるとの返答がありました。今後、公開されるデータを研究に使用します。
1-2)輸入統計について
 (情報)CITESデータ―ベースの輸入統計はCITES事務局のホームページで検索できます。 https://trade.cites.org/
CITES Trade databaseに基づくスローロリス属の生体の日本への合法輸入頭数の経年変化は、JWCSのウェブサイトに掲載しています。
下記の部分について「「種の保存法」と「外為法」とが混同されていて、「種の保存法」が制定された 1992 年まで条約履行に係る国内法がなかったとの記述があり、その点についても訂正が必要」という指摘
In 1980 Japan joined CITES as a Party, yet it continues to list reservations (Mofson, 1994; Takahashi, 2009), and it was not until 1992 that Japan implemented The Law for the Conservation of Endangered Species of Wild Fauna and Flora (LCES) in line with CITES regulation (Knight, 2007). This legislation has moreover been criticised for its limited commitment to CITES, including a lack of communication regarding wildlife trade matters and weak control on imports (Reeve, 2002). However, the import and distribution of slow lorises is also prohibited by Japanese national legislation: the Customs Act, the Foreign Exchange and Foreign Trade Act, the Endangered Species Act and the Invasive Diseases Act, and perpetrators are in violation of these laws.
種の保存法制定までに以下の経緯がありました。
1980年 日本がCITESに批准。
既存の「関税法」第70条 (他の法令に対する証明または確認)および「外為法」 第54条 (通産大臣(当時)は税関長に対する指揮監督ができる)で国内措置が担保できるとした。
1985年 国内法の再調整 輸入貿易管理令の改正
1992年 「種の保存法」制定 国際希少野生動植物種に係る規制として輸出入時の承認が義務づけられる(第15条2項)
このような法整備された背景に、日本に対して一時的な措置であるはずの留保をいつまでも撤回しなかったことを含め、ワシントン条約の履行を適切に行っていないという国際的な批判がありました。
論文では、この国際的な批判があったことを踏まえて「種の保存法制定までCITESの法規に調和した国内法がなかった」と述べています。そして種の保存法の問題を指摘する意見があるものの、種の保存法だけでなく外為法を含む複数の法律でスローロリスの輸入と流通が禁止されていると述べています。
 そのためこの記載を訂正する必要はないと考えます。
1-3),4)登録票等の表記について
■ 「Registration」とすべきところを「Permit」とした部分および、輸入差止等実績を集計する税関の所轄官庁を「財務省」とすべきところを「経済産業省」とした部分を訂正します。
■ 種の保存法の罰則について記載したP.19 冒頭部分は2007年および2009年の論文の引用です。
Under current Japanese legislation, penalties imposed upon those involved in illegal trade or non-compliance with CITES regulation are weak. Fines of less than~USD 2,600 are given for falsified permits and less than ~USD 40,000 is set for wildlife smuggling along with an occasional short prison sentence; moreover court cases are regularly dismissed (Sakamoto, 2007, 2009).
2014年の調査当時、罰則強化を含む種の保存法の改正は認識していましたが、日本政府による公式サイト「Japanese Law Translation」が更新されておらず、当時はこれが英語で日本の法律を査読者が確認できる公式に公開されたものでした。法改正後の内容を加えた論文の訂正を行います。また2016年6月27日の環境省野生生物課との意見交換の時に、ウェブサイトの更新を申し入れました。
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Japanese Law Translation
(例2016年10月21日確認)
(なお、2016年1月に開催されたワシントン条約常設委員会に向け日本政府が提出した書類の中に罰則の強化が書かれました。2015.11.27付)
Japan’s report on control of trade in elephant ivory and ivory marke   P4
1-5)輸入差止
 この論文に使用した「ワシントン条約該当物品不正輸入差止等実績」に基づくデータは、当会が以前より情報公開請求により入手していたものです。附属書Ⅰ掲載後の評価については、同じ調査を日本向けに執筆した、「スローロリス属の販売状況からみた絶滅のおそれのある外国産野生動物ペットをめぐる問題」Wildlife Forum Spring/Summer 2015 (「野生生物と社会」学会発行)にて、国内取引規制の効果および附属書Ⅱ掲載種の対応では密輸は防げないことを示す事例と評価しています。
1-6)飼育繁殖
 動物園等以外の個人が飼育繁殖している事例は日本でしかみられません。2014年の調査では、日本国内での飼育繁殖状況を明らかにできなかったため、すでに発表されていた論文を引用しました。
2016年6月のネカリス氏の来日時には、日本のブリーダーと獣医師にヒアリングを行いました。あるブリーダーはピグミースローロリスの繁殖は2010年から成功するようになったが、他の種は難しいと述べていました。
 ペットのスローロリスは、ケージで飼育されるため交尾の時につかまる枝がない、繁殖ペアになるには相性があるという繁殖のための条件が満たされにくいほか、糖分の多いエサによる糖尿病、家畜の肉の食べ過ぎによる腎臓病、つかまる木がなく床に置かれることによる床ずれ、夜行性にもかかわらず明るい環境下におかれるためのストレス等、飼育技術が知られていないため過酷な飼育環境下に置かれていることが別の研究(Nekaris 2015)で明らかになっています。日本では動物園で飼育技術が確立しつつある段階にあり、スローロリスの飼育繁殖技術を持つ個人は限られると考えられます。
 2014年のペットショップ調査で18個体、2016年6月の調査で2個体のスローロリスの店頭販売を確認しましたが、飼育繁殖を示す登録票は一つもありませんでした。その中には、幼獣特有の体毛をもつ若いジャワスローロリスが規制前取得の登録票と共に販売されていました。附属書Ⅰ掲載(2007年9月13日)前に生まれた個体は2014年当時6歳以上の成体のはずです。この違法販売が立件されれば、ジャワスローロリスの国内での個人による飼育繁殖もしくは密輸の実態が明らかになるものと期待されます。
Nekaris K.A.I. ・ Musing L. ・ Vazquez A.G. ・ Donati G.(2015)Is Tickling Torture? Assessing Welfare towards Slow Lorises ( Nycticebus spp.) within Web 2.0 VideosFolia Primatol2015;86:534-551 (DOI:10.1159/000444231)
1-7)野生のスローロリスへの影響
 「スローロリス類の絶滅のおそれを高めている要因として、生息地の破壊とペット取引目的の捕獲があげられているが、前者の要因についての具体的言及がなく、後者の要因に日本がどれだけ関わっているかの評価がない」との指摘について
本論文は日本におけるスローロリス属の違法取引に焦点を当て執筆しました。これはアジアの霊長類の専門誌である掲載誌の意向です。
 ペット取引目的の捕獲と日本との関係は不明ですが、断片的な情報があります。ジャワスローロリスについては、インドネシアの市場で日本人が買い付けに来たなどの情報があります。
 附属書Ⅰの規制前(2007年9月13日以前)に税関で押収されその後動物園等で飼育されているスローロリスの多くはピグミースローロリスで、現在日本の動物園で飼育されているジャワスローロリスは4個体しかありません。2014年の調査では5個体のジャワスローロリスが同じ店舗で売られ、そのうち1個体は幼獣特有の体毛であり、2016年にも1歳とみられるジャワスローロリス1個体が販売されていました。これらのジャワスローロリスは規制6年後の同じ日に登録した登録票がついており、番号から推察すると14個体のスローロリスが同日に登録された可能性があります。今後、流通経路及び国内繁殖個体の違法販売について捜査が進むことを期待しています。
8)「日本が多くの野生生物取引に関わっていること、留保があること、罰則が緩いこと(誤り)など本件に直接関係のない記述があり、さらに日本の事例ではないのに、野外捕獲個体を飼育繁殖個体と偽る例があること、税関職員が腐敗していること(日本では考えられない)、偽の許可証が用いられること(同左)などをあげて、あたかも日本では違法な取引が横行しているかのような印象を与えようとしている」との指摘について
■ スローロリス属の中でも最も絶滅の危険の高いジャワスローロリスは、原産国のインドネシアでは1973年から保護動物に指定されています(Decree No. 66 1973 of Ministry of Agriculture)。The CITES Trade Databaseにおいてもインドネシアからの輸出またはインドネシアを原産国とするスローロリス属の生体が日本に合法的に輸入された記録はありません。しかし2014年、2016年の当会による調査ではジャワスローロリスの販売を確認しています。日本にジャワスローロリスが存在することは、税関で差し止められなかった個体があることを示しています。
■ The CITES Trade Databaseに記録された日本への生きたスローロリス属の輸出は1999年が最後であり、1999年は感染症予防法により研究機関・動物園以外のサルの輸入が禁止された年でもあります。知人の獣医師によると、日本でペット飼育されているスローロリスの寿命は15年程度です。そのため、現在個人が所有しているスローロリスのうち、国内繁殖以外の個体の大半は税関で差し止められず、合法的に輸入されなかった個体であると言えます。
つまり税関でスローロリスが多数差し止められていた時期に、差し止められずに国内に持ち込まれた個体が多く存在していたことから、附属書Ⅰ掲載後に差し止め数がほとんどなくなったことを理由に、差し止められずに国内に持ち込まれる個体が全くなくなったと考えることは合理的ではありません。
また2014年の調査で発見した登録票の表記より若い個体が販売されていた件を、2014年5月29日付で環境省野生生物課と警視庁に報告しましたが、立件には至りませんでした。警視庁の担当者によると、現在の登録票では裁判所に提出する個体識別の証拠としては不十分で、種の保存法を根拠とした立件は難しいとのことでした。これらの現状から法規制の弱さを2014年の法改正時の際に当会は指摘しました。
(補足)登録票を備え付けていない販売目的の陳列や、登録票不備の譲渡し(種の保存法第21条)が30万円以下の罰金のみ(第63条)です。違法行為を発見しやすいのは店頭での陳列や売買の現場であること、スローロリス1頭に100万円以上の値段が付けられていることを考えると法規制が弱いと言えます。
 ネカリス氏は世界の動物園で飼育されているスローロリスの情報を集積しています。日本では輸入が差止められた個体を動物園が寄託管理しているため、世界でのスローロリスの取引ルートの解明に寄与すると期待されます。
 なお、「ワシントン条約該当物品不正輸入差止等実績」により、原産国と輸出国が明らかになることもあります。
 種の保存法改正
2016年6月16日から10月13日まで「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存につき講ずべき措置今後のあり方検討会(以下、あり方検討会)」が5回開催され、当会は全回を傍聴しました。検討会は11月17日に開催される中央環境審議会環境部会野生生物小委員会に答申がありました。
 当会はこれまでのペット取引調査の結果を踏まえ、意見を提出する予定です。とくに裁判で求められる個体の識別については、2014年の法改正に係るパブリックコメント時に2014年5月2日付で「種の保存法施行規則等の改正案に関する意見」を提出しています。その意見では、スローロリスのDNA の研究をされている方から助言をいただき、生きた哺乳類の場合は根毛のついた毛をDNAサンプルとして遮光した密閉袋に入れ、関係書類とともに登録機関が保管することを提案しました。このDNAサンプルから親子関係が判明し、申請書の内容に虚偽があるかどうかの証拠にすることができます。
ここで述べた種の保存法の問題点は、2017年1月11日まで募集しているパブリックコメントに提案しました。
パブリックコメント(PDF) http://www.jwcs.org/data/LCES2017JWCS.pdf
                                             以上
Crossing international borders: the trade of slow lorises, Nycticebus spp., as pets in Japan

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2016年12月28日 (水)

CBD COP13印象記

生物多様性条約第13回締約国会議(CBD-COP13)は、前回の平昌(韓国)と違い、暖かいカンクン(メキシコ)で12月4日~17日(ハイレベルセグメントは12月2、3日開催)に開催されました。
今回は、生物多様性条約、カルタヘナ議定書、名古屋議定書の会議が期間中に開催されていました。私は12月12日~17日まで参加してきました。

Cbdcop13

会議に参加した時には、ワーキンググループ2では侵略的外来種、第8条j項、EBSA(生態学的、生物学的に重要な海域)、合成生物学の議題が行われていました。
CBDでは、会議の他にも展示やサイドベントが行われております。
サイドイベントは午前と午後の会議の合間、午後の会議後にサイドイベントが同時並行的に10前後行われています。また会議中に行われるイベントもあります。
CITES同様、サイドイベントの報告では地域コミュニティについての重要性が感じられました。
ただ、CITESと違うのは、CITESでは種を中心にしていますが、CBDでは特定の種の動物というわけではなく全ての生物に関わっているということです。そのため、農業に関する報告もあれば、海洋に関する報告もあります。
「持続可能な野生生物管理における男女の役割」についてのサイドイベントでは、野生生物管理の現場には女性の参加率が上がっている事例や、livelihood(生計)の中での男女がどのように野生生物と関わる可能性があり、持続可能な野生生物利用などの報告がありました。
今回参加したサイドイベントには、野生生物管理に関連するものはあまりなく、伝統的な知識に関連する報告などは見ることができました。今回の会議がメキシコということもあり、中南米の報告なども多かったように感じました。
CITESとCBDという、一見同じ生き物に関わる条約なので、関わっている人も重なるように思いますが、実際に参加してみると、別な感じを受けました。
CITESには動物好きな人が多い印象を受けますが、CBDには自然環境好きの人が多く参加しているように思います。またCBDには、ビジネスセクターからの参加も多いように感じす。
CBDの議題の決定文書には、CITESに関わる文言が含まれていますので、今後、その文言がどのような意味を持つのかということも関心を持って、見ていく必要があるように思います。
またCBDが、ただの文書作りの場にならず、決定された文書に沿って、文書を作成した責任を持ち、各締約国が実行していくことに注目していきたいです。
高橋雄一

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